20話 道具の使い方 ~そのズレは認識できない1~
ポールに協力してもらい、洗濯板の試作品が完成した日の昼食後、わたしとエステラはレント商会の倉庫へ向かった。
ノックスへの現状報告に、エステラが作ったおろし金の作製許可を貰うことが目的だ。
「へぇ~、これが洗濯板かぁ」
試作品の洗濯板を手に、重さを確認したり触り心地を試したりと、ノックスが興味津々に観察している。
大丈夫だとは思うが、わたしとエステラはドキドキと落ち着かない様子で、ノックスの判断を待つ。
「ノックス、持ってきたよ。こっちに入れるの?」
「ああ、お願い」
水を汲んできたアイナが桶に水を張ると、汚れた雑巾を手にノックスが洗濯板の使用感を試し始めた。
ノックスが桶の前に屈み、ぎこちない動きでゴシゴシと洗濯板に雑巾を擦り合わせる。
それは、わたしが前世で小さい頃にやっていた光景によく似ていた。
◇ ◆ ◇
家の洗濯機が壊れた時、わたしは庭でタライに水を張り、洗濯板を使ってゴシゴシとタオルを洗っていた。
どうも使い方が間違っていたらしく、おばあちゃんが使い方の手本を見せてくれた。
「板で擦るんじゃなくて、タオルを押し当てるのさね」
◇ ◆ ◇
……懐かしいなぁ。
ノックスの洗う姿を見ている内に、わたしが遠い昔、おばあちゃんに言われたことを思い出した。
「う~ん、思ったより布が傷んじゃうね」
予想とは違ったようで、ノックスが眉を寄せる。
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
「ん? ああ、どうぞ」
わたしはノックスの横に屈むと、おばあちゃんの言葉を思い出しながら手本を見せる。
「こうやって縦置きにして……」
わたしは、あの時の動きを真似る。
ゆっくりと動かしながら、雑巾を擦り合わせた。
「大事なのは、板でゴシゴシするんじゃなくて、雑巾同士を擦り合わせるの。こうやって板に押し当てる感じで……」
雑巾同士を擦り合わせて出る汚れを、板の凹凸に押し当てながら押し出す。
こうすることで、雑巾を必要以上に痛める心配は無い。
左手で雑巾を抑え、右手で擦りながら押し当てる。
板の凹凸によって普通に擦るより、汚れの落ちもいい。
「おっ!? おおぉ、そう使うのかっ!」
「すごいね、妹ちゃん」
いつの間にか、わたしの周りに三人とも屈み込んで、目をパッチリ開けて興味深く洗濯作業を見ている。
……あっ! そういえば、アイナもいたんだった。
家族以外にバレたらマズイ。
調子に乗りすぎた……。
どうにかして誤魔化せないか内心焦っていると、わたしの様子を見ていたエステラが、なにかを察したように口を開いた。
「何度もポールと動きを合わせてたのは、これだったのね」
……ナイスフォローだよ! お姉ちゃん。
「う、うん」
怪しまれると焦ったけれど、エステラの補足で事なきを得た。
一つに集中しちゃうと、うっかりミスが多いことが、わたしの駄目なところかもしれない。
「これなら十分いけそうだね。アイナ、会長に面会予約を取ってきてくれないかい?」
「うん、わかったよ。ちょっと行ってくる」
ノックスの言葉を受けると、アイナが立ち上がり駆け足で倉庫から出ていった。
その姿を目で追っていたノックスが、ふっと笑って「大丈夫だよ」と、わたしの頭を軽く撫でた。
「ルルのことをアイナが知ってしまうのは大丈夫。ごめん、言うのが遅くなったね」
その言葉に少々驚いた。
そんな簡単に知られてしまって大丈夫なのだろうか。
「アイナが僕の雑務を手伝うことになったからね。遅かれ早かれ知られるさ。それなら、先に知らせておこうってね」
「大丈夫なの兄さん?」
エステラが、心配そうな顔でノックスに尋ねた。
「父さんと母さんも、了承済みさ。ステラも知っての通り、アイナの性格なら恩を仇で返すことはしない。むしろ絶対に守るって言ってたから」
どうやら、他人に知られることによる危険性も話してあるようだ。
「レンさんのお墨付きもあるしね」
それにしても、急にレンの名前が出てきたのには驚いた。
エステラも驚きを隠せないでいる。
「レンさんにも、この話を?」
やはり気にした顔でエステラが尋ねる。
その様子にノックスは「やっぱりそうなるよね」と、経緯を話してくれた。
「アイナがここで働くと決まる前に、商会の指示で彼女の人間性を聞いておいたんだ。まぁ、レンさんの言葉があったから、会長も働く許可を出したんだけどね」
……それで、レンさんのお墨付きかぁ。
「レンさんには、ルルに関することは話してないよ。そこはアイナも秘密にしてくれると約束してくれた」
「はぁ、もう。考えたのがルルってバレるんじゃないかって、さっきは焦ったよ」
大きく息を吐いて、エステラがわたしと目を合わせた。
「さっきはありがとう、お姉ちゃん」
やはり先程のフォローは、アイナにバレないようにと咄嗟に気を利かせたものだったようだ。
これはエステラに感謝しなければ。
結果的に、手慣れた動きもポールと練習したことになったのは大きい。
……お兄ちゃんも誤魔化せたから超ナイスだよ。お姉ちゃん!




