第8話 『ベジタブル5大都市の滅亡の記録』
「――とまぁ、これがその昔、お前さんたちのパパやママが生まれるよりもずっと前に、本当にあった『ベジタブル5大都市』の滅亡の記録さ」
パチパチと暖炉の薪がはぜる音が、静かなリビングに響く。
老人はそう言って、すっかり色あせた、しかしどこか誇らしげな金縁の眼鏡を鼻先で直した。その手元には、ボロボロになりながらも大切に保管されてきた、あの「観測ノート」がある。
絨毯の上に座って話を聞いていた小さな孫たちは、顔を見合わせてから、一斉にケラケラと笑い出した。
「おじいちゃん、またそんなウソばっかり言って!」
「そうだよ! 人間がお尻から人参になっちゃうわけないじゃん!」
「レタスの人が頭から電柱にぶつかるなんて、ただのバカだよー!」
孫たちは口々に言いながら、部屋のあちこちへと元気に駆け出していく。
ある子は「前へ、前へ!」と叫びながらおもちゃの車を走らせ、ある子は「後ろへ、後ろへ!」とムーンウォークの真似事をして転び、またある子はお気に入りのクッションの上にドカッと座り込んでテレビを見始めた。
老人は、そんな孫たちの無邪気な姿を、目を細めて愛おしそうに見つめていた。
「おいおい、そんなに走り回ったら、また昨日みたいにテーブルの角に足をぶつけるぞ。昨日痛い思いをしたのを、もう忘れたのかい?」
老人が優しく諭すと、孫の一人が振り返って、胸を張って言いました。
「大丈夫だよおじいちゃん! 僕は過去を振り返らない、前向きな男の子だからね!」
その言葉を聞いた瞬間、老人は一瞬だけピキッと硬直した。そして、静かに手元のノートを開き、まだ数ページだけ残されていた真っ白な余白に、万年筆でこう書き加えた。
【追記:どれだけ歴史が滅びを繰り返し、どれだけ老人がノートに記録を遺そうとも、子供という生き物は、自分で一度頭をぶつけるまで何も学ばない。しかし、それこそが人間が『前を向いて生きる』という、愛すべき本能なのかもしれない】
老人がパタンとノートを閉じると、窓の外からは、今日も変わらず元気に右往左往しながら、電柱を避けて歩く街の人々の賑やかな声が聞こえてきた。
これにて完結です。
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