表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『過労死百貨店マンの江戸商売無双 ~「お客様第一」の精神とドラッカーマネジメントで、天下の市場を買い占める~』  作者: 桐生宇優
第三章:日本列島ドミナント編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/54

第46話:餅街道の誘惑と、賑やかな道中

本作は、現代の経営理論で歴史を動かすビジネス思考実験フィクションです。

「うわあ……! 見てください若旦那! お店の前で香ばしいお餅を焼いてますよ!」


桑名宿を出発し、伊勢神宮へ続く「参宮街道(伊勢街道)」へと足を踏み入れた越前屋一行。


街道に出て早々、お春が目を輝かせて立ち止まったのは、桑名名物の「安永餅あんえいもち」の店前であった。


細長く伸ばした餅に粒あんを包み、炭火で両面を香ばしく焼き上げた逸品である。


「う〜ん! もちもちで香ばしくて美味しい〜ッ!」


焼きたてを頬張り、幸せそうに頬を緩めるお春。

すると、次に到着した四日市(日永の追分)では平たい「なが餅」、少し進めば「たがね餅」と、街道のあちこちから甘く香ばしい匂いが漂ってくる。


お艶がくすりと笑いながら、煙管の煙をふうと吐き出した。


「お春ちゃん、この伊勢街道はね、別名『餅街道』なんて呼ばれるくらい、名物のお餅屋さんがずらりと並んでいるんだよ。何日も歩いて疲れた旅人が、一口で腹を満たせるようにねぇ」


「へぇ〜! 餅街道! 最高です! よーし、名物のお餅、全部食べ歩きますよーっ!」


お春はすっかり「餅スタンプラリー」モードに突入。


「はいっ、若旦那も一口! ぼーっと歩いてないで食べてください!」


「む、むぐっ……! お春、強引すぎる……! ふむ、だがこの一口サイズの形状と糖分補給の効率性は……」


「もう! 若旦那はすぐ難しい顔をするんだから! ほら、お艶さんもどうぞ!」


「あらあら、ありがと受け取るよ。ふふ、お春ちゃんと一緒に歩いてると、まるで遠足みたいで楽しいねぇ」


街道は、全国からやってきた「おかげ参り」の旅人たちで溢れかえり、歌をうたう者、酒を酌み交わしながら歩く者など、祭りのような熱気に包まれていた。


道中、茶屋で一息つきながら、貞次郎は桑名での出来事を思い返してポツリと呟いた。


「しかし……昨夜の桑名での伊勢屋との商談は、大きな収穫だったな。反物を売るのではなく『持ち帰りやすいお配り物(手ぬぐい等)』を企画し、高級品は『現地決済・後日配送』にするという提案……。伊勢屋も乗ってきたし、御師仲間を味方につけられたのは大きい」


お艶が盃を傾けながら微笑む。


「ふふ、あの伊勢屋の親父、最初は威張ってたのに、貞さんの提案と私の注いだ酒ですっかりデレデレになっちゃってねぇ。……でも貞さん、せっかく伊勢参りへ向かってるんだ。難しい商いの計画は一度忘れて、いまはこの熱気と旅を楽しんだらどうだい?」


「そうですそうです! 若旦那、見てくださいあちらを!」


お春が指差したのは、街道沿いの民家の玄関先であった。


「あれ……? お艶さん、あのおうちの玄関、立派なしめ縄が飾ってありますよ? もうすぐお正月でしたっけ……?」


お春が首をかしげる。見れば、街道沿いのどの家も、門口に立派なしめ縄を掲げているのだ。

お艶が煙管をくゆらせながら説明した。


「お春ちゃん、伊勢の国ではね、お正月が終わっても一年中しめ縄を外しちゃいけない風習があるんだよ。『蘇民将来そみんしょうらい子孫家門』って木札をつけてね、災いが家に入ってこないように守ってるのさ」


「へぇ〜! 一年中お正月みたいで、なんだかめでたいですね!」


お春が感心して手を合わせる。


貞次郎もそのしめ縄を見上げ、感心したように頷いた。


「信仰や地域の風習が、暮らしの中にこれほど深く根付いているとは……。なるほど、この熱気と大衆のエネルギーこそが『おかげ参り』の正体か。肌で感じてみなければ分からんものだな」


夕刻、一行は商人の街として賑わう「松阪まつさか」の宿に到着した。


宿の部屋に入ると、一日中歩き回って美味しいお餅を食べ尽くしたお春が、畳の上に大の字になって横たわった。


「ふぁ〜〜っ! いっぱい歩いて、いっぱいお餅を食べました〜! お腹いっぱいで幸せです……」


お艶がその隣に腰掛け、お春の頭を優しく撫でる。

「ふふ、お春ちゃんは本当においしそうに食べるねぇ。明日はついに、伊勢神宮のお膝元『山田(外宮)』と『おはらい町(内宮)』だよ。本場のお餅(赤福)も待ってるよ」


「ええっ!? まだ美味しいお餅があるんですか!? 楽しみすぎる〜!」


跳び起きて目を輝かせるお春。


貞次郎は大福帳を閉じ、二人の賑やかなやり取りを見て、ふっと口元を緩めた。


「よし、明日は伊勢神宮のお膝元へ乗り込む。数百万人の参拝客が狂乱のように集まる本陣で、参道(おはらい町)の熱気を存分に体感しようじゃないか!」


桑名で手に入れた「御師公認の VIP 通行手形」を胸に。


お春の食いしん坊パワーと、お艶の大人の色香、そして貞次郎の好奇心を乗せて、一行はいよいよ「お伊勢参り」の核心部へと迫っていくのだった。


(第47話へ続く)



三井貞治のビジネス指南と歴史考証

1. ビジネス指南:旅の体験と「大衆エネルギー(市場の熱量)」の体感

第46話では、机上のデータ分析から離れ、「現場の熱気や大衆の生のエネルギー(市場の熱量)を体感すること」の重要性を描きました。

優秀なビジネスパーソンほど、数字やロジックだけで市場を理解した気になりがちです。しかし、実際に現地に足を運び、旅人がなぜ餅を買い、なぜ一年中しめ縄を飾り、どのような表情で街道を歩いているのかという「感情と風土」を肌で知ることこそが、本当のヒット商品ニーズを生み出す原動力となります。

2. 歴史考証:名物「餅街道」と、一年中飾る「伊勢のしめ縄」

作中に登場した伊勢街道のグルメと、伊勢地方独特の風習について解説します。

甘党の天国! 参宮街道の「餅街道」の史実:

桑名から伊勢神宮に至る参宮街道は、別名「餅街道」と呼ばれるほど無数の餅屋が立ち並んでいました。桑名の「安永餅」、四日市の「なが餅」「たがね餅」、小俣の「へんば餅」、そして伊勢の「赤福餅」など、今も愛される名物が勢揃いしていました。これは徒歩で何日も歩く参拝客にとって、手軽に糖分エネルギーを補給できる最高の「旅のスタミナ源」だったからです。

一年中玄関に飾る「伊勢のしめ縄(蘇民将来)」:

伊勢地方(現在の三重県伊勢市周辺)では、お正月が終わっても玄関のしめ縄を外さず、一年中飾っておく独特の風習が現在も続いています。しめ縄の中央には「蘇民将来子孫家門そみんしょうらいしそんかもん」や「笑門」と書かれた木札が掲げられます。これは武答天神スサノオノミコトの民話に由来し、蘇民将来の子孫であることを示して疫病や災難から家を守るという、伊勢地方ならではの深い信仰と風習に基づいています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ