13
「私はな、彼はこの塔には必要だった人材だと思っている。ここにはまっとうな騎士らしい堅物どもしかいない。騎士では無いが、それは私も含めてのことだがな。シアンのような系統的にも性格的にも畑違いの存在は、出会おうとしても難しい。だから我々にとっては貴重なのではないかと思うのだ」
その話に納得しかけながらも、リュエルは「でも」と小さく呟く。オロフはその主張を遮って首を振った。
「リュエル。彼のことを心配しすぎるのは良くない。人にはそれぞれ自由がある。たとえ選んだ道に毒の花が咲き乱れていても、だ」
「……。オロフ様がそうおっしゃるなら……」
そうは言いつつも、やはりどこか納得がいかないリュエルは、顔をうっすらと染めたまま俯いた。
ややあってから、その耳に神妙になった低い声が届く。
「いや、しかし私にも理解はできるよ。お前の気持ちは」
「……?」
言われた当人のリュエルが首を傾げる。顔を上げると、友か父のように限りなく優しい目をしたオロフがこちらを見つめていた。
「彼は王子に似すぎている。世界には三人、自分とそっくりな人間がいるとは言うが……彼は声や背格好までよく似ている。全く性格が違うとはいえ、こうまで外見が酷似していると……な」
オロフは、今はいないシアンの風貌を思い出す間、唇の動きを遅くする。
「……そうだな。私もうっかり不思議な錯覚に陥ってしまったよ。まるで、今は亡きレグリス王子と話をしているような……。きっと騎士たちもそうなのだろう。だから逆に敵意を剥き出しにするのだろう」
悪意は無かったのだが、その言葉はリュエルの心を強くえぐることになった。唇を噛む。
オロフは、小さく震える弟子の肩をぽんと叩いた。
「リュエル。自分を責めるな。王子を助けられなかったのはお前だけではない。生き残った王国の皆があの時のことを悔やんでいる」
まるで、ずっとその話題を待っていたかのように、リュエルの声は弾けたように、悲痛に飛び出した。
「でも! 私はあの時、レグリス様と一緒にいたんです! 目の前で、崩れた城から炎の城下町へ落ちていくのを見ていたんです……!」
リュエルの脳裏にはまた蘇っていた。美しい星々の下の全てを黒く焦がす紅蓮の舞踊を。
それでもオロフは首を振った。
「あのときのお前には何もできはしなかった。お前だって煙に撒かれて命を落としかけていたんだ。それになにより幼かった。トゥキに感謝するといい。私が瓦礫となった城でお前を見つけ、助けられたのは、煙や炎に炙られ黒焦げになりかけながらも、主を助けようと必至にあたりを鳴きながら駆け回っていたトゥキのおかげだ。そうでなければ、今頃お前はこの世にいない」
話を聞いていたのか、偶然か、トゥキが部屋のどこかから出て来て、慰めるかのように主の足首に近寄って鼻を摺り寄せた。冷たく濡れた感触がリュエルの肌を滑る。
「それに全ての根源はマティアスだ。あやつを止め、討つ。自責よりなにより、それこそが王国の者への弔いとなるだろう」
「……はい」
リュエルの頬に伝い落ちるものがあった。それは断続的に静かに胸元を濡らす。
すっかり日の落ちた闇の中で、塔の最上部の穴をくぐった風が、また笛のような奇妙な音を立てている。それは誰かの声にしない悲鳴のようにも、今は聞こえた。




