47話 小さき優等生 ~再始動、小さな調査官2~
所長が顔を上げた。
その様子を確認して、わたしは不安を感じながら口を開いた。
「同じ人物と取引したのだとすれば……何かしら共通の痕跡はあるはずです。それが一切残っていないなんて……変じゃないですか?」
所長が小さく頷いた。
「意図的に痕跡を消していると考えるのが妥当だろう。取引相手が、ほぼ東側と南側の商人相手だ。あの辺りは、元々、この街に店を構える商人たちではない」
……それも、厄介だよねぇ。
「商品の入手経路も不明なものが多い。仮に盗品だったとしても、証明する手段がない……得をすれば良いと考える商人が多い区画だ」
所長の声音が冷ややかに響いた。
その言葉に、講義で学んだ内容が現実でも起こっているのだと実感した。
東と南側はサルボ商会など、大口の取引の際は証文をしっかり残している。
小口の取引も、西区の商会の場合は証文がある。
だが、旅商人などの個人と取引を行うことで、帳簿の数字をある程度いじれる。
流通経路がはっきりしない商品を多数扱うこと。
これが、税金逃れとして今も行われているのだ。
特に個人同士の取引など、ほとんど調べようがないのが現実だ。
でも、人物像すら不明の幽霊商人。
ただの噂話じゃ済まされない。
「現地を確認する必要がありますね」
トランの言葉が、張り詰めた空気をわずかに和らげた。
「そうだな」
所長は即答する。
「虚言であれば痕跡は見つからぬ。だが、実際に利益を得たのであれば、必ずどこかに歪みが残っている……調べる価値はあるな」
そう断じた所長は、紙に筆を走らせ、何かを書き込むとトランに手渡す。
書類に視線を落としたトランが「すぐに手配します」と、内容を確認し講義室から足早に退出した。
……今日の講義は中止かな?
「所長、今日の講義は中止になりそうですか?」
所長の視線がわたしに移る。
「そうだな」
「わたしは時間まで、ここで待っていればいいですか? それとも、ジークさんが迎えに――」
「何を言っている。君も現地へ行くんだ」
……まだ、同行すると言っていないのだけれど。
「君はトランの補佐だ。トランが現地へ行くのだから、君も同行するのが当たり前であろう」
……わたしって、いつ補佐になったの?
「わたし補佐になったんですか?」
何を言っているんだと、所長の表情は至って真面目だ。
「昨日、同意したではないか。そうですね、と」
……ん? そっちの方が効率いいよね~って話じゃ……。
「あれは……」
所長の表情は、同意したよなと有無を言わせない迫力があった。
「たしかに、口にしました」
……言質を取られてる……これは勝てないな。
「よろしい」
まぁ、所長の雰囲気が少し和らいだので良しとしよう。
あのままだと、わたしの息が詰まってしょうがない。
「現場へ君を連れて行くのには、利点があるからだ。私たちには見えない世界が見えている。その目は唯一無二だ」
そういうと、所長はふっと笑った。
……なるほどねぇ。精霊が見える目が役に立つかもしれない……やれるだけ、やってみますか。




