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常連客が人気Vtuberで、気がつけば。


「いらっしゃいませー」


今夜もネットカフェに足を運んでくるお客様を出迎え、決められた手順で受付をこなす。


変わらない日常だ。


「フリータイムで」


それが例え、うじくんという私の人生初めての彼氏だとしても、顔色一つ変えず、タッチパネルを操作して処理を終えた後は、グラスを手渡す。


もともと口数の少ない彼から話しかけることはないが、私と目が合っては嬉しそうにエレベーターホールへ歩く様子は、胸が沸騰しそうになるほど愛おしかった。


………好きだ。


「すっかり常連さんになっちゃったねえ、三浦ちゃんの彼氏」


「ねー」


どこからか現れ、私の両脇を小突く男女二人。

私のバイトの先輩である、佐中さんと安宅さんだ。


佐中さんは安宅さんに対し、悪態をつきながらも、やはりまだ片想いをしているようで、同性の私には勘づく何かを常に感じながら、過ごしている。

安宅さんは世渡り上手なようで、核心に迫る部分を見事に避けながら、接しているようにも見える。


私は他人の恋愛沙汰に口を出すほどお節介な人間ではないし、暖かく見守るほど情のある人間でもない。


ただ、こういう恋愛模様もあるんだなぁ、なんて。


「おい、よそ見してんな」


その声ではっと我に返ると、颯人くんがしかめっ面で私を睨んでいた。


「ごめん。フリータイムね」


「サボんなよ」


「すみませんでした」


颯人くんとは、実はまともに話し合いを終えていない。

しかし、彼は私の気持ちをよく知っているみたいで、何を伝えずとも私とうじくんの関係を責めることはなかった。

初めはこうして言葉を交わすのも憚られたが、何も無かったかのように振る舞い続ける颯人くんのおかげで、以前のような関係を取り戻しつつあった。


相変わらず、妹の千愛(ちあ)さんが家に入り浸っているのか、ネットカフェに避難しにやってくる。


陽が昇るまでの時間は、長い。


「お疲れさまです」


「おつー!」


「お疲れー!」


佐中さんと安宅さんはこちらに手を振る。ごく自然と片手を振り返した。

そして、店から少し離れた場所で私を持っている彼のもとへ駆け寄る。


「お疲れ」


「ありがとっ」


お互い深く帽子を被り、念のためマスクも着用してから、どちらが先に伸ばしたかは分からないが、手を繋いで指を絡ませた。


目元だけしか見えていないのに、笑顔になっているのだろうと、私たちはさらに微笑んだ。


「今日はどっちの家にする?」


「私の家でいいよ。片付けたし、近いしね」


別々の家に住んではいるものの、こうして私たちはお互いの家を行き来している。

VTuberという職業柄、どうしても同じ家で生活をすることはリスクが高く、今が一番二人にとって良い環境だと結論が出た。


寂しい感情がないのは、私たちの毎日が忙しないからだと思う。

恋人になったとはいえ、やはり応援してくれている視聴者が大切なことに変わりない。

かけがえのない存在が増えたおかげで、前よりももっと頑張らなきゃって、勇気も湧いてくる。


それはうじくんも同じようで、高島さんに嫌味を突っつかれながらも、新しい挑戦として事務所内でVTuberユニットを組み、新規顧客層の獲得に勤しんでいた。


大変だ、なんて今更な話だ。


私がVTuberを始めてからの三年に、色んなことが起こった。

コンビニで夜勤のアルバイトをしていただけなのに、何故か常連客が女性人気の高い有名なVTuberで、どうしてか炎上もしていて、災難だななんて他人事を垂れていたら、目の前でその人が倒れて。


思えば、あの時が分岐点だったのかもしれない。

介抱せずに見放していたら、私の隣にうじくんはいないはずだ。


それからも沢山の出来事があった。


個人勢の私にコラボカフェの仕事が舞い込み、浮かれていたら関係者が海月のひめのストーカーだったなんて、誰が信じられるだろう。

植え付けられた恐怖心や、気持ちの悪い記憶は消え去ることはないが、私が独りで丸ごと抱えなくたっていいんだと教えてくれた人がいる。


一人で生きることに拘り続けた私を、一生懸命解いてくれた彼と、これからは二人で生きていくのだ。


「三浦さん…って、呼ぶのやめよう…かな」


「じゃあなんて呼ぶの?」


「…海美、ちゃん?」


「何だか、後輩みたいじゃない?」


「そうかな?」


「そういえば、うじくんっていくつなの?」


「二十五」


「えー歳上かぁ」


「それはそうでしょ。…まさか、歳下だと思った?」


「まあ、同い歳くらいかな…とは」




ーーー気がつけば、きっと二人の謎も説き明かされていくのだろう。



これは、愛されることを諦めた彼女と、愛することを諦めた彼の、とびきり不器用な物語。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

思ったよりも長い話で、思ったよりも自分の好みを途中で差し込んでしまいました。

私のタイプは雹牙くんというか、颯人くんなので、このままいけ!という思いを抱えつつ、ちゃんと筋書き通りの終着点に導くことが出来ました。

高島さんはのひちゃん復活配信で感動して、またリスナー化してます。きっとうじくんとの交際を知ったら、また泣いてしまうんでしょう。

多分のひちゃんはにゃろちとコラボ配信や歌ってみたをする仲になるでしょう。

マオさんは…良い奴だったよ。


罪を償った荒木さんは実家に引き取られ、親の監視下で生活を共にしているであろう。

きっと颯人くんの妹・千愛は、今までの悪行を兄に知られ、怒られてちょっとは素直になると思います。高校生の反抗期ってそんなものです。

元カノ・芹菜ちゃんは他の男と結婚しました。貧しい心を豊かにするのは、献身的な男性でした。そこからはのひちゃんへの誹謗中傷もなくなり、うじくんへの執着心もなくなっています。

そんな描写一つもなかったですが、彼女はモブなので。


うみちとうみちの親の仲が回復する道は考えてません。

そういうものです。


章や節の名前を、みんなのVtuber名にちなんだものにしたんですけど、上手く掛け合わせるのって難しいですよね。

海月は海、ノワール・シャーロックはノワール=謎、氷柱雹牙は氷…もう少しいい感じの名前をつけてあげればよかった。


またどこかでみんなの話を書くことが出来ればいいなと思います。

常連客が人気Vtuberで、気づいたら炎上していた。これにて完結です。

本当にありがとうございました!

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