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私の秘密は増えてゆく ~この幸せを守るため――だからわたしは仮面をかぶる~  作者: 月城 葵
序章    厳しい現実と小さな一歩

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7話   心配事 ~見えてきた不穏な違和感~




 ……くぅぅ~、恥ずかしぃ。


 早く部屋を出たかったわたしは、お手伝いのせいにしてノックスの部屋を後にした。

 わたしの中にあった悲しい気持ちは自身の発言で見事に吹き飛び、一転して恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。


 ……穴があったら是非入りたかったなぁ……妖精さんなら掘ってくれるかも。穴掘りといえば、ドワーフだね……って、妖精だったっけ? ……まぁ、いっか。


 子供部屋でお手伝いの準備を済ませる。

 わたしは顔の熱が引いたのをしっかりと確認して、お母さんが夕食の準備をしているであろう台所に向かった。




 ドン! ドン! と大きな音がする台所の扉を開けると、前掛けを血で汚したお母さんが、肉の塊を抱いていた。


 ……いつ見ても肉調理の時は、ぎょっとするよ。


「お母さん、今日は何を作るの?」

「前にポリニーの肉を分けてもらったから、これにしましょう。ルルーナは香草を洗って切っておいてね」


 今日は昼の残りのシチューと、ポリニーと呼ばれる動物の肉の香草焼きのようだ。

 これは、なかなか豪盛だ。


 ポリニーの肉は臭みが強い。

 なので香草と一緒に蒸したり焼いたりすると臭みがなくなり、柔らかくなって美味しくなる。


 この肉と香草を一緒に調理するのも、わたしの考案だ。


 鶏肉に近い食感と味だったので、香草焼きにできないかと思いついたのだ。

 それまでは、焼いた肉に香辛料で臭みを誤魔化しただけの固めのお肉だった。


 改良前は臭みが強く固かったので、わたしは食べるのに苦労した。

 どうしても美味しく食べたかったので、スープの時と同じように「これ、良い匂いするから、一緒に調理したら良い匂いになるかも」と、誤魔化しながら改良したのだ。


 前例があるとはいえ、特に問題も起きなかったことに安堵した憶えがある。

 でも、そのおかげで、今では安いお肉なのに豪華な料理の一つになっている。


 ちなみに、ポリニーの見た目は額に小さな角がある猪のような感じだ。

 安い肉なので、狩人の人がお裾分けしてくれるのが多いのも、このポリニーの肉だ。


 ……お肉は好きなんだけど、毎回、血で汚れるから洗うの大変なんだよね。前世の魚屋さんとか肉屋さんがしているようなエプロンがあればなぁ。



 夕食の準備も大詰めで、のんびりお肉の焼き上がりを待っていると、難しい顔をしてエステラが帰って来た。


「だだいま、母さん、ルル」

「おかえり、エステラ」

「おかえり、お姉ちゃん」


 上着を脱ぎ、くんくんと焼き窯から香る匂いを嗅ぎながら「何か手伝うことある?」と聞いてくるが、お母さんは特になかったようで、首を横に振った。


 それを確認したエステラは「じゃあ、着替えてくるね」と、台所から出ていった。


 ……悪ガキ関連でなにかあったのかな? ……確かアイナだったよね。


 五の鐘が鳴り、出来上がった夕食を机の上に並べていると、ガシャガシャと足音をさせて、お父さんも帰ってきた。


「ただいま、美味そうな匂いだ。香草焼きか」

「おかえりなさい、あなた。そうよ。今日はルルーナの初日のお祝いもあるからね」

「おかえり、お父さん」

「そうだな。おっ、ルルーナも料理を手伝ったのか」


 ……なるほど。子供が街に出る初日って特別なのか。それで豪盛なんだね。



 ◇ ◆ ◇



「恵みに感謝を」


 家族全員が揃ったところで、お祈りを済ませると、お母さんが食べやすいように包丁で肉を切り分け、木の器に運んでくれる。

 香草の良い香りと切ったそばから肉汁が溢れる光景に、わたしは我慢出来なくて一口サイズのお肉にかじり付いた。


 ……おぉいしぃぃ。肉柔らかっ! それに、みんなで食べる夕食は、やっぱりいいね。ほっこりする。


 いっぱいになったお腹を擦りながら、食事の後片付けを手早く済ませる。


 ……だいぶ、食器洗いにも慣れたなぁ。


 お母さんに淹れてもらったお茶を飲みながら「ふぅ~」と一息ついていると、チラチラとお父さんの様子を伺いながら、エステラが何やら言いづらそうに口を開いた。


「ねぇ、父さん。大銀貨六枚って薪を売って稼ぐとしたら、どれくらい必要?」


……お姉ちゃん、大銀貨六枚って結構な金額だよね?


 若干だが驚いた表情をしたお父さんが、エステラに顔を向けた。


「急にどうした? うーん、大銀貨六枚かぁ……結構、必要だな。今の時期なら荷馬車半分ぐらいは必要だ」

「そんなに?」

「ああ。それに、ただ拾って集めた枝や木じゃだめだ。しっかり乾燥させて、大きさを揃えた商品として扱える物でだ」


 それを聞いて、俯き加減で少し考え込んだエステラが口を開いた。


「そっかぁ……ポリニーとか、ムッガルの肉や皮なら?」

「行く気なら駄目だ。冬の森で子供の狩りは危険過ぎる。ノックス、知ってても教えるなよ」


 冬の森は非常に危険らしく、エステラに厳しい口調でお父さんが却下した。


「もちろんだよ。父さん。いくら僕でも冬の森に行かせる程、馬鹿じゃないよ。ステラ、森に行くなら縛ってでも止めるからね」

「う……うん。大丈夫。約束する。森には行かないよ。父さん、兄さん、変なこと言ってごめん……」


 急なお金の話に、お母さんもどうしたの? といった心配した顔でエステラに注目する。もちろんわたしも。


 お父さんも顎に手を当て、何か考えているようだ。そして、眉間に皺を寄せると困った顔をした。


「ちなみに、次の休みの日に森に行くが浅い場所だぞ? 数人の子供たちを連れて行ったところで、その数は集まらん」

「そう……だよね」


 ……なるほどぉ。


 頭の中でポンっと手を打つと、わたしは何となく察しがついた。

 おそらく悪ガキの件だ。

 理由はわからないが、お金が必要なのだろう。それも大銀貨六枚分。


 俯くエステラに、優しい口調でノックスが問いかける。


「ねぇ、ステラ。何か力になれるかもしれない。だから、理由を話してくれないかい? まずは、そこからだと思うよ」


 理由を聞かなくても、ノックスなら妹のために協力するはずだが、今は両親もいる。

 二人を納得させるために、あえて理由を聞いているようにも見える。


 ノックスの言葉に「うん」と頷いて、エステラはお金が必要な理由を話し始めた。



 ◇ ◆ ◇



 問題を起こしたのは、十二歳になる孤児院の女の子で名前はアイナ。


 エステラはアイナが起こした問題、ラウルたちが街を走り回っていた理由や、エステラが協力を頼まれたことを話し終えると、「ここまでで、わからないことある?」と家族みんなに確認をする。


 エステラは、みんなが首を横に振ったのがわかると、お茶を一口だけ飲み、昼食後の出来事を話し始めた。


 ……ここまでは、わたしも知ってる。やっぱり、昼食後に起きたんだね。もっと厄介な問題が……。



 エステラたちはアイナが孤児院に戻って来たところを捕まえ、事情を聞いたまではいいが、お金は既に使ってしまった後だった。


 アイナは孤児院のため、教会の裏の林で拾い集めた枝を旅人に売り、手に入れたお金で薬や、しっかりした薪を買って冬に備えていたそうだ。


 とにかく、警備に通報される前に商人への謝るのが先だということで謝罪に行ったところ、商人も「商人の息子が、こんなことも見抜けんとはっ!」と息子を叱り、通報はしないと約束してくれた。


 しかし、旅人の分と合わせて、大銀貨六枚を要求されたらい。

 署名しなければ通報するしかないとのことだったので、日付と金額を確かめ書類に署名をしたそうだ。



 ……それで、大銀貨六枚かぁ。通報されるよりは、良かったよね。どうせ、お金は返すんだし。


 話を聞き終えたわたしは、周りの反応が気になり、こそっと様子をうかがう。

 お父さんは難しい顔をして、お母さんは困り顔。

 ノックスは何やら考えている様子。


 ……アイナが随分と枝を拾い集めていたから、裏の林の枝が少なかったのか。最近、お姉ちゃんが集めてくる枝が少ないのは、そのせいもあったんだね。


 ここ最近、エステラが集めてくる枝の少なさの理由がわかってスッキリしていると、ノックスが普段は見せない厳しい表情に変わった。


「ステラたちだけで行くべきじゃなかったね」

「……そうだな」


 ノックスの言葉に、お父さんも軽く頷いた。


 ……なんで? 通報はされなかったし、お金は使っちゃったんだから、これが最善だと思うけど……。お姉ちゃんもそうなの? みたいな顔をしているし。


 ノックスが厳しい表情のまま続ける。


「商人が旅人の分を要求することが、おかしいんだよ。それに大銀貨六枚という値段も。書類を見てないから断言はできないけど、おそらく、支払いは一回きりなんじゃないかな」


 ……商人が旅人にもお金を返そうとしているんじゃないの? 特に何も思わないけど……。


 そこまで考えて疑問が一つ、わたしの頭に浮かび上がった。


 ……うん? そもそも、どうやって旅人にお金を返すんだろ?


 確かに変だ。


 ……おかしいよ……ね?


 前世のように、銀行振込なんて便利なものはない。

 旅人を待つのか、それとも追いかけるのか。



「大銀貨六枚というのは、アイナを農村に労働力として貸した時の値段と比べたんじゃないかな」


 わたしもエステラも「えっ」と驚く。

「ったく、子供相手にやり方が汚えな」と、お父さんは冷めたお茶を一息に飲み干し、お母さんは目を閉じ俯いた。


 ……はぁっ? 貸すって何? というか、旅人の分って、金額を釣り上げるための理由付けってこと?


「大銀貨六枚持ってくればよし。持って来なくても、通報して罪を犯した孤児を許す代わりに、犯罪孤児の所有権を商人が手に入れる。奴隷売買は禁止されているから、管理して労働力を貸すとでも言って、すり抜けられる。どっちにしても損はしない計算だね」


 ……いやらしいやり方だね。


「ノックスの言う通りだ。金を持って来なかった、もしくは足りない時点で通報する気だ。犯罪奴隷で強制労働は可哀想だとか理由でも付けて、孤児を所有する権利を主張するだろう。親権の無い孤児なら可能だ。お前たちが金を持って来た方が儲かるから、通報しなかっただけだ」



 通報されて犯罪者扱いになったら、孤児のアイナは犯罪奴隷となり強制労働になるようだ。

 確かあの時、一年とか言ってたのは強制労働の期間だったようだ。

 このことを、エステラやラウルたちは知っていたのだろう。


 ……だから、あんなに必死になって走り回ってたんだ。レンさんが悲しい顔をするって……そういうことか。


 わたしは前世の感覚のままだったのだ。

 通報されたら場合、迷惑をかけた子供を迎えに行く保護者のようなものだと、勝手に思っていた。


 ……あの時は金額のことをまだ知らなかったとはいえ、この前世との感覚のズレは早くなんとかしないと。


 親権や所有権の売買は禁止されているが、孤児なら所有権が誰にもない。

 犯罪を犯した孤児なら、商人が所有権を主張したのち、出稼ぎとでも言って貸し出す……実際には売るのだろう。

 最悪の通報は避けられた。でも、お金を払えないとなれば……。


 ……ひどい話ね。


 エステラも「どうしよう……支払い日しか書いてなかったのに」と、困惑した様子で俯く。


 おそらく、利息分も含めてお金を返していく計画を、ラウルたちと練っていたのかもしれない。

 だが、払えなかった時点で通報されるなら計画は無駄になる。

 そもそも、商人がアイナを商品として見ているなど、エステラたちは全く思ってもいなかっただろう。


 わたしが無い知恵を絞って考えていると、険しい表情でお父さんが机から少し身を乗り出した。


「書類に、回数を分けて払う主旨は書いてあったか?」

「ううん……それは説明したら、相手はわかったって言ってたから……」

「会う日はいつだ? エステラ」

「十三日の光曜日」

「くそっ! 来週じゃねえか」


 ……うちで立て替えることは、できないのかな。


「お父さん、うちで代わりにお金出せないの?」

「ルルーナ……それは無理だ。アイナは孤児だから、うちが所有権を持ってしまう。孤児院が買い戻すなんて真似はしない。だがなぁ……」


 困った表情で言葉に詰まりながらも、そう答えた。お父さんも、どうにかしたいのだろう。


 ……アイナがうちの子になっちゃうのか。 じゃぁ、アイナにお金を貸すことは?


「そうね。でも、お金を貸すことも、成人していない子供をこれ以上抱えることも、正直、厳しいわよ? あなた」


 わたしが質問する前に、お母さんが難色を示す。

 お父さんの考えを読んだのだろう。


 うちだって裕福ではないらしい。近所よりは多少の余裕がある程度なのだろう。


 ……やっぱり駄目か。短期でお金を稼ぐには、どうしたらいいんだろう……。











ここまで拙い文を読んでいただきありがとうございます!


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と思いましたら

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面白かったら星5つ。つまらなかったら星1つ。正直な気持ちでかまいません。

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