プロローグ
この小説はモデルはありますが、まったくのフィクションです。実際の場所や事実とは関係ありません。
これまで登場人物を書いてませんでした。参考までにどうぞ
登場人物
長谷川 真治 25歳 売れない小説家
守須 舞蘭11歳 ギフテッド。帰国子女
江南 明 25歳 舞蘭のマネージャー兼カメラマン
吉川 新次郎 68歳 出張所所長
磯川 治五郎 68歳 自治会長
中村 湯治 68歳 黄金壮のおかみさんの父親。元やくざ
鬼頭和尚 68歳 雷雲寺住職
島田警部 48歳 鹿児島県警捜査一課
荒木刑事 28歳 鹿児島県警捜査一課
鵜飼 35歳 ダイビングインストラクター
中村 紅子 48歳 黄金壮おかみ
槇原 進 55歳 診療所医師
データがなければ、あなたは単なる意見を持った普通の人に過ぎない
W・エドワーズ・デミング
(統計学者、著述家)
フェリーからの灯りが海面をほんのりと照らすだけで、あとはまったくの暗闇。フェリーのデッキから海をのぞくと船の航跡波だけが白く繋がっている。
鹿児島港を午後十一時に出港した大型のフェリーは、これでどこまで来たのだろうか。
フェリーに乗るのも初めてだし、ましてや夜の運行も初めてだ。2等船室は荷物置き場があるだけの床に雑魚寝をさせる形式で、客も大勢いて実に居心地が悪い。俺は船酔い気味で先ほどから吐き気を催している。人いきれや食い物の匂い、話し声などがさらに気分を悪くさせるのだ。
仕方無く、フェリーのデッキに来て夜風に当っている。
なんでこんな仕事を引き受けてしまったのだろう。
俺は長谷川真治という小説家だ。もっとも世間にはそれほどというか、ほぼ、いや、ほとんど知られていない。これまでミステリー小説を2作発表したのだが、2作とも現在は販売されていない。別に発売禁止とかではなく、たんに売れてないだけだ。
そんな俺に編集から声が掛かったのは2週間前だ。
いつものスーパーのバイトを早退して、都内の編集部に顔を出した。
出版社の一階にある打ち合わせスペースで編集者と対峙する。
今回、会う男は初対面だった。年齢は30歳過ぎで週刊誌の副編集長をやっているとのことだ。忙しいのか寝不足気味なのか、目の下にクマが出来ていた。
「長谷川さんはミステリー作家だということだよね」
「はい、そうです」
「弊社から2冊かな、小説を出版されたんだよね」
「はい、そうです」重版もかからなかったけど……。
副編はメモを見ながら話す。
「他に雑誌に記事も書いたことあるよね」
「はい、やりました」
作家に欠員が出たとかで急遽引き受けた仕事だ。旅行雑誌の食レポまがいの記事だった。とにかく仕事はなんでも受けるしかない。生活もかつかつでバイトの賃金だけだと貯金もままならない。とにかく仕事を選べる立場ではないのだ。
「それで、一作目が埋蔵金についての小説だったとか……」
おそらく読んでもいないだろうな、この人は。
「はい、そうです。日本三大埋蔵金をベースにした小説です。それで御社の新人賞を受賞しました」
「新人賞?」副編はメモをみる。「ああ、佳作ね」
はい、そうですよ。佳作ですよ。
「まあ、いいか」はあ、何がいいのだろうか。
「ルポライター出来るかな?」
「ルポライターですか?」
副編は俺の反応を無視するように話を続ける。
「実はね。鹿児島の南端、トカラ列島のある島なんだけど、最近になってそういう話が出て来てるのよ。いわゆる埋蔵金伝説」
「埋蔵金……」
そういえばネットで見たかもしれない。鹿児島と沖縄の間のどこかの島に黄金が眠っているといった話に覚えがある。
「これなんだけどね」
副編が出してきた記事は他社週刊誌のものだった。
『神照島に埋蔵金』
鹿児島南端の島、トカラ列島の神照島に黄金が眠っているという噂がある。
12月上旬、現地神照島にてスキューバダイビングをしていた旅行者が、海底に難破船が沈んでいるのを発見した。ダイバーが船の鐘を回収した結果、この船が1824年にこの付近で沈没したとされる、サンライズ号であることが確認された。
サンライズ号は捕鯨船で、その後確認された東インド会社の極秘航海日誌によると、大量のソブリン金貨を積んでいたという記録が残されていた。さらにその船が当該海域で消息を絶ったことも記録されていた。
ソブリン金貨とは英国で発行された金貨で、1817年に現在の形になった。現在でも発行されている金貨だ。重量は約7.98g、純金量は約7.32gで22金である。
その情報を掴んだ一角千金を狙う人々が、一斉にその難破船の捜索を始めた。数か月間、のべ数百人のダイバーたちがサンライズ号やその周辺の海域を捜索したが、その捜索もむなしく、船内には金貨はおろか箱すら見つからなかった。さらに周辺海域にも金貨らしきものは発見されなかった。よってすでに発見、持ち去られたのか、あるいは元から無かったのかという話で現在は落ち着いている。
東インド会社の記録上のソブリン金貨は5万枚で、総重量は400㎏、時価総額75億円は下らないとの話に、いまだに島を訪れる人は多い。
「宝の島ですか」
「まあ、そういうわけだな」
副編はにやりとする。
「それで俺は何をするんですか?」
「うん、うちの週刊誌の企画で、その埋蔵金の秘密を解くってのをやるんだよ」
まさか、俺にそれをやれと言うのか……。俺の顔に気付いたのか副編が話す。
「ああ、その謎解きを長谷川さんに頼むんじゃないんだ」
「はあ」
そういって別のファイルを出してくる。
画像がついたプロフィールのようだ。子供なのに妙にどっしりしている。早い話、昔で言う肥満児だ。
「舞蘭ちゃんだ。知ってるかな?最近、テレビによく出てるんだが……」
「いや、あまりテレビは見ていないです」
「ネットでも話題になってるよ。いわゆるギフテッドという子供でIQ200だと言ってるんだ」
「え、IQ200は無いでしょう。天才を通り越してる」
「まあ、宣伝文句なんだけどね。ただ、クイズ番組なんかじゃ全問正解したり、天才らしき頭脳の片りんは見せているな。それに彼女帰国子女で、アメリカのスタンフォード大の単位もすでに取得済だそうだ」
「まじですか?そんなことできるんですか?」
「11歳なんだが飛び級というやつらしい。アメリカだとそういうことができるらしいな」
「つまりは大卒ってことですよね。そんなギフテッドが、なんで日本に戻って来たんですか?」
「両親の離婚だそうだ。母親が日本人で戻って来たそうだ」
「母親が日本人?父親は?」
写真の肥満児はどこから見ても日本人に見える。
「米国人だそうだ」
「まじですか?こてこての日本人に見えますよ」
「ああ、そうだな。日系アメリカ人ということだ。これが親父さんだ」
でっぷりと太った日本人のおっさんが写真に写っていた。なるほど、日系人ね。体型は父親似だな。
「この子供が謎解きをするんですね」
「そういうことだ。それを君が記事にまとめていく」
なるほど、そういうことなら出来そうだ。
「子どもの同行者はいるんですよね?」
「そこも大丈夫だ。舞蘭ちゃんには専属のマネージャーがいる」
「俺はただ付いて回って記事を書くということですね」
「まあ、そういうことだ」
副編が微妙な顔をする。はて、何か裏がありそうな気もする。
「期間は1週間でいいんですか?」
「予定ではそうだ。ただ、状況に応じて若干伸びるかもしれない」
「そうですか。いや、バイトを休まないとならないので」
「そうだな。まあ最長10日は考えといてくれ」
「わかりました」
「それで埋蔵金についてのヒントがある」
「ヒントですか?」
「神照島に昔から伝わる島唄があるんだ。ちょっと変わった歌なんだが、そいつが宝の隠し場所のヒントじゃないかと言われている」
副編がその資料を出してくる。A4の紙に詩が記載されていた。
黄金など 見つくるな
這ひ出るな 剥ぎとるな
聖の下知は そのままに
銀の刃の 光る時
赤き血潮は 金ならず
変はらぬぞ 変はらぬぞ
這ひ出るな
幸を 刈り取れ
休めよや 積むことぞ
赦せよや 畳めよや
罪の重さを 首にかけ
明日の仕置き 思ひ知れ
絞まる喉から 風の音
染まるなや 染まるなや
明日巻く
絶えぬ業問ふ
楠よりも 重きもの
石投げて 夢砕く
若木の夢よ 早うふくれ
楠の枝もて 抱き砕け
祈りの頭 打ち据えよ
冠となれ 冠となれ
編んだ綿
兜を捨てる
南蛮人 早よう行け
風せまる 闇の中
館が燃ゆる 射抜かれる
曇り目の鬼 面を撃て
火の粉舞う夜 闇の中
血の雨じゃ 黄金降る
火の粉舞う
館が燃ゆる
俺はこの唄にいいようのないおぞましさを感じた。たしかに黄金について歌っているようにも見える。ただ、読みようによっては、これは殺人の唄ではないのだろうか。三流大学出身の俺にはいまいちよくわからないところもあるが、そう思える。
「この唄は島では昔から歌われているものなのですか?」
「そう聞いている。長谷川さんも気になるかな」
「ええ、これはひょっとすると殺人に関する歌ではないですか?」
「ああ、なるほどな。そう考えるのも無理はない。まあわらべ歌なんかもそういった傾向があるよな。かごめかごめや通りゃんせも聞きようによってはそういう歌に聞こえる。マザーグースなんかも似たようなところがあるだろ。こいつもその一種じゃないかな。まあ、そういったことも含めて島に行って調べて欲しいんだ」
「はい……」
「この唄は舞蘭ちゃんにも渡してあるから、彼女も推理していると思うよ」
「わかりました」
その時の副編の得も言われぬ顔が浮かんできた。
俺は何か、裏があるような、薄気味悪さを感じたのだった。




