駆除業者に内定
人
北海道だけの問題じゃなく、各地様々な場所で巨大化したセミは現れた。ニュースで女子アナが言ってる。
ただ、大阪や東京にはまだいないらしい。なのではっきり言って他人事だ。昆虫学者が偉そうに解説してたが、難しい言葉を使いすぎて何言ってるか分からなかった。
北海道のセミを退治した自衛隊の人のインタビューのが分かりやすかった。
「耳栓、ガスマスクと完全防備で行ったんですが、大きな音を出すだけで毒とかはもってなさそうでしたね。銃を一発当てたら倒れたんで、防御力もこちらが思ってた程ではない」
インタビュー映像後セミの動画をバックにナレーションが
『また、近隣住民が殺虫剤を撒いた所、嫌がる素振りを見せ、逃げて行ったとの報告もあった。この報告により、害虫駆除の業者にも出動してもらう予定だ。』
田舎の方は大変だなと藤本は思うのである。
次の日の新聞でセミが出現した場所が載っていた。
大阪、東京にはまだ現れていない。けど、東北の方で出現している。
長野の方にも来ているらしい。そして怖かったのは九州、沖縄にも出たらしい。新種か。
四国、大阪、東京以外はいると考えていいが時間の問題でいつか来るんじゃないかとの事。
母親も新聞を読んだらしく
「あんた、害虫駆除の仕事しぃや」
と言われ、次の日ハローワークに行くと、掲示板の所にデカデカと
『害虫駆除隊員募集!戦え若者。30歳までの方お願いします。月収30万。寮に冷暖房完備』
職場は北海道だろうか。けど、色んな場所に出没してるらしいから、どこに行くか分からない。ってか北海道ってセミいたんだな。今更ながら思った。
今日のニュースでもセミの出現地域をやっていた。おっさんキャスターは
「まぁ、1週間の命なんで秋までには解決されてるでしょう」
とお気楽な事を言ってたが、昼間見た掲示板の実況板で実は事態は深刻なんじゃないかと思わせる。おっさんのお気楽さより実況の恐怖感のが僕の中で強かった。
「セミ相手なんやし、死ぬ事ないって、行ってきぃや」
「けど、俺不器用やし」
「そんなん言ってたら歳取って余計出来る仕事なくなるで。あんたも25歳なんやし、この辺で身ぃ固めな」
「芸人なろうとしたんが失敗やったかな」
「あんだけ反対したのになるからや」
僕は大学卒業後、芸人になるための学校に行った。そこで不良上がりのパシリにされたりちょっかいかけられたりして辞めた。
「先輩にもっとキツい人おる」と優しい先輩に言われ辞める決意をした。
学校行って半年で退学した。あんな世界はヤンキー上がりしか無理なんやなと痛感した。
これだと決め打ちして憧れた場所だったのであかんかった時の事を考えてなかった。
そして、派遣で細々とやっている。そんな俺にチャンスが来た。正社員になるチャンスだ。おかん安心させたいってのもあるけど、こんなヘタレでも結婚したい。好きな人はおらんけど結婚したい。友達が何人か結婚しだしていいなと思ったからだ。
結婚するには正社員にならなあかん。相手セミやろ。殺される事はない。耳栓借りれるやろし。電話番号メモってたので業者に電話した。
明後日面接って話になった。8月中旬の夕方の話である。僕の誕生日は8月31日である。26歳になる2週間前で正社員になれるかな。
履歴書に25歳って書けるのは後2週間なのでここで決めたい。
面接は向こうの一方的な説明で終わった。志望動機を考えてきたのに無意味だった。まず、面接官の第一声が
「よく、来てくれましたね。ありがとう。」
で「ん?」と思ったがそっからは説明オンリー。最後の方に名前を聞かれた。名前しか聞かれなかった。ただ、説明に気になる事があった。
「最悪障害を負う可能性がありますが、それはここだけじゃない。どこの会社でもその可能性はありますからね~」
この~の発音に妙に腹が立ったがこっちも質問した。
「正社員で雇ってくれるんですよね?」
「もちろんですよ」
「普通、最初はバイトからってパターンが多いから気になったんですよ」
「いえいえ、ウチは最初から正社員契約です。どうされますか?」
「働かせてもらいます」
「では、来週から北海道での仕事となりますのでよろしくお願いします。寮は冷暖房、冷蔵庫が完備されてますので快適なはずですよ」
「わかりました」
面接と言うより説明を終え、帰宅した。母親は喜んでいた。無職の息子が正社員になるのである。そりゃあ嬉しい。ただ、障害を背負う可能性は言わなかった。
北海道の山奥の寮と言うよりログハウスで暮らす事になった。10個のログハウスが連なっていて僕は『3』の所で暮らす事になった。3人で共同生活するらしい。
じゃあ30人いるのかと言うとそうではなく、メンバーは9人。隊長は地元の業者の人なので寮に暮らさず通う。僕らは3人ずつ暮らす。10個あるけど、3個のログハウスで賄う事になった。
アニメオタクの林。レトロゲーム好きの池田が同じ部屋になった。ちなみに俺は競馬好きだ。この3人合わねぇんじゃねぇのと不安になった。
自己紹介も早々に林が暗い奴だと言うのがすぐ分かった。宝くじの話になり
「はぁ、1億当たったら家の借金返せるんやけどなぁ。」
「借金返済でギャンブルやって当たってる人見たことないですわ。そんな暗い事言わんとバーッと使うとか考えたらどうですか?」
と返すと池田もうなずいた。
「じゃあ、お前らが俺みたいな人生送ってみろや。訳分からん親戚。小学生時代にクソ教師に虐待され、高校でも友達1人も出来んかった」
最後のはこいつに問題あるんじゃないかと思ったが俺は黙った。面倒臭くなったので。池田はまだ、質問した。
「教師に虐待ってどんな事されたの?」
「お前らに言ってもしゃ~ない」とか言われると思ったが林は返した。
「えこひいき。俺は嫌われたんや」
「好き嫌いは人間やからあるんじゃ。まぁ、バレバレは教師としてどうかと思いますが」
と俺が返すと手を左右に振りチャウチャウのポーズを取り
「小2の時に遠足でスケートに行ったんよ。俺は端っこの壁みたいな所持ってもコケるくらいスケート苦手やった。それでも何とか頑張ってたらそいつが『もう、お前は座っとけ』って5時間くらいずっと座ってた。スケート場でスケートさせてもらえんかった」
「ケガしそうやと思いはったんじゃ?」
「いや、嫌いやっただけやろ」
これ、やり方によったら笑い話に出来るのにやっぱこの人暗いな。
「小2ん時スケート場の遠足行ったんやけど、壁持ってもコケるから先生にベンチずっと座らされた。俺、飯食いに行っただけやわ。」
って言ったらまだ笑えたのに。年齢も聞くと
林27歳・・・(今まで派遣でドブさらいの仕事をしてたらしいけど契約期間満了でクビ)
池田30歳・・・(公務員目指すも失敗。ゲーセンでアルバイトしていたがゲーセンがつぶれた)
藤本25(もうすぐ6)歳・・・(芸人目指すも養成校で元ヤンにイビられ挫折)
池田が一番まともだな。
次の日、隊長が消防車みたいな車でやってきた。水の代わりに殺虫液が入ってるらしい。木には無害らしいが本当かな・・・
そして、水鉄砲のでかい版みたいな武器を渡された。良い耳栓とガスマスク、防弾チョッキも渡された。隊長から
「着る前に説明します。後から副隊長が来るのでその人の車と、この2台で別行動します。3人+隊長か副隊長か今日は休んでる若造の4人体制でやります。共同生活してる者がそのまま同じ班です。1班は休みになりますが、今日は初日なので副隊長の班に1班と共に行ってもらいます。1、2班コンビ。3班コンビです。3班は僕と行きましょう」
隊長と俺たち3人が行く事になった。他の班のメンバーとも名前だけ言う簡易的な自己紹介をした。
髪の毛を赤に染めたバンドマンっぽい実松だけ気になったが他は物静かそうな奴だった。ちなみに隊長、副隊長、若造のプロフィールは
隊長45歳・・・(妻子あり。この道23年のベテラン。巨大生物が出て来るまではハチを主に退治していた。)
副隊長40歳・・・(妻子あり。隊長と同じでハチを主に退治していた。麻雀が好き)
若造23歳・・・今年から新卒で入った子。シロアリ駆除を主にしていた。
説明が終わったので耳栓を付けようとすると隊長が
「まだ、着けないでいいよ。移動までちょっと距離あるからちょっと喋ろや」
「いいんですか?」
「車の中は安全だからいいよ。そんな暑苦しいの」
「はぁ」
「君たち、セミ取りとか子供の時やった事ある?」
全員が首をたてに振った。
「あのイメージは捨てた方がいいよ。今から会う奴はすげぇでかくて最初絶対びっくりするから」
「2mくらいですよね。TVで観ました。(助手席座ったからか俺ばっか返事してるな)」
「藤本君、TVと生は違うよ。まぁ、びっくりするけど、慣れたら大した事ないから。その殺虫液を顔面にかけたら一発で死ぬから」
「顔面じゃなかったら?」
「羽やったらば飛べなくなるから2発目顔面当てやすくなる」
「飛んできたらどうするんですか?」池田が後ろから聞いた。
「大き過ぎるくらいだから、スピード遅いんよ。飛んで来ても狙えるよ。最初ビビるやろうけど、慣れよ、慣れ」
大丈夫かなと思いながらも目的地の山奥に付いた。僕らは防具を装着した。「耳栓はカチャッって言うまでやりや」と言われた。そんな耳栓初めてだ。
何も聞こえなくなった。隊長が耳を外すジェスチャーをしたので外した。
「ごめん。サイン言い忘れてた。俺が車の方指さしたら終わりの合図やから。じゃあ行こうか」
「あの、この殺虫液は人にかかっても大丈夫ですか?」
「ガスマスクしてたらいける。さぁ、行きましょか」
サインってそれだけ?と思いながらも始まった。始まってしまった。
立ち入り禁止のロープをくぐり抜けさらに山奥へと行く。
隊長が木の上の方を指さす。特撮映画かってくらいでかいセミがいた。周りを見渡すと結構いる。10匹はいる。気持ち悪くなった。
林は直立不動で動かなくなった。池田は腰を抜かしている。俺も体が震えてとてもじゃないが鉄砲撃てる状態じゃない。
隊長が冷静に鉄砲を撃った。さすが隊長一発で仕留めた。
ってか本当に一発で仕留めれるんだな。あれ、でかいだけで大した事ないんじゃないか。俺は勇気を持って撃った。下の方に当たり飛んできた。
池田の近くに来たが確かにスピードが遅く池田がよろめいた後に撃ったやつが当たって倒れた。
そこから池田は冷静になり倒した。林はまだ直立不動だ。何か言ってるが分からない。隊長が池田に向かって親指を立てた。グッジョブって事だろう。
池田さんを見習い、俺も勇気を出して撃つ。撃つ。撃つ。当たらない。当たらない所か飛ばれる。そのたびに池田と隊長が退治した。
池田は飛んでるのを捉えるのが上手い。センスあるなぁ。林は逃げ回っている。何か叫んでいるが分からない。
飛んでるセミにようやく当たったがラッキーパンチなのでコツがまだ分からない。
弾(液)切れになったので車のタンクから液を補充しに行く。林は車の中にいた。こいつは何なんだ。
俺の弾が一向に当たらないが撃ってると分かってきた事がある。思ったより下に液が飛ぶのだ。それが分かった所で隊長が車を指さした。帰る合図だ。気付いたらセミがいなくなってた。
ログハウス前で反省会が開かれた。まず、林が隊長から注意された。
「君、勝手に車に帰ったらダメじゃないか。恐いのは分かるが武器あるんだから強気に行ってほしい。セミもでかいだけで大して強くないよ。ビビらず行きましょう」
「藤本がは・は・は・外しすぎなんだ」
「はぁ?」
「藤本が外して危ないんだ。池田のが的確だった。ふ、ふ、藤本が悪いんだ。外しまくって混乱させて」
「君ね。最初から当てれる人間なんていないよ。藤本君はまだ撃ってコツを掴もうとしてるけど林君は何だ。突っ立ってただけじゃないか。そんなんで金貰える程甘くないよ」
「帰る。みたいアニメとかあるし」
「分かった。もう帰っていいよ。明後日迎えに来るように手配しとくよ」
「こんな恐い所コリゴリだ。彼女に会いたいし。死んだら会えないし」
「彼女いるんですか?」池田が若干びっくりして聞いた。
「いるよ。ときめいてトゥナイトのミカエルちゃん。」
こいつはダメだと他3人が思ったのである。
ログハウスに戻ると一応林はまだいるので文句を言ってきた。
「君は向いてないから一緒に帰るべきだ」
「いや、俺は残るよ。ニートになるん嫌やし」
「生活保護があるじゃないか」
「え~」池田がげんなりする。
「僕、元気なさそうでしょ。医者にうつ病の診断してもらえそうでしょ」
「何せ俺は残ります。所で林さんは人で好きになった人はいますか?」
「女性は恐いって思ってしまうんでいないですねぇ。初恋の相手もアニメのキャラですし、さっき言ったミカエルもエロゲーのキャラで~」
そっから延々とゲームに付いて話を聞かされたが俺も池田も分からないので聞き流した。
結局こいつは北海道にエロゲームの話をしに来ただけである。
次の日は若造が来た。車の中で昨日ラッキーパンチが一発当たっただけと伝えると
「初日はそんなもんだよ。普通は林君みたいな子が多いんだよ。他の班の連中かって3人辞めたって聞いた」
「実松君は辞めました?」
なぜか俺は赤髪が気になった。
「いや、彼はすごいよ。初日からビビらずバシバシ倒してさぁ。即戦力大活躍で残ってるよ~」
「藤本君は実松と友達なの?」
池田が聞いてくる。
「いや、赤髪が気になっただけ」
しばらくの沈黙の後、池田が若造に質問した。
「あの、僕らが来る前は業者さんだけで駆除してたんですか?」
「いや、以前は自衛隊の人たちが手伝ってくれたんだけど訳あって来れなくなったんだよ」
「訳とは?」
「う~ん。君たちこの仕事辞めない?」
2人はうなずいた。
「実は巨大生物って北海道だけの話じゃないんだ。全国、いや全世界の問題なんだ」
「えっ、何で報道しないんですか?」
「パニックになるからじゃないかな。けど、どうせ後で分かる事だけどね。今ん所は九州、沖縄地方と下の青森の山奥が巨大生物がいるらしいんだよ。後は屋久島もかな。奥の方にいるから近隣住民もあまり気付いてないみたい」
「あっちの方にもセミがいるのかぁ」
「いや、もっと嫌な奴」
「えっ?」
「巨大化したハチだよ。洞窟とか奥地に巣を張ってるんだ。そんな所に素人行ったら殺されちゃうから自衛隊なんだ。セミなら素人でもいけるって判断したんだろう。言っても夏だけの話だし放っとこうかってなってたんだけど事故が起きたらアレだから助っ人を雇って駆除してるの」
「大阪には昆虫は出てきてないですか?」藤本は慌てて聞く。
「大阪、東京と都会は出てきてないねぇ。」
「神奈川は?」
「そこもいないねぇ」
「良かったです」
ホッと胸をなで下ろす藤本と池田。
今日は藤本もコツを掴んだのか8匹倒した。池田は12匹。若造は驚いていた。大抵2日目で戦力になるんだけど、ここまでとは。
結局助っ人正社員は5人残っている。4人は初日で辞めた。
虫
セミはやられる一方だったが対照的にハチは九州の方で善戦していた。自衛隊をばっさばっさ倒していた。
「おい、防具を貫通してるぞ!」
「ダメだ。向こうの方が圧倒的に数が多い」
「逃げるぞ」
ダッダッダッ!
逃げてる所をハチ達はさらにブスッと刺す。しかし、ボロ勝ちかと言えばそうではなく、数で圧倒してるだけで銃に撃たれて死ぬハチもいた。
その様子を聞いた蚊やクモは女王に
「僕たちも手伝います。あなた達が戦ってる姿を聞くと一緒に戦いたくなりました。今までの歴史。人間にやられ続けた歴史を変えたいです」
と一緒に戦う事を懇願してきた。女王は
「・・・そろそろ本格的に行きましょうか」
と不気味に笑った。




