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地獄でカフェをOPENしました  作者: 美倭古
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Another Experience

 俺は耕三がコンを黙視しているのに気が付いた。

「そうだ耕三さん、その子コンって名付けたんだけど、耕作地に住んでたか知ってる?」

 耕三は聞こえていない様子だった。

 もしかすると、モフモフ好き? まさか耕三のペットだったとか? 

 俺は少し焦った。最近のコンは元気を取り戻していて、元居た場所に帰しても大丈夫な状態だったのだ。でも俺はまだ離れるのが嫌だった、、、、もう少しだけ一緒に居たい。

 こんな気持ち前にも抱いた気がする。そうか、俺が幼少の頃に保護したあの仔犬と別れた時と同じだ。

 でもコンはあの時の仔犬と違って帰る所があるのだ。一緒に居たいなんて俺の我儘だ。それに家族や仲間がコンを待っているはず。何よりコンだって自分の住処に帰りたいに決まっている。地獄なんかに居たいはずがない。決心しなければ。

「耕三さん?」

「ん? 何か言ったか?」

「あ、その狐鬼、俺が保護したんだけど、もうすっかり元気になったから元居た場所に帰してあげた方がいいと思って」

「狐鬼、、、、、」

「そう。その子、耕作地で見た事ある?」

「さぁ 俺様は知らん」

「え? そうなの? 誰に聞いたらコンの住んでた所、知ってるんだろう」

「帰りたくなったら勝手に帰るだろう。奴等にはそのような力があるからな。今は玄の傍が気に入っているんじゃないか」

「そうなの? 勝手に帰れるの? 俺の傍がいいなら嬉しいな」

 そう言いながら、コンに近づくと抱き上げた。

 その様子を耕三は思慮深く傍観していた。

「さて、俺様は忙しい身だ。他に頼み事がないなら、そろそろ帰る」

「あ、そうそう、一応お願いしたい物とかを、リストにしておいた」

 俺は、抱いていたコンを下すと、炭で木の板に書いたリストを取り出した。

「人に物を頼むなら、読める字で書け」

「すみません、炭って難しいね」

 俺は、頭の後ろを掻いた。

「お、そうだ。大事なことを忘れる所だった」

 耕三はそう言うと、右手を前に差し出した。すると何も無かった手のひらに黒くて四角い物が現れた。

「これは、、、、、、えーーーー すげえ! 手に取ってもいいの? 俺にくれるの?」

「ああ、玄のだ」

 そう告げられ手に取った。何とそれは携帯電話だった。スマホではなくガラケーだが現世に帰った気分だ。

「めっちゃ嬉しい。これも耕三さんが製作したの?」

「ああ。それは玄にしか使えないようになっている。玄の持つ『気』に反応して作動するからな。あと、


1 耕作地 通常は俺(耕三)に繋がる

2 厨房 

3 監視場 通常は監一が応答


どうだ。便利だろ!」

「めっちゃくちゃ嬉しい。有難う」

「いや、監一を通じての伝言は、意味不明なことが多過ぎるから、この方が俺様にも楽だ。じゃあ、今後は何かあれば直接俺様に話せ。遠心分離機や石臼は俺様から厨房に伝言しておく」

「うん、分かった。宜しくお願いします」

 俺は、手土産にドライマンゴを耕三に渡すと、勇と共に頭を下げた。顔を上げた時にはもう耕三の姿は消えていた。


「耕三さん、俺が想像してたイケメン技術者兼科学者よりも、ずっと素敵だった」

 耕三の残影を名残惜しそうにしている勇の横顔を眺めながら、俺は心底ホッとしていた。耕三の様子からコンを既知しているようで、耕作地に連れて行ってしまうのではと不安で胸が痛かったのだ。

 俺は耕三から貰った携帯を首からぶら下げた。そう、携帯はストラップ付だったのだ。

「さてと、早速チョコレート作りに取り掛かろうぜ」

 パンパンと手を2つ叩いて自分に気合を入れた。否、未だ耕三で頭が満たされている勇の目を覚まさせるためだ。

「おい、チョコやるぞ」

「分かった」

 勇は俺が首からぶら下げている携帯を凝視すると、

「こんなん作れるって、まじ凄いな」

 そう呟いていた。

 

 俺は、耕三から受取った袋を開けてみた。

「カカオの実って、こんなに大きいんだ」

「ラグビーボールみたいだな」

「先ずは、発酵させるんだっけ? ここの暑さでいいのか?」

「うん多分。カカオの原産国も暑いと思うから大丈夫じゃない」

「さっき、バナナの葉も届いたよ。これにカカオの実を丸ごと包むだけでいいの?」

「いやいや中身の種子を出して、バナナの葉に包むはずだと思う」

「そっか。じゃあ、あっちに大きい包丁をセットしてるから、移動しよう」

「大きい包丁って怖えな」

「そうそう、俺では扱えない大きさだからさ、刃を上に向けて岩場に挟んでみた。逆ギロチンみたいだぞ」

「ひえ~‼」

 袋を担ぎながら例の包丁に辿り着いた。

「あははは、まじで逆ギロチンだな」

「だろ~ でもカカオの実も大きいから、この方が早く半分に割れそうじゃない?」

「だな~」

 俺達は早速、厨房鬼の大きい包丁を使って、各自1つずつカカオの実を持つと、半分に切ってみようと試みた。

「結構、固いな。切れねえ」

「勢いつけ過ぎて、腕まで切り落とさないようにな」

「だな~ こえ~」

「は! 切れた。皮ってこんなに分厚いんだ。そりゃ苦労するわ」

「うお~ 親父が持ってた本に載ってた写真と同じだ」

 カカオ実を半分に切ると白い物が詰まっていた。

「これがチョコになるの? 種とかじゃないんだ」

「いやいや、これはカカオパルプって呼ばれる果肉だ」

「え? じゃあこの部分も食べれるの? チョコになる部分って、フルーツを食べた後ってこと?」

「パルプも食べれるけど、このまま果肉ごと発酵するのが、カカオ豆の風味を引き出すのに必要不可欠なはず」

「そうなんだ、、、、、でもさぁ、ちょっと味見してもいい?」

「え? どんな味か知らないぜ。超不味いかもよ」

「でも食べてみたい」

「玄ってさ、見た目によらず食べる事に関しては勇気あるよな」

「そう?」

「まぁ、ちょっとくらい食べても、大丈夫じゃね」

「やった!」

 俺は、白い塊を分け1つだけ取り出し、口に入れてみた。

「うっ!」

 俺は口を手で押さえた。

「おい、玄。大丈夫か!」

 勇が俺の丸めた背中に手を添えた。

「これ、うめ~」

「え? 何だよ!」

「あははは、勇も食べてみろよ。これ発酵するのに使うの勿体ないくらい旨いぞ」

「まじで?」

 勇も恐る恐る、1粒口に入れてみた。

「うわ~ 南国だな。でも意外とあっさりしてる。ライチ? みたいか? なんだろう」

「だな~ 初めて食べる味だ」

「本当だな、パルプも食べたいな。こんなに旨いなら、もしかすると商品になってるかもな。ちくしょう、やっぱりちゃんと本を読んでおけばよかった! カカオの種だけで発酵してもいいのか分かんねぇ」

 勇はその場で頭を抱え、しゃがみ込んだ。

「まぁまぁ、俺が知らないのも悪いんだし。今回は、果肉ごと発酵しよう。目的はチョコだからさ」

 俺はしゃがみ込む勇の肩に手を添えた。

「だな~ そうしよう」

 俺達は、カカオの実からパルプごと取り出すと、バナナの葉で包み、邪魔にならない場所に保管した。

「勇にチョコレートの知識があってさ、まじで感謝してるんだぜ。俺だけだったら、絶対に諦めてたからさ。有難うな」

「玄」

「で、どれくらい発酵するの?」

「1週間くらいだな」

「そっか、結構掛かるんだね」

 包丁場から離れ、いつもの作業場に戻ると、何か大きい影が2つ俺達を待ち構えていた。

「何だ、あれは?」

「化け物か?」

「でも動いてないよ」

「監一さん、平気な顔してるなぁ」

「ああああ、あれって、もしかしたら!」

 俺は興奮しながら大きな影に駆け寄った。

「石臼と遠心分離機だ! やっぱステンレスあるんだなぁ」

「耕三さん、仕事がはえ―― まじで出来る男だな♡」

「はいはい、勇君、お仕事お仕事。バターを作るぞ!」

 耕三の話から、きっと人間界にバターもチーズも既に存在している気がした。それを言わないのは、耕三が告げたように俺達は肉体を酷使する業を、続けなければならないからだ。

「頑張ろう! そしてカフェをオープンさせて、旨い物を食べて貰おう」

 地獄の皆に誓った。


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