#0 プロローグ
「なんじゃこりゃ〜!!」
目を覚ました瞬間、俺の口から出た言葉は、それしかなかった。
目の前に広がっていたのは、一面の草原だった。
どこまでも続いているように見える緑色の大地。
風が吹くたび、背の低い草が波のように揺れている。
空はどこまでも青い。
太陽も出ている。
なのに、俺にはここがどこなのかまったく分からなかった。
見覚えがない。
こんな場所に来た記憶もない。
そもそも、どうして自分がここで倒れていたのかすら分からない。
俺はゆっくりと上半身を起こした。
服についた草を払いながら、周囲を見渡す。
右を見ても草原。
左を見ても草原。
後ろを見ても草原。
前を見ても――草原。
……本当に何もない。
⋯夢?夢なのか?考えれば考えるほど、夢であってくれ、という願望に変わる。
そうだ。
これは夢だ。
きっとそうだ。
俺は自分の頬をつねってみた。
痛い。
もう一度つねる。
やっぱり痛い。
「夢の中なら痛くない」という話を聞いたことがあるが、今はそんなことを考えている場合ではない。
夢じゃなかったら、ここはどこなんだ?
そんな疑問が頭を埋め尽くしていく。
そして俺は、ふと自分の目の前に何かがいることに気づいた。
いや。
正確には、最初からいた。
ただ、あまりにも現実離れした存在だったせいで、脳が認識することを拒否していたのだ。
なぜなら、眼の前で巨大なバッタが仁王立ちしているからだ⋯!
……。
俺は固まった。
巨大なバッタ。
普通のバッタなら、手のひらにも乗るくらいの大きさだ。
しかし、目の前にいるこいつは違う。
デカい。
とにかくデカい。
俺よりも大きい。
長い脚。
緑色の体。
そして、こちらをじっと見つめる黒い目。
草原の中に立つその姿は、まるでこの場所の主みたいだった。
俺は何も言えなかった。
巨大バッタも動かない。
ただ、俺を見ている。
俺も見る。
バッタも見る。
風だけが、俺たちの間を通り抜けていく。
……いや。
まだ敵だと決まったわけじゃない。
もしかすると、倒れていた俺を心配してきてくれたのかもしれない。
そう考えると、少しだけ気持ちが楽になった。
……いや、ならない。
どう考えてもならない。
むしろ、自分より大きなバッタが目の前にいるという事実が、より怖く感じられてきた。
でも、何か話しかけてみるしかない。
俺は恐る恐る口を開いた。
「あ、あの⋯。」
声が震えた。
巨大バッタは反応しない。
俺はさらに続けようとした。
ここはどこですか、と。
あなたは何ですか、と。
そんな言葉が頭に浮かぶ。
しかし、その前に――。
「グワァァァァァァァァァァァァ!!!」
巨大バッタが突然、大声を上げた。
「うわっ!」
俺は反射的に後ずさる。
耳が痛い。
あまりの大声に、体が勝手に震えた。
その瞬間、俺の中で一つの結論が出た。
はい、決まりました。襲いに来てる。逃げよう。
俺は迷わなかった。
というより、迷っている暇がなかった。
俺は踵を返した。
そして、草原を思い切り蹴った。
俺は全速力で走った。逃げて、逃げて、逃げまくった。
風が顔に当たる。
草が足に絡みつく。
それでも走る。
後ろなんて見ない。
見たら怖くなって、足が止まりそうだった。
ただひたすら、前へ。
前へ。
前へ。
どこまで行っても草原。
景色が変わらない。
目印になるようなものもない。
俺はそれでも走った。
肺が苦しい。
喉が乾く。
足が痛い。
それでも止まれない。
後ろから何かが迫ってくる音がする。
ドン。
ドン。
ドン。
地面が揺れる。
まるで巨大な何かが、俺を追いかけてきているような音だ。
……いや。
「ような」じゃない。
実際に追いかけてきている。
俺は一瞬だけ後ろを振り返った。
そこには、巨大なバッタがいた。
さっきまで遠くにいたはずなのに、もうかなり近い。
俺は慌てて前を向いた。
「速すぎるだろ!」
思わず叫んだ。
俺は必死に足を動かす。
だが、バッタの歩幅は俺の歩幅の5倍。逃げられるわけがない。
俺が何歩も走っている間に、あいつはたった一歩で距離を詰めてくる。
絶望的だった。
俺はもっと速く走ろうとする。
しかし、足が言うことを聞かない。
さっきから全力で走り続けているせいで、もう限界が近づいている。
それでも走る。
止まったら終わる。
そんな気がした。
草原はどこまでも続いている。
逃げても逃げても、同じ景色。
俺は心の中で叫んだ。
誰か。
誰でもいい。
助けてくれ。
こんな意味の分からない場所で、こんな意味の分からないバッタに殺されるなんて、絶対に嫌だ。
だが、返事はない。
聞こえるのは、自分の荒い呼吸と――。
ドン。
ドン。
ドン。
巨大バッタの足音だけ。
その音が、どんどん近づいてくる。
俺は振り返る。
巨大な影が、すぐ後ろまで迫っていた。
「う、うそだろ……!」
俺はさらに走ろうとした。
だが、その瞬間。
足がもつれた。
「うわっ!」
俺は草原の上に倒れ込んだ。
ズサァッ!
草が顔に当たる。
土が服につく。
痛い。
でも、そんなことを気にしている場合ではない。
俺はすぐに起き上がろうとした。
しかし――。
足に力が入らない。
もう限界だった。
俺は震えながら、ゆっくりと後ろを振り返る。
そこには巨大バッタが立っていた。
逃げ場はない。
周囲を見ても、どこまでも続く草原だけ。
隠れる場所なんてない。
助けてくれる人もいない。
俺は後ずさる。
巨大バッタが一歩、こちらへ近づく。
ドン。
また一歩。
ドン。
その姿がどんどん大きく見える。
俺は必死に後ろへ下がった。
でも、もう逃げられない。
巨大バッタが、ゆっくりと体を動かした。
そして――。
「グワァァァァァァァァァァァァ!!!!」
「いぃぃーーーーやぁぁぁぁぁぁーーー!!!!」
草原に、俺の絶叫が響き渡った。
巨大バッタの影が俺を覆う。
何が起きるのか分からない。
ただ、恐怖だけが全身を支配していた。
俺は目を閉じた。
次の瞬間――。
グサッ。
・・・。
[著者・tops0216より天才のあなたへ]
最後まで読んでくれたあなた、ありがとう!!!!
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次回もお楽しみに!!!!
[次回予告]
#1 もう戻れません!!




