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地獄でカフェをOPENしました  作者: 美倭古
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First Sip

 俺はレバーに手を掛け、先ずは熱湯を抽出口から流してみた。常に沸騰状態なのだ、現世の機械と違い、このレバーを下げて湯が沸くのを待つ必要がない。

「お~ すげえ。ちゃんと熱湯が出るよ。お湯が掛からないから、見に来ても大丈夫だよ」

 後ろで控えていた皆の足早に歩く音が近づいて来る。

「じゃあ、勇、フィルターをはめるぞ」

「おお」

 俺達は、2つ取り付けてある抽出口、どちらも試してみることにした。

 勇は俺よりも長身であるからか、2回ほどトライしただけで、上手くフィルターをはめたようだ。

「あ、勇、上手じゃん。俺なんて何度も挑戦して、やっとはまったのに」

 あの時、耕三が後ろで控えていたから、緊張していたのだろうか? 俺も今回は一発でポルタフィルターをはめ込んだ。

「まぁな。で、次どうすんだ?」

 俺は抽出圧力計を確認した。

「9気圧。完璧だ。じゃあ、このレバーを下すんだ。普通だったら30秒が目安なんだけど、コップも機械も大きいから、どうだろ? とりあえず、カウントしよう」

「おう、じゃあ行くぞ」

「うん」

 当り前だが、ピストンレバーには圧力が掛かった状態だ。そのため、耕三の前で軽々と下せたレバーが、今回は別物のような重量を感じさせた。

 それでも、俺と勇は、高い位置に設置してあるレバーに、体重をかけて同時に下すと、数を数え始めた。

「4,5 勇、レバーを離して」

「あ、ああ。もういいのか?」

「そう」

 俺達がレバーを離すと、ゆっくりと確実に元の位置に戻っていく。

 コーヒーの粉に熱湯が、かかったのだろう、俺達はコーヒーの夢を見せられているような感覚になり、誰もが目を閉じた。


『エスプレッソ1つとカプチーノ、チョコ乗せで1つ』

 俺の中にある生きていた頃の記憶がまた蘇った。白黒の画面の中で、俺の手だけが写っており、エスプレッソマシンのボタンを押す。

『シュー』

 という音と共に、湯気が一機にキッチン内に立ち込める。

『あの音が好きだったな~』


「20、21、22」

 勇のカウントが呼び声となり、一瞬数を数えるのを忘れそうになった俺を、地獄へと戻してくれた。

「28、29、30 オッケー、じゃあ監一さん達のカップを外して」

「え? まだコーヒーが落ちてるぞ。それにカップの半分くらいしか入ってないぜ。これでいいのか?」

「うん。後でコーヒー粉の状態を見てみないと、確実な事は言えないけど、多分これで完成」

 勇は半信半疑だったが、俺を信じて監一達の器を、抽出口の下から取り出した。

 その後、コーヒーの抽出が直ぐに止まるのを確認した俺は、機械も器も大きいが、抽出されるタイミングは、普通サイズと変わらないのだと確信した。

「どんな感じ? いつも使ってた機械と同じ?」

 茜が興味津々で俺の肩越しに抽出されたコーヒーを見ながら尋ねてきた。

「茜先輩、これ、カフェルージュのよりも断然いい。圧力が掛かったレバーを、引き下ろすのに力が要るけどね。次はミルク。上手に泡立てられたら完璧だよ」

「うん、もう牛乳はピッチャーに入ってるよ。手伝うね」

「ありがと」

 ミルクの入ったピッチャーは予想よりも重みがあった。最後に持ち上げる必要があるため、念のために2人1組で作業をすることにした。

「先ずは、スチームを出してみて。布はそこに用意しておいた」

「分かったわ。じゃあスチーム出してみるね。このレバーを下せばいいの?」

「そう」

「理子ちゃん、スチームが出る時、多分凄い音がすると思う。ビックリしないでね」

「はい、大丈夫です。いつも通ってたカフェで、よく見てたので知ってます」

 俺は、スチームが出るレバーを少し下してみた。するとノズルから勢いよく蒸気が出て来た。

「シュー」

 蒸気音と共に辺りを熱くて白い靄が立ち込める。

「すごーい。これ本格的だわ」

「だね~」

 俺と茜は、布でノズルを綺麗に拭くと、ミルクピッチャーを下に置き、少し斜めに傾けると手を添えた。

「準備OK?」

「うん、大丈夫」

 俺達は同時にレバーを下ろした。すると、ミルクを泡立てる音が耳に入り込んできた。

 懐かしさに心は踊っていたが、実は俺、この牛乳を泡立てる作業が、苦手だったのだ。

「茜先輩によく怒られたな~」

「何か言った? ねぇ玄君、カプチーノ? それともラテ?」

 カプチーノとラテでは、ミルクとエスプレッソの割合だけでなく、ミルクの泡立てられる状態も違うのだ。

「どっちでも」

 適当に答えると、茜の渋い顔が見えた。茜がコーヒー命なのを忘れていた。

「茜先輩、持ち上げるの大変でしょ? 俺、頑張ってカプチーノにしてみます。ご存知の通り下手ですが」

「了解。じゃあ私はラテね」

 蒸気道から蒸気が噴き出す音色と、ミルクピッチャーの中から発生する音が、まるでデュエットでもするように地獄に奏でられた。

「茜さんミルクが何度になったらいいんですか?」

 ミルクピッチャーに取り付けてあった温度計を確認しながら理子が尋ねる。   

「ラテはスチームミルクの割合が殆どだから、このまま60度近くまで温めるね。それで、理子ちゃんに手伝って貰って、ピッチャーを持ち上げたら、最後に少しだけ空気を含ませて泡立てるの」

「カプチーノは違うんですか?」

「カプチーノはフォームドミルクって泡ミルクと、スチームミルクの割合が1対1。だから、30度位になったら、ノズルの先端をもっと中に入れて、シッカリと泡立てるの。玄君ちゃんと覚えてるといいけど」

 俺は、茜が理子に説明している通り、30度になった時点でピッチャーを持ち上げ、ミルクを泡立てていた。

 重いと思っていたピッチャーだったが、控えていた勇の手を借りずとも大丈夫だった。

 そして温度が60度になった時点で完成だ。

 最後に空蒸気を出しノズルを綺麗にする。

 俺はピッチャーの底をトントンと叩くと、器のまま蒸気道で保温しておいたコーヒーに、ミルクを入れる作業に移ろうとした。

 ミルクピッチャーを抱えるのに、少し手伝って貰おうと勇を探したが、茜に呼ばれていた。

 コーヒー命の茜は理子と勇を巻き込んで、ラテアートを施すつもりだ。

「どんだけ~」


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