59.副塔長の依頼
目が覚めると汚れのついた天井が目に入った、王城の綺麗な部屋ではなく狭い寮だ、広い部屋よりもこっちの方が落ち着くんだよなぁ。
王国に向かう時は肌寒くなり始めたくらいだったが今はすっかり冬になっていた、布団から出たくない気持ちを跳ね除けて朝の支度を始める。
昨日まででフェルさんの薬が一段落したから今日からは違う事に着手していかなければならない、次に形になりそうだったのはスバルさんの化粧品かなぁ。
今は予算がないから一つずつ仕上げていくしかないのが辛いところだ。
開発部に向かう途中でスバルさんと一緒になった。
「おはようございます」
「おはようさん、ルイは頭が痛いから休むってよ」
「えっ!? 大丈夫なんですか? あの後何かあったんですか?」
昨日は一人寂しく帰ってしまったのだが。
「ちょっと飲みに行っただけだ、ルイはただの二日酔いだろ」
自分が帰った後に飲みに行ったのか、誘われなかったのが悲しいのは内緒だ。
「わかりました、それで今日からなんですがスバルさんの開発を進めていこうと思います」
「おっいいのか? だが予算がないんだろ、俺の研究ももう少し素材が欲しいんだが?」
「そこは一応考えがあります」
「カイトそっちに行ったぞ」
「おっと、あー上手くいかねぇ、ダストンさんそっち行きましたよ」
「いや、無理だろ」
三人で虫取り網を振り回す、昆虫採取が今回の目的である。
「なぁアル、これ無理じゃね?」
「無理じゃない、と言うかやるしかないんだ」
素材は購入するから予算がなくなる、ならば自分たちで集めれば良いのだ。
比較的集めやすかったのがこのビガー蝶なのだが素材としてはあまり有名ではないため出回らない、スバルさんは使うと言ってたし多く取れれば薬品三課でも買い取ってくれるみたいだ。
それに素材集めの為に魔獣討伐や危険地帯に行くのは自分たちには無理だろう。
「だいぶ集まった、これで帰れるな」
「やっとか」
「疲れた」
結局、納得いく数が集まったのは夕方だった、これ以上は暗くて無理だしね。
帰りの馬車の中、ダストンさんが話し掛けてきた。
「俺は採取とか苦手だな、早く魔剣を造りたい」
線が細くまだ若い彼は開発部に来たドワーフでカイトと一緒に魔剣の威力向上を目指している
「ダメですよ、皆が適当に申請したからこんな事態になってるんですから、それとダストンさんとカイトの開発は中止するかもしれません」
「なんでだよ!」
すかさずカイトが口を挟んできた。
「魔剣を使った所を見る機会があったんだけどあれ以上の威力は必要ないよ」
王国でキーコンさんが使ったのを見たが十分な威力だった。
「最強の武器を求めるのは男のロマンだろ」
「そう、一撃で全てを破壊する武器がいいんだ」
あーこの二人はダメだ、ロマンなんかでは飯は食えないんだよ、でも完全に否定したらやる気がなくなるかもしれないな。
「まぁ他の開発が済んで予算が余ったら考えましょう」
「頼むぜアル!」
「早く他の開発を終わらせよう!」
とりあえず問題は先送りにしよう、当分二人の開発を進める気はない。
あれから二週間程経ってスバルさんの化粧品も形になってきた、採ってきた蝶も役に立ったらしい。
「よし! あとの細かい書類作業はオカマ課長にやらせれば良いからこれで出来上がったな」
「スバルさんお疲れ様です、これでまた一つヴァイスブランドの新商品が出来ましたね」
「あぁ、我ながらいい物が出来たと思うぜ、で、次は誰の開発をするんだ?」
「一旦開発部の物は置いておいて他からの依頼をこなしていくつもりです」
「そうなのか、他からの依頼なんてあるんだな」
「ええ、道具課や武器課からの依頼もあるんで、そっちを進めて行くつもりです」
「まっ俺は一段落したからな、あとは上手くやってくれ、じゃあ俺はコイツを持って古巣の薬品三課に行ってくるわ」
そう言ってスバルさんは新しく出来た化粧水と仕様書を持って出て行った。
さて、今後どう動こうか、皆には他の部署の依頼をこなしてもらうとして、個人的に副塔長からの依頼もあるからそっちもやりたいし自分も何か開発とかしたいなぁ。
次の日から皆には予定通り他の部署の仕事をしてもらい自分はと言うと
「アル、何してるの?」
「あぁルイさん、先に副塔長に頼まれた仕事を終わらせようと思いまして」
テーブルには副塔長から預かった手甲が置いてある。
「これを……どうするの?」
「例の技術を使って重くして欲しいと言われたんですが……どれぐらい魔力を込めればいいか考えてるんです」
重くしすぎれば手甲として使えないんじゃないかなどの心配をしているのだ。
「前に籠手を重くした時はどうだったの?」
「あの時は……早く魔力を込めて……たしか一定量以上魔力が入らなくなりましたね」
「ならそこまで魔力を込めればいいんじゃない?」
「そうですね、それでいきましょう、ありがとうございますルイさん」
テーブルに置いてある二つの手甲に水の魔力を限界まで込めた、これで依頼完了だね。




