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顔があるんだね。うらやましい

 かくれんぼをしようと言い出したのは高橋君だった。

 ずいぶんやる気だったのを覚えている。


 鬼を決めて、隠れるためにバラバラに走り出して。

 そこで高橋君に肩を叩かれた。


「あそこに隠れようよ」


 もどかしい様子でフェンスを乗り越えて。

 線路の先を指さす。


「あそこなら絶対見つからない」


 ホームの下の空間。

 子供なら十分に隠れられる広さだ。


 うなずいて、しかし、何人も同じ場所に隠れるのはフェアではないかもしれないと考える。


「ほかの場所を探してみる」


 と言うと、高橋君は自信満々の顔で、「ここよりいい場所はないけどな」と言った。


 またフェンスを乗り越えて隠れ場所を探す。

 いい場所は見つからなくて、走り疲れて、トタンでできた物置の陰に隠れることにした。


***


 サイレンが鳴っている。

 救急車だろうか。

 パトカーだろうか。


 ずいぶん近い。

 数も多い。


 何事かと見物に行くと、駅の周りに大勢の人が集まっていた。

 かくれんぼに夢中だったから、いつのまに集まったものなのかわからない。


 大勢の人が騒いで、線路の上を歩いている人もいる。

 バケツを持って、何かを拾っていた。


***


 騒動の中で、どういう順番で事実を知ったのかはっきりしない。

 バラバラに聞いた話がだんだんと結びついて、ようやく何が起きたのかを知ったのかもしれない。

 結局きちんと確認することはなかったから、事実がこの通りなのかもはっきりしない。


 高橋君は死んだそうだ。

 列車にひかれて。

 ホームの下からふとした拍子に出てきてしまったらしい。

 そこに列車が到着してしまったと。


 かくれんぼの話は、したはずだ。

 だから、大人たちは事情を知っているはずだ。


 だが、追及されることはなかった。


 誰が悪いというわけでもない。

 事件というわけでもない。

 子供たちに教えるようなことではない。


 そう考えたのか、大人たちは、高橋君の話を避けるようにしていた。


 あのときバケツで何を拾っていたのだろうか。


***


 高橋君の夢を見た。

 あれは本当に夢だっただろうか。


「見つけてよ」


 高橋君が言う。

 まだかくれんぼをしているつもりなのだろうか。


「どうして見つけてくれないの?」


 もうかくれんぼは終わったのだと、伝えたい。

 だが、伝えることができない。


「僕の顔を見つけて」


 そう言った高橋君は、なぜか首から上がないのだった。


***


 高橋君のお葬式に行くことになった。


 何を言っても触れてはいけない話題の気がして、喋ることができない。

 無言で大人たちと同じ動作をする。


 高橋君のお母さんは、髪の毛が白くなって、ひと回りしぼんだようだった。


 不思議な表情をしていた。


 悲しんでいるというよりも。

 怒りというよりも。

 恨みというよりも。


 すれ違う時に、


「顔があるんだね。うらやましい」


 そう呟くのだった。

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