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教え子のあなたと暮らしてる  作者: キノハタ
プロローグ 再会

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1/8

プロローグ せんせい―①

 「もしかして、せんせい?」


 それは、大きな駅の書店で本を見繕っていた頃のこと。


 背後からそんな声が響いてきたけど、最初は自分が呼ばれているとは思わなかった。


 だって、私が教職を離れてから、もう数年。『先生』なんて呼ばれなくなって随分と久しかったから。


 それに私はあまり、沢山の生徒と関わることのできた教師じゃなかったし。


 何千、何万という人が集う、都会の駅の真ん中で、そんな再会をする確率はどれくらいのものなのだろう。


 別々の場所で、海に流した二つの瓶が、たまたま同じ砂浜に辿り着くようなものなのだろうか。


 だから、その声が、私を呼んでいる可能性は、とても低かったはずなのだけど。


 それでも、声に誘われるまま、振り返ってしまったのは。


 その声が、酷く懐かしい響きをしていたからかな。


 いつかの暑い夏の日の、静かな国語準備室の情景が。


 どこかに滲んで見えた気が、したからだろうか。



 そうして、ふっと振り返った先に居たのは―――。



 記憶の中の面影とは、少し違って。


 肩ほどまであった綺麗な黒髪は、すらっと伸びてセミロングになっていて。


 風貌はすっかり大人びて、でもクリっとした茶色の瞳は、あの頃のまま。


 恰好も、当たり前だけどもう制服じゃなくて、スタイルの良さがよくわかるまっさらなスーツを身に着けている。


 でも、どうしてか私の口は、その子の名前を寸分の迷いもなく呼んでいた。


 「………………あーちゃん?」


 私が新任の頃、担任をしていた女の子。


 気遣いが出来て、優しくて、まだまだ未熟だった私によく懐いてくれた。


 「え……うそ…………せんせい? 本当に?」


 彼女は呆然として、私を見つめたまま、そっと近くに寄ってくる。


 私も何も言えないまま、そんな光景をただぼんやりと見つめてて。


 眼の前に立った背の高い彼女の指が、そっと私の頬に触れたあたりで。


 ああ―――と、確かに想いだす。


 「―――せんせい、だよね?」


 私の肌を優しくなぞるその感触を、肩口からそっと見上げる、その光景を。


 「――――うん、久しぶり、あーちゃん」


 私が、そう言葉を零すと同時に。


 次の瞬間には、身体がぎゅっと抱きしめられた。


 何千、何万という人が行きかい、通り過ぎるはずの、その場所で。


 7年前、あの国語準備室で一緒に過ごした、かつての教え子と。


 私は、再び巡り合っていた。


 周りには沢山の人がいて、数多の雑音がその場所を満たしていたはずなのに。


 「せんせい―――せんせい」


 何かを確かめるように、私の身体を抱きしめる、かつての教え子の声だけが。


 その時は、酷く鮮明だった。


 そんな、ある夏の日のことだった。






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