76〜狂想曲の強襲〜
真実を知る辛日
「真、」
藤が二瓶との電話を終えたのか静かになった奥の部屋から出て来ると真に声をかけ、顔を強張らせ奥の部屋へ来いとばかりに顎で指図し戻って行った。
他の事務員さん達には、藤真に継がせる為の勉強と思わせている側面もあり労いの言葉や顔を向けられて奥の部屋へと向かう藤真だが、当然奥の部屋で話されるその実は違う事は理解していた。
だからこそ怒られるのと同じ様な顔と溜息ひとつに意味合いが被っていた。
――KONKONN――
藤真が入ると、部屋ではテーブルに並べた資料を前に両手を突き出し肩を強張らせていた藤が怒っているのか考えているのか深い息遣いで重い何かを背中にのせ待っていた。
その出で立ちに、古くも度々読み返す記憶の中でも履歴の濃い思いの詰まった記憶が暴れ出すのを感じていた。
「すまん……」
藤の謝罪に湧き出るものは怒りでも恨みでもなく藤真の心に赤黒い靄が纏うのを許すかの様に、負の霞から逃げる気にもなれずに藤の口から出るだろう次の言葉を待っていた。
しかし、いつまで経っても出てこない事にようやく怒りが湧いて来る。
「さっきのは、二瓶さんですよね?」
一瞬頭を上げると細かく頷き項垂れるように下を向き、言葉を選んでいるのか頭に手を置き唇を噛み締める。
その後ろ姿が何の話かの予想を確信に変え、藤真も唇を噛むが抗おうと考えを過ぎらせていたがスグに何が出るでも無く悔しさが滲み出す。
「これじゃあ、麻友子に……」
「……ああ、わかってる。何とかする」
藤も藤真もお互いに倒すべき相手を理解しているからこそ、この行き場の無い怒りの矛先をぶつけ合う様な事はしない。
それ程に性質の悪い相手と知っているのは、過去の記憶からも想定されていた。
卑劣な手を幾つも繰り広げ逃げるのを追う側故に。
「二瓶さんはどうすると?」
「尻は叩いたがなあ、向こうも別の件で尻尾を掴んだ所だったらしいんだが、救出はこっち次第かもしれん」
藤真の中で湧き立つ希望に霞が避ける。
今は悩むよりもすべき手を探す事に集中しなくてはならないと前を向く。
「別の件てのは本丸ですか?」
「ああ、あの口ぶりからして多分な」
「なら、その折に乗じて入り込む隙も出来るかもしれない」
「それまで無事では済まないだろ」
唇を噛み締める藤真が尚も手を考えるのを見て、手元の資料に目を落とす藤が言うべきか否か迷い、珍しく葉巻に手を出し口にするが火はつけていない。
咥えた葉巻の葉の味が湿る唇に移るまで悩んでいた。
「真、これどう思う」
そう言って資料を藤真に差し出すと、藤は葉巻カッターを手に取りカチカチと藤真の応えを待っていた。
「こんな、事で狙われてたと?」
「……そう思うよな」
藤の意味深気な答えに、狙われた理由に疑問点を持ったと理解したが黙る藤の考えに気付き藤真が口を開けたのを手で制す。
「まだ確信は無えっ!」
「でも可能性は高いんじゃ」
「だが、どう使う?」
言われて気付くが藤は既に使う気満々なのだと。
しかし、使い方に悩む。
七並べの数字なら兎も角、その手札はジョーカーだ。
使って相手に渡れば危機となり、最後まで持っていれば負けになる。
慎重に考える必要があった。
「嘘つきが嘘つき連中の中で嘘つき仲間に嘘をついてました……か」
「その真実を嘘つき連中に伝えた処で心に響くとも思えんしな」
「裏切り者……いや、仲間を利用した裏切り……横領……」
今スグ思い付くような策等はある筈も無い。
策を練る必要がある事を理解し、纏っていた負の霞を拭い去ると顔を上げ前を向き藤を見る。
「そういう事だ。とにかく今はこれの裏取りしか出来ん」
「張るのはどうします?」
藤が葉巻カッターで口先を切り落とし咥え直すと考えを巡らし、何かに気付いたかマッチを擦り火をつけた。
細かに吸い出し火を安定させると舌で煙を転がし吹き出す。
頭が冴えたか笑って見せた。
「真、張るのは止めて近付け!」
「え?」
藤が思い付いた策に頭が追い付かない藤真が不安な顔を覗かせるが、藤は藤真のマヌケな顔を尚更の根拠として吹き出した煙を惜しむように久々の葉巻を燻らせる。
「油断だ。裏切り者が出ても気付けないのは嘘つきだからだろ?」
「あ! そうか」
藤の策の根拠に気付き、今はそれしか無いと理解し自分のすべき事を頭の中で精査していた。
藤は葉巻を燻らせ、この後策を煮詰める為に頭をリセットとばかりに味わいつつ資料を手に取り、葉巻の火を資料の写真に焼き付けたい衝動を抑え睨み付ける。
それは、胡唆三太と喪積泉の資産や役所での請求資料や契約書類の数々に配達記録等が揃った藤が昔からの仲間に頼んだ資料だった。
――KACYAHNN!――
――BATANN――
「ハァハァハァハァ零ハァハァ」
『…ひーほー…』
息を切らして相当に急ぎ帰ってきた透子に零が、おつかれ。とでもいった態度で待っていた。
当然、透子が言いたい事は理解しているが敢えて本人の口から出るのを待っていた。
「ハァハァ何なのよハァアレは」
『…ひほほほほほ、今頃居もしないものを追って意味不明の音声を聴いてるんだろうぜ…』
「ハァはぁ?ハァ」
血眼号にもたれ掛けていた身体を起こし部屋に向かった透子が何か言おうと息を吸い込んだが、零が笑いかける。
勝ち誇ったニヤけ顔が腹立たしい程に
『…ひーほー…』
零が腕を指した先のパソコン画面には何やら見た事の無い……
地図と動く点・コマンド・数字の羅列・英数字の羅列・そして黒い四角。
「何?」
『…楓香、音量上げてやれ…』
「ふむぅ……」
――GOOOO――
――TUGIWOSASETUSITEMATE――
――HAI――
――OMAENANNDENUITENNDAYO――
――SUIMASEN――
「……何、これ?」
『…これが床鍋だ…』
知り得る事のなかった真実




