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地獄でカフェをOPENしました  作者: 美倭古
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Slippery Thing

 畜生界で作るクリームは既に、殺菌処理済みだと耕三が教えてくれた。

 なのでこのままバターが作れるはずだ。

 問題は、想像していたよりも、遠心分離機が大きく、しかもクリームの入っている瓶も巨大だった。

「これどうやって使うんだよ。デカ過ぎるぜ」

 勇の不安が口からこぼれた。

「だな~ でも見てくれ、さすが耕三さんだな。通常、遠心分離機を動かすハンドルって上に付いてたり、横にあってもこのサイズだと大き過ぎて、俺達には回せなかっただろうけど、耕三さんが俺達でも扱えるように下に取り付けてくれているよ」

「本当だ。流石だな~♡」

「しかもこれを上下に動かすだけだ。これなら俺達にも出来る。でも、あのデカイ瓶は俺達には持ち上げられないから、クリームはバケツに少しずつ移して運ぶしかないな」

「バケツに移しても、この高さじゃ上から注入出来ないぜ」

「だな~ 岩で足場を作るしかないか。それともこの機械を岩場に近づけるか」

「とりあえず、この機械を持ち上げられるか、やってみようぜ」

「おう」

 遠心分離機を岩場に近づけたかった。機械を引き摺るのでは、傷が付いてしまうので、2人で持ち上げる努力をしたが、全く歯が立たなかった。

「重過ぎる……」

「ダメだ……」

「仕方ない、岩を運んできて足場を造るか」

 俺がそう思い立ち上が立った時、

「これをどこに持って行きたいのだ」

 監一が俺達に声を掛けてくれた。

 俺は、監一に思わず抱き付きたくなったのを何とか堪え、平常心を保ちながら、

「監一さん、手伝って貰っていいの?」

 と尋ねた。

「ああ、構わん。玄達の努力は感じられたからな」

 俺と勇はその場でヘナヘナと倒れ込みそうになったが、監一の気が変わらない内に遠心分離機を移動して貰うのが先だ。

「この機械大き過ぎて、上にクリームを流し込めないから、あの岩場を足場にしたら、いいかなって考えたんだ。あそこまで運んで貰ってもいい?」

「なるほど、分かった。で、どの辺りがいい?」

 そこまで考えていなかった俺達は慌てて岩場によじ登り、兆度いい場所に遠心分離機を設置して貰った。

「監一さんも神様みたいだよ~ 有難う」

「本当だ。助かった、サンキュ」

 俺と勇は岩場の上から監一に礼を告げると、早速クリームを以前厨房から届いていたバケツに少しずつ移し、流れ作業で全部、機械に投入した。

「じゃあ、回してみよう」

「オッケー」

 遠心分離機には、2ヶ所にハンドルが取付けられていた。勇と二手に分かれると空気入れの要領でハンドルを持ち、上下に動かそうとした。

「固い……」

「動かない……」

 俺達は体重を掛け、何とか下に押すことが出来たが、今度はハンドルを持ち上げるのが困難だった。

 だが、諦める事なく努力を続けると、機械の中心部が回転し始めたからか、ハンドルが若干軽量になった。機械がグルグルと勢いよく回る音が地獄に響いた。

 上下運動を休むことなく続け、腕も足も攣りそうなったが、俺達は無心で、努力を続けた。

 機械を回し始めて暫く経つと、分離機の下部に設置された器に、クリームからの余分な水分、すなわちホエイが流れ出て来た。

「お、勇、ホエイが出て来た。分離が始まった証拠だよ。頑張ろう!」

「おお!」

 勇はホエイが何か知らなかったが、相槌を打った。

 ひたすら回し続けると、もう水分が器に落ちて来ないようになった。

「多分、もう出来たと思う」

「手を放していいのか?」

「うん」

 俺達は1,2の3で手を放したが、まだハンドルは機械が回っている間、上下に動いていた。

「じゃあ、上に登ってみよう」

「おう」

 足と腕の疲労がピークであるにもかかわらず、俺達は駆け足で岩場を登り、遠心分離機の中を覗いた。

「うわ~ 大量のバターが出来てるぞ」

「すげえな、かなりの肉体労働だったけどな」

「次は、あのバターを練り込んで水で洗いたい。中に入って取り出すしかないか?」

「だな~ バケツに詰めて運び出すか」

「またパンツ一丁だな」

 俺達は服を脱ぐと、中に飛び込んだ。

「うわ~」

「げ~」

 俺と勇は中に入るや否や、バターに滑って転んだ。

「立てない」

「ヌルヌルだな」

 バターの山はかなり手強く、登るどころか、立ち上がることさえ難しい。

「ヤバいな」

「埋まってしまうぜ」

 俺達は何度も立ち上がろうとしては滑り、もがいては埋まりを繰り返した。

 この単に起立しようとする努力で、いつの間にか俺達はバターを練っていたようだ。

「何かまた水分が出て来たぜ」

「本当だ。俺達ただバターの中で暴れてるだけだけど、これで練る作業は十分かも。塩を入れれば良かった」

「塩入れてたら、俺等シワシワになってるぜ」

「あはは、冗談が言える勇は余裕だな」

「あのさ、俺達多分、外に出れないぜ。運び出すなんて、どうやっても無理だろ」

 バターの山を使ってよじ登ろうとしたが、手も足も出ない(滑る)。分離機の壁面まで、どうにか辿り着き、俺が勇を担いで外に出そうとしたが、やはり一緒に転んでしまうだけだ。

「本当だ。困ったな」

 機械内部の全てが脂っこく、もがけばもがくほど俺達2人は沈んでいった。

 勇と共に未だバターの山で埋まっていると、

「何をやっているんだ?」

 俺達が機械の中で四苦八苦しているのが気になった監一が覗き込んだ。

「監一さん、当然なんだけど、バターが滑るから立つことも出来なくて、ここからバターを取り出すなんて絶対に無理。うわーー」

 俺はまた転んだ。

「その出来上がったのを外へ出したいのか?」

「そう、お願いしてもいい?」

「構わん」

 監一は、先ず俺達を機械から摘まみ出してくれた。

「監一さん、ごめん、そこの塩を機械に入れてから、器に移して貰ってもいい?」

「わかった」

 監一は俺が予め用意しておいた塩をバターに加えると、楽しそうに手際良く混ぜ、上手に器に移してくれた。

「サンキュー 監一さんに2度も助けて貰った」

「まぁ、このくらいは手を貸してやってもいいだろう。やはり厨房鬼の道具じゃ難しいか?」

「うん、まあね。でも厨房鬼さんのを使わないと大量に出来ないし、時々どうしても俺達には歯が立たない作業だけ、手伝って貰えるなら、後は頑張るよ」

「承知した」

「ありがと」

「サンキュ」

「勇、監一さんが入れてくれたバターの器を川の方に運ぶよ」

「おお、それなら俺達でも出来そうだな」

「1、2の3」

「せーの」

 同時にバターの入っている器を持ち上げると、川へ向かった。

「不思議だな~ 地獄って強烈に暑いのに川の水は冷たいんだな」

「いや、川によって水温が違うみたい。耕作地で食器を洗った時に流れてた水は、これよりも温かかった」

「そうなんだ」

「ほら、俺達身体に付いたジャムとか、あっちに流れてる川で流すじゃん」

「あ、そうだな。あっちの川はこんなに冷たくなかったな」

「不思議だよね~ 上手に使い分けて作業の効率を上げてるんだよ。ここの水は冷たいからフルーツとか洗うのに最適だしね。バターだって水が冷たくないと今頃、溶けて流れていってる」

「だな~。それにさ、ここで作る食べ物って全部、無添加だよな。俺が病弱だったから、お袋がいつも添加物とか気にしてくれててさ。俺も自然と意識するようになったんだけど」

「本当だ。それに、もしかしたら食材もオーガニックかもよ」

「だったら、すげえな。自給自足だぜ」

「あ、でもあの耕作さんなら、最強の肥料とか作ってそうだな」

「あははは、ありえる」

 川の流れる力を利用すると、簡単にバターを洗う事が出来た。

「さてと、あとは小分けにするだけだ。やった、バターが出来た!」

「監一さんが手伝ってくれたお蔭だな」

「そうだね」

 バターを持って俺の厨房に戻ると、再度監一に礼を述べた。

 以前、厨房鬼が使用していない作業台を、俺達の高さに合わせて届けてくれた。その上でバターを幾つかの器に詰めると、温度が0度の環境に転送して貰った。


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