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哀の千年闇士  作者: ふぇんねる
三章 古木(こぼく)の塔
35/84

 長い螺旋の廊下に沿って上り、ようやく通常の建物ならば四階か五階に位置するだろう高さにまで辿り着く。


「シアン殿はここを使うといい」


 そう言ってオロフが開けた部屋は簡素で広くは無いが、個室で、小奇麗な部屋だった。ベッドがひとつ、小机と椅子が一揃い。それに塔に作りつけた戸棚まである。日当たりも悪くない。中に入ったシアンは一通り見回すと長いため息を落とした。


「はー。良い部屋だね」

「私はこの二階上の部屋ですから、何かありましたら訪ねて来て下さいね」

「うん、わかった」


 ベッドのそばに荷物と弓を下ろして、シアンは部屋をもう一回り眺めた。これが魔術でできた部屋なのかと感心している様子だ。奥ではオロフがシアンのために窓を少し開ける。涼風がひゅるりと入り込んだ。


「今日はリュエルが帰った。それに新しい仲間、君も加わってくれた。夜は外で、ささやかだが祝いの宴を開くつもりでいる」

「それは楽しみだなあ、じゃあ俺、腕振るっちゃおうかなー」

「そういや君はさっき、料理が得意だと言っていたな」


 オロフとシアンがそんな話をしていると、騎士が一人、ことりと靴音を立てて扉の向うに姿を見せた。体格は遥かにシアンに勝るが、年頃は同じか少し上なくらいだ。元は白かっただろう肌が無理に日焼けして赤黒くなっている。いい意味でも悪い意味でも真面目そうな精悍な男だ。オロフがいるからだろうか。何か用がありそうだが、遠慮したように陰に隠れた。

 オロフがその理由に気が付いたらしい。


「……ああ、シアン、ここでは誰もが何かの役割につくことになっているんだ。ちなみにリュエルは目が利くので、ここにいる間は見張り台に立ってもらっている。君は……」


 そう言ってオロフが「ああ」と微笑んだ。


「君には炊事係を頼むよ。ここにいる騎士たちはあまり料理が得意ではなくて、いつも同じ物ばかりで飽きていたところだ」

「りょーかい。じゃあその、宴に出す料理、早速手伝ってくるわーって調理場どこ?」

「そこにいる彼も炊事担当だ」


 オロフは扉の向うの若い騎士を示す。それで突然三人の注目を浴びた騎士は、慌てた様子で姿勢を正した。

 シアンはリュエルにもそうだったように、もう馴れ馴れしい口をきく。


「えーと、あんた誰?」

「ハ、ハイゼだ」

「そう、よろしく! 調理場は?」

「い、一階だ」

「じゃ早速行こう。ハイゼ。あ、リュエル、塔のことは後で聞きにいくよ。まずは仕事憶えて来るからさー」


 たじろくハイゼには目もくれずに、シアンはさっさと部屋を出て下りていこうとする。置いていかれそうなハイゼが、慌てている。


「ああ、待ってくれ! ……。え、ええと……君の事はなんと呼んだら……?」


 本来なら亡国の騎士とはいえ、ハンター風情のシアンよりもハイゼの方が遥かに身分が高いのだ。さっきシアンの自己紹介は済んでいるのだし、何も気にする必要は無いのだが、戸惑うということは、ハイゼもレグリス王子の事が頭をちらついているのだろう。彼は騎士の中でも、城務めを主にする警備兵だったので、王子との距離も近かったから余計に。リュエルはそう思った。


「別にシアンでいいよ?」


 シアンはあっさりそう言うと、うきうきと楽しそうに跳ねながら、本当にハイゼを置いていってしまった。


「シ、シアン……待っ……」


 ハイゼがどたどたとその後を追っていった。


「本当に、せわしない人です……シアンは」


 呆れるリュエルの隣では、オロフが少し感心していた。


「嬉しそうだったな。料理が趣味だと言っていたのは本当だったのか」

「ええ、シアンは旅で立ち寄った土地の香草や香辛料を持ち歩いているくらいですよ。でも、彼が言うとなんだか、なんでも冗談に聞こえてしまう。あれ、なんとかなりませんかね? それに騒がしくて困ります」


 深いため息をつくリュエルを見て、オロフは微笑んだ。


「なんにせよ、これからはこの塔も賑やかになりそうだ」





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