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私の秘密は増えてゆく ~この幸せを守るため――だからわたしは仮面をかぶる~  作者: 月城 葵
三章    少女と暴かれる秘密

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47話  小さき優等生 ~わたし以外は、命懸け~



 嫌な予感ほど、当たるものらしい。


 肩の上で震えた精霊を思い出しながら、報告会のあと、わたしは講義室で所長を待つ。


 いつも通りの講義の時間だ。 

 しかし、今回は少し違う。


 わかっていたというか、やっぱりなといった感じだ。

 その予感は、あっさり現実になった。



 ◇ ◆ ◇



 ……みんな、緊張でガチガチだよ。


 目だけで周りを見渡せば、急遽集められた数人の役所の事務方の人たち。

 青い顔でガチガチに緊張しながら、所長の講義を受けている。


 まるで、講義室だけ吹雪いているみたい。


 ……くぅ~、筆の音だけで震えてるのがわかっちゃうよ。


「六番、答えよ」


 所長の声が冷ややかに響く。

 わたしに対する口調ではなく、完全に貴族モードの所長なのがわかる。


 番号が告げられるたび、びくりと肩を震わす役人のみなさん。

 この人たちは、生きた心地がしないだろう。


 ……わたしのせいです。すみません。


 わたしは心の中で謝罪した。


 今回は名前ではなく、配られた番号札で呼ばれている。

 わたしの名前を知らせないためだろう。


 ……って、六番! わたしだっ! え~、なになに……。


「はい。大銀貨二枚と銀貨三枚です」

「……よろしい」


 ただの足し算、引き算だ。


 さすがにこれは解けないと、あとで何を言われるかわかったものではない。

 だが、周りの感想は違うようだ。

 ヒソヒソ声で「すごいな」や「あんなに早く」と、聞こえてくる。


 ……それほどでもぉ~。


 所長の冷ややかな目がわたしを射抜く。


 ……調子に乗りました……はい。


「次、二番答えよ」

「う、あ……え~っと、銀貨……三枚と大銅貨……一枚? です」



 ……所長、その間が怖いですよ。


「……よろしい」

「ふう……」


 一問答えるごと、明らかに役人が疲弊しているのがわかる。

 そのうち倒れる人がいるのではと、内心ひやひやものだ。


 結果から言えば、誰一人脱落者はいなかった。

 必死に食らいつく役人の意地を見た気がした。


 講義が終わり、所長が退出すると周りから安堵の声が聞こえる。


「はぁ……死ぬかと思った」

「俺なんて、目が合っただけで心臓が止まりかけたぞ……」


 なんだろうか、まるで死地から生還した兵士みたいだ。

 そんな感想を抱いていると、みんながわたしの周りに集まってきた。


「いやあ~、それにしてもすごいですね」

「あんなに早く解答できるなんて、ほんとに優秀なんですね。お嬢様」


 ……お嬢様!?


 どうやら、普段は事務方なので、わたしのことは知らないようだ。


「お、お、お嬢様は所長とどんな関係――どのようなご関係なんでしょうか?」


 ……やばい、なんか勘違いされてる。どう答えよう。


「そうですね……あまりこういう場で、そのような質問はされないほうがよろしいかと。少なくとも、今この場所では皆様の同僚という立場でございます」


 ……ど、どう?


「おぉ~、なんと寛容な。ご配慮ありがとうございます」

「自分も計算が上達するよう日々精進します」

「俺もやるぞぉ~!」

「「「ありがとうございます。お嬢様」」」


 ……声を揃えてお礼を言われちゃったよ。


 基礎はしっかりできている。

 やる気になったのはいいことだ。

 あとは、どうやってわたしが退散するかなんだけど……。


 あれこれ考えているうちに、扉を軽く叩く音がして、ジークが姿を見せた。


「失礼します。お迎えに上がりました。お嬢様」


 ざざっと、役人たちがわたしから距離を取り、ジークに頭を下げた。

 わたしは、そそくさと、何食わぬ顔で講義室を出る。


 扉を閉めるのと同時に、ジークに軽くウインクされた。

 ジークがすると、やたら絵になる。

 茶目っ気たっぷりの素敵なおじさまだ。

 どうやら、先程の会話をしっかりと聞かれていたらしい。


 廊下を歩きながら先程の返事はあれで大丈夫だったのか、ジークの意見を聞いてみた。


「良い判断でした。お嬢様は事実を言っただけですので。平民の無礼にも寛容な貴族のお嬢様と、勝手に勘違いしているのは相手方でございます。むしろ、変なちょっかいを出されずに済むので、このままでよろしいかと」


 ……へぇ~、なるほどねえ。




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