放浪の旅
さて、海の底にある龍宮城から地上へと帰ってきたオニ太郎。
ここまで送ってきてくれた大きなカメに別れを告げると、さっそく強いもんを探して歩き始めた。
じゃが、犬が歩いて棒に当たるがごとく、そうそう強いもんに出会うたりはせん。
しょうがないので、人々の噂を頼りに、あっちへフラフラ、こっちへブラブラと旅を続けた。そうして、ちまたに出没する暴漢やら暴れ者やらを倒して回っとった。
おかげで喰うには困らんかった。
「ありがとうごぜぇます!ありがとうごぜぇますだ!」
「悪もんをこらしめてくれたお礼。何かさせてくださいませ」
「何もございませんが、せめて飯でも喰うていってくだされ」
などと各地の住民に感謝され、その日に寝るところや喰うもんくらいは、いくらでも与えてもらえた。
仮に、そういうもんがのうても、なぁんも困らんかった。昔みたいに、その辺で眠り、野山の獣やら魚やらを捕って喰やぁよかったんじゃ。オニ太郎は、そういうのには慣れとった。
元々の強さに加えて、龍宮城での鍛錬の日々が、オニ太郎にさらなる力を与えてくれとった。
おかげで、誰にも負けはせんかった。大抵の相手はひとひねりじゃ。次から次へと、ホイホイと投げ飛ばしてゆく。自慢の武器を使う必要さえありゃせんかった。龍王様にいただいた巨大な貝の殻でできた棍棒じゃ。
そんな風に旅をしながら戦い続けておると、自然と「弟子にしてくれ」という者も増えてゆく。
「なんとお強いお方!」
「どうぞ私めを弟子にしてください!」
「身の回りの世話など、なんでもいたしますので。なにとぞ!なにとぞ!」
などと頭を下げてくるもんも多かった。
オニ太郎は、それらを片っ端から全部断った。オニ太郎は、ただ強いもんと戦いたかっただけで、弟子が欲しかったわけじゃぁねぇ。大抵は足手まといになるだけじゃったし、1人で旅をする方が気楽だったからじゃ。それに、前みたいにまた仲間が増えたと思うたら、ある日突然滅ぼされてみんな失のうてしまう。そういうのが嫌じゃった。
それでも、しつこくつきまとってくるもんはおるもんじゃ。そういう輩は、後から後から増えていって、いつの間にやらゾロゾロとオニ太郎の後ろを何人もついて回るようになっておった。
オニ太郎はそんな者らを放っておいた。
「そんなについてきたいと言うなら好きにするがええ。ただ、わしは知らん」
そう言うて、何も教えんかった。それでも、オニ太郎の後を追いかけてゾロゾロと強者どもが歩いてゆく。
いつしか、その光景は大名行列みたいになっておった。




