29話 冬の授業 ~始めよう作戦会議2~
今ある商品を改良して、貴族に気に入られる物を作る。
やること自体は、はっきりしている。
しかし、レント商会は元々貴族向けの商品は作ってもおらず、ノウハウもない。
エステラは腕を組んで唸り。
ノックスはブツブツと呟き。
アイナは人差し指を顎に当て、何か良い案はないかと、各々頭を捻って考える。
「お兄ちゃん、貴族が欲しがる物っていえば?」
「う~ん、名誉とお金かな?」
「兄さん、貴族ってお金を何に使うの?」
……どの時代も、お金は大事か。
「事業だったり、部下の給料や軍備費用、調度品とか装飾品……すぐに思い当たるのはこんな感じかな」
……商人から提供できるのは、調度品か装飾品かぁ。すぐには作れないよね。
実のところ、ぬか石鹸はどれくらいすごいのだろうと疑問に思ったことはある。
現状、貴族が使っている品を、大きく上回るレベルなのだろうか?
……効果はバッチリだし、所長は興味を示すって言ってたけど、正直どうなんだろ?
「お兄ちゃん、ぬか石鹸って貴族が興味を示すぐらい、すごい効果なの?」
「うん。ぬか石鹸は間違いなく売れると思う。ここまで効果が高い物は、そうそうないよ」
ぬか石鹸の評価は、やはり高い。
だとすると、他の商品はどの程度なのか調べる必要がある。
「お兄ちゃん、貴族が使ってる化粧関係の商品ってある?」
「化粧? うちは専門じゃないからね。いや……ちょっと待ってて、会長の奥さんなら持ってるかも」
ノックスが席を立とうとした時、アイナが「私が借りてくるよ」と、代わりに倉庫を出ていった。
……奥さんの品なら、女性の方がいいかもね。
三人で桶を片付け、換気していた窓を閉めていると、倉庫の扉が開いた。
アイナが、化粧品を持って戻ってきたようだ。
「借りてきたよ~」
机の上に置かれたのは、今も貴族に流行っている物だという。
子供の手のひらサイズで、平民用にしては凝った装飾が施されている。
わたしは蓋を開けると、指先ですくって手の甲に伸ばしてみる。
……伸びが悪い。ドーランというより、白粉に近いかな。
「お兄ちゃん、これが最新の化粧品?」
「あっちこっちで人気だったよ。火の月に平民にも普及し始めたんだよ」
……貴族って、着飾ったりするの好きだよね? でも、美容関係の商品ってあんまり品質が良くないのかな?
「兄さん、これ肌が荒れそうだけど」
「人によるかな。毒性は無いけど、どうしても肌に合わない人もいるからね。ステラも化粧してみるかい?」
エステラは、げぇ~っと顔をしかめて、頭を振った。
「貴族って、こんなの塗ったくってるのね。私は勘弁ね。なんか窮屈そう」
「エステラも女の子なのに、その感想は勿体ないわよ」
アイナが、エステラの頬を指でツンツンしている。
エステラは、全く化粧には興味が無いようで、本気で嫌そうだ。
その横でノックスがガッカリした顔なのは、この際どうでもよかったが、わたしも勿体ないとは少し思う。
……お姉ちゃん、将来いい線いくと思うけどなぁ。
わたしは、手の甲に伸ばした化粧品を見て、勝算はありそうだと確信した。
この化粧品が最新だというのなら、美容関係なら勝負できるかもしれない。
……ぬか石鹸って、全身用シャンプーみたいなもんよね。だったら……。
「お兄ちゃん、ぬか石鹸を二つに分けるとか、どう?」
言ってみたものの、みんなはポカンとしている。
わたし自身、言った後で、これじゃ説明不足すぎると思った。
……これじゃ駄目だよね。
依然として頭の上にハテナマークを並べているノックスとエステラ。
いち早く我に返ったアイナが、困惑した表情で聞いてくる。
「えっと、妹ちゃん、どういうこと?」
「相手を騙すようで悪いんだけど、ぬか石鹸って髪も体も洗えるでしょ? だから、髪用と体用って分けちゃえば、商品が二つに増えるかなって……全身用で三つ、とか」
……説明下手くそすぎるっ!
エステラがポンッと手をうつと、ノックスが机を両手でバシンッと叩いて椅子から立ち上がった。
「「それだっ!」」
どうやら、うまく伝わったようだ。
ノックスは「香りを付ければ、さらに種類は増えるぞ」と、付け加えた。
さらに増やすつもりらしい。
なんだか騙しているようで気が引けるが、その分、全身用を薄めたり、値段を調整すれば問題無いだろう。
効果は同じだが、わざわざ髪用で体を洗わない。
貴族なら尚更らしい。
ノックスも「そんな失敗を侍女がするはずがない」と、賛成した。
「新しい商品を作るのは厳しいけれど、これならいけそうだ」
「妹ちゃん、やっぱりすごいね」
わたしは、笑顔のアイナとハイタッチを交わす。
後は、わたしたちが興味を引くことができれば、上手くいくかもしれない。
これで全体的な流れは決まった。
……これ、上手くいったら、すごいお金になるんじゃない? うへへへぇ。
ノックスは商品の改良を。
エステラとアイナは作戦の成功を。
わたしは儲けの計算をと、笑顔の理由は様々だが、これもいいだろう。
四の鐘が鳴って間もなく、倉庫の扉がギィッと開く音がする。
どうやら、お父さんが迎えに来たようだ。
「どうした? 揃ってニコニコして……」




