Roar 10
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村の男たちは、順調に歩を進めていた。カチャカチャと武器同士が擦れ合う音が響く。鳴り響く金属の音と、男たちの臭いがとても不快である。彼らは殺気に充ち溢れ、自然と早足になっている。
「もうそろそろ狼の群れに辿り着くはずです」
「それにしても、さっきから狼の遠吠えがよく聞こえてきますね。何かあったのでしょうか?」
「そんなこと関係ないでしょう。吠えていられるのも今のうちだけです。もうしばらくすれば吠えたくとも吠えられなくなりますとも」
カマラは微笑を浮かべた。
「ん? あれは」
カマラの視線の先には、その場で立ち尽くすアマラの姿があった。カマラはアマラの元へ駆けて行き尋ねる。
「アマラ! 何でこんなところにいるんだ! それにその格好」
「兄さん」
彼女は、ローが駆けて行った時からずっとここで祈っていた。どうかローが助かりますように、と。度々聞こえてくる悲痛な叫びに、彼女は身を震わせていた。
「どうやって部屋から抜け出したかは知らないが、早く家へ戻るんだ。俺たちはこれから忌まわしい狼を狩りに行くのだから」
――ウォォォォォォォン。
狼の遠吠えだ。
「ロー?」
彼女は少し前へ進み、耳を傾けた。
「ちっ、また狼が吠えていやがる。なんて忌々しい」
カマラが露骨に嫌悪感を剥き出しにしている。
「……れ? …………ろ?」
アマラがぶつ切りの言葉を発した。彼女は更に前へと進んでいき、聴覚を研ぎ澄ませた。
「どうした? アマラ」
――ウォォォォォォォン。
「雪崩……早く逃げろ……」
「何を意味不明な事を」
アマラはハッとした。雪崩がくる、ローがそう伝えているのだ。
「兄さん、皆! 雪崩がくる! 早くそこの洞穴へ逃げて!」
「は? 誰がそんなことを言っているんだ」
カマラが辺りを見回してみるが、当然自分たち以外に人はいない。
「兄さんが森で見かけた真っ黒な狼、ローよ! 彼は私たちに危険を知らせてくれているのよ!」
「そんなことがあるわけ…………」
「そんなことあるのよ!」
「いつまで戯言を言っているつもりだ! 狼が危険を知らせてくれるわけがないだろうが!」
カマラのその言葉に、男たちも口を揃えて彼女に暴言を投げつけていく。その暴言の集中砲火は、ローが過去に受けたものと類似している。
「お願いだから! 一度でいいから私の言うことを聞いて!」
彼女の目から、大粒の涙が溢れ出した。涙は女の武器だ。
それを見たカマラは大きくため息をついた。
「仕方ない。多少作戦に遅れが出てもいいだろう。皆そこの洞穴へ入るんだ! 急げ!」
村の男たちは渋々といった風な顔でいそいそと洞穴の中へ入っていった。カマラはアマラを担ぎ、洞穴へと入っていった。
彼らが洞穴へ避難し終わると、轟音とともに雪崩が押し寄せた。すべてを飲み込む、白い悪魔が大地を侵食していく。
「そんな馬鹿な! 本当に雪崩がくるだなんて」
避難が後少しでも遅れていたならば、彼ら全員が雪崩に食い殺されていただろう。白い悪魔が過ぎ去った山には、彼ら以外に何も残らず、すべてを白く染め上げた。




