The Malice
過去の話が進むにつれ、小角との再会で、歓喜溢れていた雰囲気が、薄れていった。
「皆、どうした。過ぎた事だ。我はこうして玄のお蔭で戻って来られた。前を見ようぞ」
「小角、お主をあんな酷い目に合わせたのだ。忘れられるはずがないだろ」
「お、ヤコではないか? 否、ここでは、コンと呼ばれておったな」
「玄、済まぬが、、、、ヤコに戻ってよいか?」
『ガーン!』
「俺のネーミングセンスが、悪くてスミマセン。はい勿論です。ヤコさんと呼ばせて貰います! それから監一さんも義覚さんと言う事で、、、、耕三さんも大嶽丸様と、お呼びした方が、いいのでしょうか?」
俺は、恥ずかしい気持ち一杯で謝罪した。
「そうだな、義覚の方が馴染みがあるが、どちらでも構わんぞ」
「いえいえ、義覚さんの方が断然かっこいいので、それでお願いします。監視鬼さんの1人だからって、監一さんだなんて、本当に恥ずかしい! あ、監二さんは? 本当は何て名前だったの?」
「わしは弟子になった事がないので、名は無い。監二でいいぞ」
「俺様も耕三でいいぞ。不死だから名も変わらん。そろそろ飽きて来た頃だったからな」
「いやいや、大嶽丸、超かっこいいじゃん! ちょっと長いし、舌嚙みそうだけど」
「で、ヤコ、黄泉に送った後の事を、何故知っておるのだ?」
「黄泉に着くや否や、閻魔帳を奪い取ったからだ」
「そんな余計な事を、、、、我は無痛の技を掛けておった。痛くも痒くもなかったぞ。あはは」
『黄泉路をつくるために、法力を使い果たしたお前に、そんな事が出来たはずがない』
耕三は心で呟いていた。
小角さんは、妖達を黄泉に逃がした後、時代劇に出て来る様な、処罰を受けたに違いない。
「小角さん、、、、」
玄が呼び掛けようとした時、小角と耕三が殺気を感じ険しい顔をした。
「また来たか。獄卒どもめ」
「玄の作業場のようだな」
「勇達が危ない。急いだ方がいいな」
「耕三さんどうしたの? 勇達が危ないって?」
「説明は後だ。行くぞ」
先程までフワフワとしていた白い靄が、玄の身体に戻ると、耕三に手を掴まれなくとも、空間転移で地獄カフェに戻っていた。
「俺の力で転移? あ、そっか、小角さんの法力だ。すげえな~」
浮かれていたのは、俺たった1人だった。
何故ならまた獄卒が、カフェに現れていたからだ。
椅子や机、そして勇達が作ったスコーンなどが、至る所に散乱してあった。そして勇達は獄卒に抵抗しようとしたのか、床に倒れていた。
「なんてことを、、、、くっそ! 勇、義晴、茜先輩、大丈夫か?」
俺は獄卒など恐れず、皆に声を掛けた。
「またお前か。その女に惚れておったな。この女を喰った後に、お前の味見をしてやる。きぃきぃきぃ。」
耳障りな笑い声を立てると、茜の方に向って歩き出した。
「おい、やめろ!」
俺の叫び声に、重なる声がすると、義覚が眩しい光を放ちながら、獄卒と茜の間に立塞がった。
「義覚さん!」
きっと義覚には、凄い技があるのかもしれない。俺はこれで皆が助かるのでは、と期待した。
しかし、目も眩むような光が鎮まると、そこには何故か小さくなった義覚が、獄卒の前に立っていた。
「え? なんで小さくなってるの! 駄目じゃん!」
俺は義覚が獄卒を前に、力が弱まったのだと思い、危機感に襲われた。
「あれが義覚の本来の姿だ」
「そうなの? 耕三さん」
本来の姿に戻った義覚を前に、獄卒は一瞬怯んだ。
「お前、小角の弟子か!」
義覚の様子を見ながら、玄に説明していた耕三に、1鬼が目を向けた。
「久しいの、大嶽丸」
「金鬼か。阿鼻の人間どもを全て喰うたと聞く。そんなに力を蓄えて、どうする気だ?」
「ああ、千方が蘇ったのだ。人界を取り戻すぞ。此度こそ我等に力を貸せ」
「俺様の答えは変わらん」
「相変わらず強情だな。後悔することになるぞ」
金鬼はそう告げると、眼球を横へ動かした。
それが合図だったのか、先程、義覚に茜への攻撃を遮られた獄卒が、今度は義晴の前に突如移動すると、首を絞めつけ身体を持ち上げた。
「う、うううう」
「義晴! やめろ――」
俺は、義晴の元へ駆け寄ろうとしたが、耕三に止められた。
「これ等をどうも、贔屓しているようだな。どうだ殺されたくなければ、我の思い通りになれ」
すると、玄の中から、またもや白い魂が飛び出し、皆の前に現れた。
「千方の4鬼か久しいの。ここを散らかしたのは、風鬼、そちの仕業か? 片付けなさい」
「え? 小角さん? 今、お片付けの時間じゃないんだけど」
「小角、、、、相変わらずだな」
耕三が小角の不変な態度に頭を抱えた。
「小角か? がははは、これは良い。うぬを亡き者にすれば、人界は我等の物よ!」
金鬼と呼ばれてた獄卒は、小角を知っているのだ。そして金鬼の、小角に対する目付きは、獲物を前にした猛獣の様である。
だが、玄はそれどころでは無かった。
「義晴!」
またもや玄の足を止めた耕三は、既に獄卒の背後に回っており、口の中で念仏を唱え、手を肩に置いた。
「おのれ! 大嶽丸! なぜ故にいつも人間を庇うのだ!」
「水鬼、おかしな事を言うな。千方も人間だぞ」
「ギャー―」
義晴を掴んでいた水鬼から、黒い影の様なモノが溢れでると、その場から消去された。
掴まれていた手に解放され、崩れ落ちた義晴に、玄は駆け寄った。
「大丈夫か? 義晴!」
「ああ、何とかな。ありがと」
しかし獄卒の爪が、首の辺りに喰い込んでいたのか、痛々しい傷を残し流血していた。
この程度の傷であれば、地獄での身体は治癒するはず。
俺は着ていた服を破り、止血の努力をしていると、耕三が現れ、治癒術を施してくれた。
「獄卒にやられた傷は、自然に癒えん」
「そうなんだ」
「耕三さん、有難うございます」
義晴は、か細い声で礼を述べた。
「耕三さん、さっきの水鬼、成敗したの?」
「否、膨大になった邪鬼力を取り除き、阿鼻に戻しただけだ」
耕三は、義晴に治癒を施しながら、不安げに応えた。
何故なら人界で獄卒を倒すのは、これほど上手くは行かないからだ。
「小角、今度こそ人間を全て亡き者し、人界を取り戻す。もう邪魔立てはさせぬ。うぬはここで死ね」
そう金鬼が告げると、金の剣が多数空中に出現し、白い靄をした小角に向けて放たれた。
「南無神変大菩薩」
念仏を唱えた小角の回りに結界が張り、金鬼の放った剣が、結界に吸い寄せられ消去された。
「法力はそのままの様だな。面白い」
突然カフェ一帯に、5本の竜巻が起こり、茜を吹き飛ばし、義覚も、足をすくわれそうになるのを堪えていた。
義晴の治癒を終えた耕三は立ち上がると、風の術を掛けている風鬼の背後に移動し、先程同様に風鬼から膨れ上がった邪鬼力を、取り除こうとした。
それを察知した風鬼は手で耕三を掃う。
しかし耕三は両腕で受け止め、2メートル程下がったが何とか持ち堪えた。
耕三は手加減をしていた。ここは玄のカフェ。これ以上、破壊したくなかったのだ。
「回復術で直すしかないな」
耕三と風鬼が戦っている頃、同じくして白い靄の小角と金鬼も、互角の戦いを繰り広げていた。
「なぁ、金鬼よ。玄の作った物は、旨いだろうが。食っても心は浄化されぬか?」
「人間を喰う方が力になる。浄化など獄卒には無用だ」
「今の人界は、そち等の知っている所とは随分違うぞ。地獄の方が、楽しいのではないか」
「構わん。我は人界を取り戻すのみ」
「そうか、心は変わらぬか。残念だ。ならばもう二度と、そちを阿鼻地獄から出すわけにいかぬな」
小角は両手で手印を結んだ。
「オンギャクギャクエン ノウバソクアランキャ」
「そうはさせぬ」
金鬼は、両手から剣の生えた蔦を取り出すと、小角を囲もうとした。だが義覚が、それを鬼火で焼き放つ。しかし次々と生え出る蔦は、義覚の足を捉え、剣の針で射抜いた。
小角の共である妖は、闘いの術を持ち得ておらず、義覚も例外では無かった。
それは小角が、彼等を陰陽師のように使役させるのでは無く、友として接していたからだ。
そのため小角は式鬼神さえも、従えていなかったのだ。
主従関係でなく、純粋に小角を慕う妖や耕三のような鬼達が、常に彼と行動を共にしていた。
「ソワカ!」
小角が真言を唱え終えると、金鬼を銀の光が包込んだ。
「ううう、おのれ小角め。力を奪い取るつもりか!」
玄達は、突風で飛ばされた、茜の元に集まっていた。
その場は耕三達の戦闘から、少し離れていたため、ここで暫くの間、避難することにしたのだ。
「茜先輩、ぶっ飛ばされたから心配したけど、無事で良かった」
「うん、私もビックリしたけど大丈夫みたい」
「勇も引っ掻き傷が凄いけど、大丈夫か?」
「おお、これくらい大した事ない。でもこの傷治らないんだな」
「獄卒に付けられた傷は、治癒しないんだって」
「そうやて、僕もさっき耕三さんの治癒術で、治してもらった」
「そうなんだ。ま、これくらい大した事ないけど、耕三さんの治癒って、受けてみたい。義晴ラッキーだな」
「こんな時に余裕やな」
「あははは、それだけが取り柄だ」
「耕三さん、小角さん、それと義覚さんが、獄卒を彼等の居るべき場所に、送ってくれるはず。信じてここで待っていよう」
勇、義晴、茜は真剣な眼で玄に同意した。
「で、小角さんと義覚さんって誰?」
「あははは、落ち着いたら説明するよ」
「おう」
俺は耕三達を信じて待つしかなかった。
しかし、その時立ち話をしていた俺の背後に、誰かが出現したのに、気付いていなかったのだ。
「うっ!」
俺の背中に誰かが身体を預けて来た。




