第五章 ひとつの結末 五
興奮した面持ちで詰め寄る星来に向かって、正絹が言った。
「すべてはおまえの言う通りだ。私が完全男性体同士で結婚していれば、幸美もおまえも犠牲にならずに済んだんだ」
そして彼はわずかに瞳を閉じると、
「──これは、私の罪だ」
と、悔やむように告げた。
「正絹さん……」
純は義父の名前を呼んだ。それがどういう意味をなすのか自分でも判断がつかなかったのだが、呼びかけずにはいられなかった。
「純くん、君の義理の父親は最低な完全男性体なんだよ」
まぶたを持ち上げた正絹が、驚きたじろぐ純へと視線を投げる。黒々と光る両眼の奥には、はっきりとした悲しみが宿っていた。
「幸美を愛したことが私の罪だ。彼女を伴侶として選ばなければ、私は罪から逃れられたかもしれない。
しかし、私はどうしても幸美が欲しかった。彼女が他の男のものになるなんて、想像したくもなかった。だから反対されるとわかっていて、彼女を選んだ。彼女を愛した。彼女と添い遂げること、それ自体が間違いなのだとしても、私は彼女と結ばれたかった」
「それが破滅の源になるとしても……か?」
星来の問いに、正絹がうなずきを返した。
柔い風が一吹きする。
揺れる梢の向こうに、夜空に浮かぶレガリアの姿が見えた。
ときが過ぎる。わずか十秒ほどの短い時間が。
誰も口を開かない。話を切り出す者もいない。
奇妙な光景だった。この場に佇む全員が互いの出方をうかがうように、目線を合わせたり逸らしたりしている。静寂を破るよりどころを探り合っているのは明らかなのに、その端緒を見いだせずにいる。
前髪を吹き上げるほどの強い風が駆け抜けた瞬間、ようやく会話が再開された。
「親父」
口火を切ったのは、他ならぬ天宮星来だった。
「潔く罪を認めるというんだな?」
「ああ。もちろんだとも」
正絹がまたしてもうなずいた。
「母さんを監禁したことも、森の中に放逐したことも、全部自分のせいだと自覚しているんだな?」
「そうだ」
正絹の声は張りつめたままだ。
「そうか……。わかったよ、親父。あんたの本心は大体わかった。心を読んでみたけれど、どうやら嘘はついていないようだしな」
星来が笑う──いつになく、穏やかな表情で。慈父を慕う幼子のように、無邪気に。
しかし、彼はすぐさま笑みを引っ込めた。そうして、
「……ふざけんな」
と、とりわけ低い声を出して、正絹の顔をにらみつけた。
「ふざけんなよ、親父。あんたがいくら母さんを愛していたとほざいたところで、あの人を不幸にしたことに変わりはねえんだよ。さっきも言ったけどな、母さんは体が弱かったんだぜ? なのにあんたは、母さんを見殺しにした! 母さんを幸せにするどころか、死に追いやった!」
正絹がぐっとこぶしを作る。まるでこみ上げる感情を抑えるように、両手に力を込めている……。
「愛していたというのなら、どうして母さんだけでも助けてくれなかったんだよ! 嫁さんを護る覚悟がないくせに、『愛していた』などと抜かすな!」
静まる園内に星来の怒声が響く。絶叫に近い大声が、夜の闇にとどろきわたる。
「あんただけは絶対に許さねえ! 天宮の家の奴らも、平和ボケしているこの町の住人も皆許さねえ! 俺は……、俺はいま、契約の力をもって、おまえら全員を破壊する! 完膚なきまでに叩きのめしてやる!」
純はびくりと身をすくませた。
星来の爪から黒い霧のようなものが立ちのぼった直後、それは──いつか夢の中で見た黒竜に変化したのだ!
【続く】
【裏話】
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※次回の更新は本日20時30分頃です。
※2026 4/4 加筆修正しました。




