戦いの結末
それからも、体中を切り傷だらけ血だらけになりながら、オニ太郎は戦い続けたのじゃ。
じゃが、もはや戦いの行方は決しておった。
能力差もさることながら、精神的に完全に差がついておった。常にゆとりを持って、その表情に笑みすら浮かべながら戦っておった桃太郎。それに対して、オニ太郎の方は真剣そのもの。その真剣さがかえって仇となっておったのじゃ。
「ここまでか…」
オニ太郎は諦めかけた。命を諦めかけ、人生を諦めかけ、勝利することを諦めかけた。
じゃが、体はそうじゃぁなかった。心の中じゃ「もうダメじゃ」と思うとったし、頭の中はカラッポじゃったが、体だけはそうじゃぁなかった。何も感じずとも、何も考えずとも、自然と体は動いた。
そうして、気がついたら走り出しとった。
そう!
オニ太郎は逃げ出したのじゃ。何もかもをほっぽり出して、逃走したんじゃ。
走って逃げるオニ太郎の後ろから、桃太郎のこんな声が聞こえてきた。
「なんじゃ。情けない奴じゃ。思ったよりも歯ごたえがなかったなぁ。仲間を置いて逃げ出すとは。鬼ヶ島の鬼とは、こんなに情けない奴じゃったとは。悔しかったら、戻ってきて勝負せい!」
じゃが、オニ太郎は聞かんかった。
桃太郎の煽り文句を背後に、かけ抜けた。ひたすらに、ひたすらに逃げ続けた。
そうして、最後には島の端までやって来て、ポ~ッンと体を海の中へと投げ出した。
「負けじゃ!負けじゃ!わしの負けじゃ!」
海ん中でオニ太郎はそう叫んだ。
それから、プカプカと海面にただよっておったかと思うたら、そのままどこへやら流されていってしもうたのじゃった。
*
後に残されたオニ太郎の配下のもんらは、あきれるやら悲しむやら。
そんなもんらを、桃太郎は片っ端から討ち倒し、縄で縛り上げてしもうた。
「ガッハッハ!どうじゃ!どうじゃ!見たか!見たか!これぞ、日本一の桃太郎様の力じゃ!」
桃太郎は、さも楽しげにそう叫んだ。
そうして、島にため込んであった食料やら金銀財宝やらを何から何まで全部奪い、船に乗せて凱旋していったのじゃ。
その後、オニ太郎のもとで働いておったもんらは、桃太郎に連れ去れた後、その鍛冶やら造船技術やらを生かして、この国の発展に尽くしたということじゃが、それはまた別のお話じゃ。