表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/71

第五章 ひとつの結末 九

純はリーリアの左手から「呪いを打ち消す剣」ことダマクラスの剣を受け取ると、結界の外に出た。寒さはほとんど感じなかった。

しかし、純はわずかな間身震いをした。武者震いではない。さむけを身に覚えたからでもない。自分の心に湧きのぼった恐怖の念が、我が身を微妙に震わせたのだった。

──怖かった。

たったひとりで邪神たちに立ち向かうことが、怖くて怖くてたまらなかった。月世に初めて逢った冬の日の夜なんかよりも、ずっと恐ろしくてならなかった。

魔力に目覚めたエクストラオメガといえども、自身の能力は未知数みちすうだ。自分の能力を完全に把握できているわけでもない。

けれど、純は前に進んだ。すっかり弱り切っている星来を、早いうちに助け出してやりたい──その純粋な願いが勇気と化して、両足に力を与えたのである。

竜たちは雷鳴のようにうるさい唸り声を上げ、首を高く伸ばし、歩く純を凝視している。ギラリと光る赤い目玉は、滴り落ちる鮮血のように凶暴なきらめきをていしていた。

天宮星来を助ける義理など、純にはない。

自分を傷つけようとした人間など、あっさり見捨ててやればよい。

しかし、純はそれでも、星来を護るために「呪いをはらう」という選択をした。不思議と、そのことに対する後悔は少しもなかった。「ここで死んでも構わない」とすら思っていた。

けれど、自分には、簡単にくたばるわけにはいかない理由がある。

運命のつがいである月世を残して死んだりしたら、きっと彼が悲しむだろう。

だから純は、「生きよう」と思った。どんなにみっともない姿を晒してもいい。おれは絶対に生き延びてみせる。そして、星来を護り切ってみせる。

星来は悪の道に走った。児童養護施設で暮らしていた子どもたちを誘拐したうえ、雌雄展開体女性ベータフィメイルたちをも異界に連れ去ろうとした。それは明らかに、非難されるべき振る舞いである。

それでも、純は願ってしまった。彼を護ることを、彼を許すことを、彼を救うことを、彼を愛することを願ってしまった。「あいつがもう一度、自分の人生を生き直してくれればいいな」と願ってしまった。

だからもう迷わない。

このまま悪神たちの餌食になるのだとしても、絶対に絶対に、星来を呪いから解放する。どんな危険を冒してでも、星来を助ける。

わかってはいるのだ。自分の考えは甘すぎる、と。星来を助けたところであいつは改心かいしんしないだろう、と。

だけどそれでも信じたい。星来の中にある「ヒトとしての心」を。彼のうちにひそむ善性ぜんせいを。

だって、彼の中にも愛はあった。彼は母親を愛していた。そして、いまも愛しつづけている。

母を一途に愛したからこそ、悪事に手を染めてしまったのだ。星来は。

ならば、──ならば、いま一度伝えたい。母親以外にも、彼に愛を注ぎたがっている人間がここにいることを伝えたいのだ。


純は竜たちの前で立ち止まった。

すると、唸り声を上げていたけものらの姿が氷の粒のように散って、ひとつに合体し、──ひとりの若い女と化した。


【続く】

【裏話】

この展開は最初から決めていました。

ここまで書くのに長い時間をかけましたが、書けてよかったと思っています。


※次回の更新は、31日の0時30分頃です。

※2026 4/4 加筆修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ