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私の秘密は増えてゆく ~この幸せを守るため――だからわたしは仮面をかぶる~  作者: 月城 葵
三章    少女と暴かれる秘密

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43話  小さな調査官 ~踏み込んだ先に3~



 数年前の話だった。

 わたしと似たようなことを、貴族に意見した無鉄砲な平民がいたそうだ。


 もちろん、貴族は平民の生活など気にしておらず、全く取り合わなかった。

 しかし、それでもしつこく訴えたため、不敬罪になる寸前だったという。


「その人は大丈夫だったんですか?」

「結果から言えば、大丈夫だ」


 ……善良な人が死ななくてよかったよ。


 不敬罪を告知された時、あまりにも不当だと商業区の平民たちが声を挙げて役所に押し寄せ、役所は大混乱だったらしい。


 その時になって初めて、所長にその揉め事の知らせが入ったんだとか。


「両者の言い分を聞いたうえで、領主に判断を仰いだのだ。下手を打てば暴動になりかねん事態だったからな。その後は、君も知っての通りだ。奴隷制度の廃止に繋がる」


 一人の平民の訴えが、制度を変えたところを考えれば、凄いことだ。

 でも、良いことばかりじゃない。

 その余波で、新たに奴隷から解放された孤児が街に溢れた……。


 ……なるほどぉ、無鉄砲な平民さんとわたしは同じってことか。


「つまり、わたしはかなりの無茶を言っているということですか?」

「そうではない」


 所長は、はっきりと否定した。


「当時と今の状況はまるで違う。今ならば、あの時できなかったことも場合によっては可能な範囲内だ」


 そう言って所長は窓の外に目を向けた。


 今なら制度があるから、ということだろう。

 孤児でも努力次第で生活費を確保することも可能なはず。

 それがなかったから、可能な限り孤児院で保護してきたのだろう。


 そこまで考えて、あることが頭をよぎる。


 ……もしかして無鉄砲な平民って、レンさん? 


 孤児が溢れていた時期に、孤児院は再開したはず。

 その時も反対を押し切ってと言っていた。

 

 もしレンならば、商業区の住民からあれだけ慕われているのだ。

 レンを助けるために、商業区の住民が立ち上がったとしても不思議はない。

 

 わたしが口を開くよりも早く、所長が告げた。


「今からでは日が沈むな。調査は後日だ」


 ……あっ! あれ? 現場の感想は?


「現場の方はいいんですか?」

「現場は明日、直接行くのだからよかろう。そちらに関しては、事実から判断すればよい」


 ……レンさんのことも聞きそびれちゃったけど、まぁいっか。


「そうですね……」


 今度は所長が探るような視線だ。

 目線を逸らしてにらめっこに負けたのは、わたしだった。


「何かあったな? 報告書に記載できない何かが……」


 所長が紫色の瞳を細める。


 ……鋭いなぁ、もぉ。


 すでに今日は解散ムードだったのに、これは喋るまで帰れないパターンになってしまった。


 隠すことでもないので、さっさと喋ってしまおう。

 できれば思い出したくない内容だけれど……。


「妖精……精霊さんが助けてくれました」

「具体的には?」


 現場へ入る時の様子や、袋を発見した経緯を話すと所長は顎に手をあて考え始めた。


「主である君を手助けしたと考えるか、気紛れだったのかの判断はつかんな」

「そうなんですか?」

「主になった者の前例がないのでな」


 最後はやや呆れ気味の口調だ。


「う~ん、じゃぁトマトは?」

「なんとも言えん。君の調査を手伝ったのか、それとも何か伝えたかったのか……可能性としては後者だな」


 あの時の黒猫もそうだったから、伝えようとした可能性が高いと考えるのが妥当だろう。


「明日、調査に行けば何かわかるだろう」

「……はい」


 席を立った所長は、わたしの頭にそっと手を置いた。


「酷い顔だぞ。ゆっくり休みなさい……今日は良くやった」


 そう言うと、所長は講義室から退出していった。

 規則正しい靴の音が少しずつ遠ざかって行くのがわかる。



 ……酷い顔? ……ん? 今、わたし褒められた?



「いぃぃぃやっほぉぉぉぉ~!」



 ……所長に褒められちゃったぁ。


 家族以外の人に、こんなふうに認めてもらえたのは初めてだ。


 わたしみたいな異世界の人間が、ここに居てもいいんだって……心の底から、そう思えた。


 それは、なんだかとっても嬉しかった。




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