結婚宣言
「まゆみさん、あたしー、結婚するわ。」
「えっ?誰と。」
「じゅんのすけ君よ、当たり前でしょー」
当たり前と言われても、そもそもじゅんのすけとやらはどなた様なのか。義妹によると、保育園の友達らしい。
「昨日約束したの。」
「パパとママには言ったの?」
「ママは知ってるけど、しゅうじは知らない。しゅうじ、仕事で毎日遅いしー、すぐ怒るしー。」
「しゅうじって、パパを呼び捨てはダメでしょ。だいだい結婚って意味わかる?」
「わかるよ。一緒に住むこと。」
「どこに住むの?」
「メルちゃんハウス。」
メルちゃんハウスとは、縦横高さ1㍍のピンク色のビニールハウスである。
義父が亡くなった後、義母はかなりの断捨離を行い、夫の実家は大分スッキリした。義母は新しい家具を置いたりして、好みのインテリアにするつもりだったが、予期せぬメルちゃんハウスの登場と、花ちゃんのおもちゃブースの出現で、ほどなくリビングの半分が埋まり、義母の構想は泡と消えた。
「メルハウスってさあ、、、」
「メルちゃんハウス!」
「メル"ちゃん"ハウスってさあ、ばあばの家にあるじゃない。結婚は自立を意味するのよ。二人で暮らさなきゃ。ばあばに頼ってるじゃないの。ご飯はどうするの?」
「ママのとこで食べる。」
「夜は?ママと一緒に寝なくていいの?」
「夜はママの家に帰る。」
「お風呂は?洗濯は?」
「ママがするの。花ちゃん、子供だしね。」
「花ちゃんは何するの?」
「じゅんのすけ君と遊ぶの。」
「ダメじゃん、それ。」
すると、花ちゃんはため息をつき、
「昨日、じゅんのすけ君にぎゅっとされたから、結婚しなくちゃいけないの。仕方ないわ。」
と、諭すように言われた。
別に仕方なくはないが、何たる楽な結婚であるか。こんな結婚がまかり通るなら、ぜひ私もさせていただきたい。最近、残業が続き、洗濯物を取り込むのが遅れて、夫に叱られたばかりだから、尚更だ。
真剣に、メルちゃんハウスの中に、洋服やら鞄やらしまって、新生活の準備をしている花ちゃんの後ろ姿をみながら、子供に戻りたいなあと少しだけ思った。