足柄山の金太郎
ゾロゾロゾロゾロとオニ太郎のあとをついてくる“自称弟子”たち。
オニ太郎は、そんな者どもに嫌気が差しておった。
「これじゃあ、まともに修業に打ちこめんわい。わしゃあ、ひとりの方が気が楽じゃ。そうじゃ!逃げ出しちゃろう!」
そう思うたが早いか、オニ太郎はかけ出した。
トットコトットコかけてゆく。すぐに、他のもんらも追っかけてくるが、さすがに鍛え方が違う。オニ太郎との差は徐々に広がってゆき、ついに誰も追いつけんようになった。
「ハァ…ハァ…ハァ…」と、息を切らす弟子たち。
「待ってくだせぇ!オニ太郎様!待ってくだせぇ!」と声の限りに叫んで、呼び止めようとするが、オニ太郎はもう地平線の彼方に消え去ろうとしておった。
そうして、こんな風に遠くから返事が聞こえてきただけじゃった。
「わしの弟子になりたくば、せめてこんくらいの距離は走れるようになってからこい!すべてはそれからじゃ!」
こうして、オニ太郎はうまい具合に弟子たちを振り切った。
*
さて、そのままトットコかけ続けたオニ太郎。
ついに、箱根の山の前までたどりついた。そこは、地元の民からは“足柄山”と呼ばれておった。
「ほお~」と一息、感嘆のため息をつくオニ太郎。
「これはこれは…修業するには、ちょうどよさそうな山じゃわい。しばらく、この山ん中で暮らすとするかな」
そう言うて、山奥深くまで入り込んでゆく。
ところが、この山には先客がおった。
名を金太郎という。のちの坂田金時である。“金太郎アメ”や、かき氷の種類でも有名になる。じゃが、この時代には、まだそげんもんはありゃせんかった。
オニ太郎が、山ん中に入っていくと、切り株の側に腹を出して寝転んどる男がおった。
グ~スカピ~と気持ちよさそうに眠っておる。
「なんじゃあ、コイツは!?この山に住む化け物か?妖怪か?」と、オニ太郎は声を上げた。
すると、山に住んどるキツネが現われて言った。
「金太郎!金太郎!不審者じゃ!不審者が現われたぞ!」
けんど、気持ちよさげに眠っておる金太郎は、全く目を覚まそうとはせん。
「そうか。コイツ、金太郎ちゅう名前か…」と、オニ太郎は感心する。
そこに、森に住んどるクマもやって来て、金太郎の体をユサユサとゆさぶった。
「金太郎!金太郎!怪しいもんがおるぞ!はよ、目を覚まさんかい!」
それでも、金太郎は寝言を言うて寝返りをうっただけじゃった。
「ムニャムニャ…まだ寝足りんぞ。もうちょい寝かせてくれ」
さらに、森ん中に住んどるヤマバトも飛んできた。
そうして、金太郎の目ん玉をまぶたの上からつっついた。
「金太郎!金太郎!はよ、起きんさい!起きんと、お前やられてしまうぞ!」
それで、ようやく金太郎は目を覚ました。
「フワ~、よう寝た。昨日も今日もよう寝た。よう寝た。きっと、明日もよう寝るじゃろう。寝る子は育つじゃ」
それを聞いて、オニ太郎はこう言うた。
「わしゃぁ、何も悪いことはせん。ただ、ちょっとこの山で修業させてもらおうと思うただけじゃ」
じゃが、金太郎は寝ぼけておって、そんな話は耳に入ってこん。
「嘘じゃ!嘘じゃ!またオイラをイジメに来たな!この山を奪いに来おったな!この性悪人間が!どうしても山が欲しいなら、オイラと勝負せえ!もし、オイラが負けたら素直に出ていってやる!」
オニ太郎が何を言うても、金太郎は聞かんかった。
「しゃあない。ここは1つ勝負してやるか。これも、ええ修業になるじゃろう」
こうして、オニ太郎はこの山の所有権を賭けて金太郎と勝負することになったのじゃった。




