4話 三年越しの真実 ~お姉ちゃんの大切な人1~
お父さんへのお使いを無事終わらせて、後は帰るだけだ。
エステラは裏道を使って近道をするのだという。
はぐれて迷子になるとかは絶対に嫌なので、わたしは絶対に離すものかと、エステラの手をぎゅっと握った。
店を出て、エステラの説明を聞きながら細い道を歩く。
大通りから細い道に入ると、徐々に大通りの喧騒が遠退いていった。
次第に小さな教会の屋根が見え、それを目指して進む。
裏道とはいえ、わたしが勝手に想像していた心配はここにはなかった。
薄暗い路地裏で治安が悪いとか、ごろつきがオラオラしているわけではないようだ。
エステラが言うには街の東側は旅商人、孤児や市民権を持たない旅人が多数。
西側は商家や農家、職人など身元がはっきりしてる者が多く、子供でも安全みたい。
……西側は比較的安全ってわけね。
だからといって東側が危険なのかというと、別にそういうこともない。
ただ、子供だけで行くのは何かあった時に困るから、という程度らしい。
しばらく歩くと、教会の入り口らしき門の前に着いた。
鉄柵で囲われた敷地内は綺麗に清掃され、大事にされているのがわかる。
鉄製と思われる門の先には、教会の入り口まで石畳の道が続いている。
道の両端には、葉が落ち寂しくなった名も知らぬ銀杏に似た木々が立ち並んでいた。
冷たい風が吹く中、道の上の落ち葉を丁寧に掃く、修道女らしい人たちの姿も。
……これが教会かぁ。
敷地もかなり広い教会だ。
この裏手の林でエステラが薪拾いをしていたようだ。
しかし、教会の手前の建物はなんだろうか。
孤児院……というよりも、倉庫のようにも見える。
「入ってみる?」
興味津々だったのがバレたらしい。
エステラがわたしの顔を覗き込んでそう言ってきた。
実際、気になってはいたので、こくりと頷く。
……お姉ちゃんも案内したいような感じだし、何かあるのかな?
手を引かれて門を抜けると、なんだか澄んだ空気に自然と気持ちが楽になる。
……空気が真夜中の神社みたい。
修道女がこちらに気づき、掃除をしていた手を止め、近づいてくる。
「こんにちはっ!」
「こんにちは、ステラ。そちらは、前に聞いた妹さんですか?」
「はい。今日初めて街に」
……あっ。
ぬばたまのような長い黒髪の修道女が、わたしの視線に合わせるようにそっと膝を折り、優しく微笑んだ。
「そうなのですね。初めまして、ステラの妹さん」
月明かりのような優しい金色の瞳に見つめられながら、わたしはまじまじと、相手の顔を見る。
……なに?! この大和撫子! まつ毛、長っ! どこかのお姫様みたいな人なんですけど……修道服より、巫女服の方が似合いそう。
さっそく自信を砕かれた。
もしかして、街にはこういう美人が沢山いたりするのだろうか。
清楚という言葉が似合う、とんでもなく綺麗な人だった。
その佇まいも、どこか神秘的なものを感じる。
鏡の前で、わたしって結構な美人さんになるんじゃないとか、わたし将来モテるかもなどと、思っていた自分がちょっと恥ずかしい。
「教会と孤児院で働いている修道女のレンと申します。ステラの妹さん、よろしくお願いします」
「……あぅ」
「あの、どうかしましたか?」
「いえ、綺麗すぎて……見惚れて……ました。すみません」
……感想言っちゃった。
「まぁっ! ありがとうございます」
……お礼言われちゃった……ちがう! ちがう! ちゃんと挨拶しなきゃ。
わたしは「改めまして」と、姿勢を正した。
「初めまして、こんにちは。エステラの妹です。よろしくお願いします」
「ふふっ。ステラに似て、妹さんも礼儀正しく、可愛らしいのですね」
綺麗なものを見ると、言葉を失うって本当らしい。
……そういえば、ステラって愛称で呼んでいたから、お姉ちゃんと仲がいいのかな?
「レンさんは、お姉ちゃんとお友達なんでしょうか?」
「ちょっ……いきなり何言ってるのよ! ル……むぐっ……」
急に慌て始めたエステラが、わたしの名前を呼ぶ寸前で口をぎゅっと閉じた。
慌てたり、怒ったり、急に黙ったり、ころころ変わるエステラの態度に、レンがにこりと微笑んだ。
「はい。お友達です。もう、知り合って三年近くになります。それと、かしこまった言葉じゃなくて平気ですよ。妹さん」
「う、うん。わかり……わかった」
「ふふっ、最近はステラもやっと砕けてきましたが、まだ硬いのです。妹さんは、あまり硬くならないで下さいね」
チラリと横目でレンがエステラを見て、くすっと笑う。
ふと笑顔のレンが空を見上げ小さく頷くと、「外は冷えますから」と言って教会の中に案内してくれた。




