77〜狂想曲の強襲〜
猛進の起源に射し込む光
――TUTUITEYARE――
――IINSUKAHAHAHA――
「意味解かんないだけど……」
色んな声と会話の内容が端的な物から馬鹿にするような嘲笑う者にイキった小中学生の様な稚拙な会話の数々に、透子が意味を理解する事等不可能だった。
しかし、零の口から床鍋だと言われ……
――KATAKATAKATA――
『…ひほ、…』
――PERONN――
透子がバッグから取り出すと、スマホにはまたあのメッセージが入る。
【パソコン見てみろ】
「え?」
「あ、また透子」
パソコン画面に映る自分の姿にスマホを見返す透子がインカメラの映像と気付き、スマホを確認しようと色々と弄るがパソコン画面に変化は無く、それが零のメッセージにあった覗きウィルスなのかと理解し呆然と零を見ると目が合った。
零は慌てる透子を愉しそうに観察していたが、床鍋のソレと同レベルに落ちた気がしてハッとする。
『…無駄だ…』
「コレ、いつから?」
『…ひほ?…』
透子の問いは零の中では難しい、透子のスマホをサーバー監視し始めた時の事か、それともスマホをハッキングし始めた時の事か。
明らかに怒る気がする透子の静かな質問に何と応えるべきか……
「いつ?」
『…ひほ…』
既に怒っていると判るその問いに、何を言っても無駄だと確信したが逃れる術を求めて思考を巡らす。
しかし、唐突に透子の怒りが静まるのを感じ状況を精査する零が更に思考を巡らす。
「で、何で桶に浸かってる訳?」
白い目で見る透子の顔からは怒りが消えていく……が、馬鹿にするような目に零の怒りが湧いて来る。
『…ひほほほほほ、パソコンを買ってから何を検索してたか覚えてるか?…』
「はあ? だから何?」
『…ひほ?…』
思い出せば恥ずかしい検索の数々が想起されている筈の透子の顔には何の変化も無い。
いや、思い出している様な動きも見せていた。
「ふぅむ……確か、マグロとは・初めての・電気はいつ消す……とかじゃなかった?」
「楓香、もうそういうのいいから……」
そお、既に透子にとって過去の記憶は楓香によって共有されている事を知り、恥ずかしい過去に対する免疫がついていた。
楓香も零も家族として受け容れている透子にとっては既に見られた過去であり、幼児期のオネショ話程度の感覚になっていた。
遅きに失する気付きに零の頭に言い訳が巡る。
『…ひーほー、安全の、為?…』
「ああ、そうなんだぁ……とでも?」
「あ、また垂れてる」
『…ひほ?…』
――BUJARUJURUJURUJU――
楓香が不意に零のボディを掴み桶の上に持ち上げ、ひねる、ひねる、ひねる、絞られる零の腹綿から滴り落ちる水。
抗いもせずになすが成るままペタンコになる零の姿に透子の怒りは失せていた。
「何……何やってんのソレ?」
――BASSA――
多少の膨らみを取り戻し、這いつくばってキーボードの前に向かう様は……
腐ってやがるで有名なソレの如くに胴体が引き千切れんばかりの引き摺り感。
零の力む声もソレにしか聞こえなくなって来た時だった。
『…ひほほほほほ、見ろ! KOBAに心当たりがあんだろ?…』
「うん、多分だけど……」
画面の一部に開かれたソレは、見た事の無い通信アプリによるメッセージと共に、靴や人の写真……
それも盗撮と思われる物に、GPS情報なのか地図情報かが張り付き、集積されていく様に次々と入っては流れスクロールに消えて行く。
そのメッセージの中の一つを開く零
TKT-F0013【No.225見れなくなった。追跡班は?】
『…多分このTKT-F0013がKOBAだ…』
「はぁ……」
零が言ってる意味もメッセージの意味も訳が解らない状況に、スマホの操作も使い道も解らないお年寄り状態で聞く透子の顔を見て、老若男女の意味を知る零が一息つき説明を始めた。
No.225とはKOBAが追跡を依頼した後に指令側から通し番号として登録された物と予測されるが、透子と大泉の事だと云う。
しかし、TKT-F0013のメッセージを逆上り確認するとKOBAが追っているのは透子では無く一緒にいる女、つまり大泉の方だと云う。
とりあえず、何処かで入手可能だった透子の携帯番号から位置情報を取り、共に行動する大泉の写真を押さえて家や行動範囲や交友関係にと組織的に追い込みをかけ個人情報を外郭から奪い、公的機関等に入り込んだ別の内郭で犯罪者に見立て公権を悪用。
その証拠だと零が示したのは、警察デジタル無線と同様の消防等も含む公的機関無線帯域に入り込んでいるその回線にこの床鍋の音声があり、元の警察アナログ無線帯域には床鍋のメッセージやGPS情報や盗撮画像があった。
それは、つまり……
「え? じゃあ」
『…警察か? そうとも、そうでないとも言えるな…』
また解らなくなった透子が過去の記憶に触れ思い当たる節に目を見開いた。
「ひょっとして……あの時の」
透子が思い出したのは、去年営業先で見た絶対捕まらない犯罪者。
警察内部に仲間が沢山いたその集団こそが床鍋だったのでは? と、目の前の組織の情報搾取集団の会話やが過去の記憶に繋がっていき身体の奥底から仄暗い何かが襲う。
『…気付いたか…』
「でも、何で私じゃなく……」
『…解らんが、奴等にとってはゲーム感覚だからな…』
「……そんな、だって、だとしたら、あの時の血は?」
『…そういう連中だからこその、コレだ…』
零が腕を指すモニターには流れる愚劣やり取りと稚拙な会話。
小出楓香と菅原を連れ去った時の事に触れゲーム感覚だと言う組織に対する嫌悪と憎悪が仄暗い何かと重なり透子の心が影に包まれていく。
――TOUKO!TOUKO!TOUKO!――
暗闇の中に響く懐かしい声に光が射し、浮かぶ姿は記憶の中に居た小学生。
自分を呼ぶ懐かしい声と重なる声にハッとする。
「透子、透子、透子」
「麻友子?」
『…猪突が、脳の許容量を超えて妄心したか?…』
「ごめん楓香、大丈夫。零!」
仄暗い何かから記憶の中の小さな子供に引っ張り出され、透子の気合いと闘志を湧き立たせる。
零に今日の出来事と共に小林についてを話す透子を楓香は不安そうに見ていた。
暗躍する仄暗い影を踏む




