30話 増えたり増やしたり ~いざ、マナー講義1~
「なんか、多くなってない?」
ノックスたちと作戦会議があった夜、わたしは数日ぶりの不思議空間にいた。
ふわふわと精霊たちが浮いているのはいつも通りなのだが、とにかく数が多い。
数えるのも面倒だったので気にはしていなかったが、目に見えて多くなっているのはどうしたものか。
「いつもより、いっぱいいるねぇ。今日は寒いから?」
とりあえず、天候の会話から入る。
わたしには鋭い直感力は無いのだ。
「うん、うん。へぇ~」
無事、赤色だった。
いきなり正解なんて当てられない。
いつものことだ。
腕が動くようになって、わたしは水をすくうように手のひらを合わせると、手の上に精霊たちが集まってきた。
こうしてみると、ふわふわ毛玉の妖精のようにも見える。
感触も毛玉のようで、触り心地がよい。
……指先で、こちょこちょっと。
精霊たちがぷるぷると震えて、指の間をするり、するりと移動していく。
「わぁ~、かわいい。気持ちいいの?」
……手触り最高。
ゆっくりと青色の点滅を繰り返した。
モフモフ好きの血が騒ぎ、もふもふ触って可愛がる。
モフるのは有効なようで、入れ代わり立ち代わり、精霊たちが手のひらに集まってくる。
「おぉ~よしよし。よぉ~し、よしよし」
わたしは体が透けてきたのにも気づかず、目が覚めるまで夢中でモフり続けた。
気づけば、もう朝。
パタパタと、扉の向こうから足音が聞こえる。
お母さんが朝食の準備をしているのだろう。
顔を横に向けて確認すると、エステラの姿はない。
もう起きて、洗濯でもしているのかもしれない。
……わたしが外に出れないからねぇ。
「さてと、起きますか」
布団から這い出し、小さな窓を少し開ける。
差し込む光に舞う埃が、なんだか精霊たちに見えて、自然と微笑んでしまう。
「今日も、頑張るからね」
わたしはそう呟いて、部屋の扉に手をかけた。
◇ ◆ ◇
「所長、あの~、お話が……」
「少し待ちなさい」
所長は講義の手を止め、部屋の四隅に小さな石を置き「遮れ」と、呟いた。
「その石はなんですか?」
「魔石だ。魔素の塊のような物だ。今日はエステラがいないとはいえ、誰が聞いているかわからんからな。声を遮る結界を張った」
……全然わからないけど、これが魔法なのかな?
工房に用事があるエステラは、今日はお休みだ。
訓練用の弓の調整らしい。
タイミングが良かったので、昨晩の事を聞いてみることにした。
「それで、話とはなんだ?」
所長が椅子に座り直すと、わたしは姿勢を正して話の続きを始めた。
「夢の中で精霊たちの数が、どんどん増えてるんですけど……どうしてかわかりますか?」
「まったく、いきなりだな。数が増えるなど非常識な……」
所長はそう言うと、不機嫌そうな顔にさらに皺を増やし、目を閉じた。
「考えられるのは、冬の到来で居心地が悪い場所から、君の元へと集まった可能性。それと、冬になったことで、冬に由来する精霊たちが君の元へ訪れた可能性がある。もしくは、両方か……」
あの空間の居心地が良いのだろうか。
わたしは、しっくりこなくて首を傾げる。
「居心地がいいから? ですか」
「そうだ。精霊にとって居心地の良い場所がある。草木が多い森や水辺、山や川、あらゆる場所に存在する」
……ほほぉ。
「元々、君の傍は居心地が良い可能性があるのでな」
……わたしのそばかぁ。
「あくまで可能性だ。断言はできん。どちらにせよ、普通はありえん」
……常識さんから嫌われてるのか、わたしは。
「よくわかりました。それでですね……」
「まだ、何かあったのか?」
所長は、ため息をついて嫌そうな顔で先を促す。
「こっちが本命なんですが……」
「ほう?」
所長の表情に真剣味が増した。
「精霊って、モフモフすると喜ぶんですっ!」
所長は眉間に皺を寄せ、理解に苦しんでいるようだ。
「喜ぶ? モフモフとは、一体なんだ?」
「え~っと……こう」
手振り身振りでモフモフを再現すると、頭にチョップが飛んできた。
「あいたぁぁっ」
「まさかとは思うが、それだけか?」
……怖い笑顔ですねぇ。
「それだけか?」
「ひゃいっ!!」
所長は席を立つと、わたしの耳元で「あの魔石は小さくとも、なかなかの値が張るのだぞ」と、甘い声で呟いた。
「うひゃぁっ!」
わたしは、ゾクッとして額に冷や汗を流し、即、姿勢を正す。
……肝に銘じます。




