エピローグ
白い熱。初めに感じたのは、それだけ。それが光となり、瞼を刺す。
ハンナは、微かに声を上げ、覚醒する。
覚醒と共に、血の匂いが鼻に突き刺さる。周囲を見渡すと、白い壁が見えた。隣には質素なベッドがあり、窓から差す日光を浴びている。
ハンナは起き上がろうと、手を動かそうとする―身体に電撃が走ったような痛み。
「ぐっ……」ハンナは呻き、ベッドに転がる。手を見ると包帯でぐるぐる巻きにされ、添え木が刺さっている。
「ハンナ!」クリスティーナの声が遠くから聞こえる。ばたばた、と足音が近づいてくる。
「ティーナ……」ハンナは起き上がれず、そのままの体勢で親友の名を呼ぶ。
「良かった……起きた。四日も眠りっぱなしだったんだから」クリスティーナは目元に涙をため、言った。
親友の顔を見て、安堵すると同時に、ハンナの脳裏に怪物の姿が浮かぶ。
「怪物は?」
クリスティーナは、ハンナに近づき、「何とか倒したみたい」
「良かった……」ハンナが大きく息を吐くと、クリスティーナが、その頭を抱きしめた。
「ありがとう、ハンナ。あんたが救ってくれたんだ」
「え……」ハンナは、ぼんやりとクリスティーナを見る。そして、その肩の先も―
日光が、ボロボロの村を照らしている。無残な光景。騎士や男たちが瓦礫を撤去していた。
なんて酷い……
ハンナが顔を伏せた時、遠くで子供たちの明るい声が聞こえた。咄嗟に顔を上げると、数人の子供が走り回って、時節転び、大泣きしている。親だろうか、中年の女性が子供をあやし、近くでそれを見ていた老人が笑っている。
「ハンナが救ったんだよ。この人たちを」
私が、この人たちを救った。
「そっか……良かった。本当に」
ふと、頬に温い物が当たる。それが涙だと気づく。
溢れる涙で、視界が歪む。ふと、光の中、見たことのある三人が見える。その中に、一人の少女。その少女を、ハンナは良く知っていた。小柄な体躯。短い髪。
私が守れなかった最愛の妹。
ミナが振り返り、その顔が見える。
ハンナは嗚咽し、震えながら、頭を垂れた。
「ありがとう……」
ハンナ、と誰かが自分を呼ぶ声がした。
弱く、脆く、それでも必死にもがき、前に進もうとする自分を受け入れてくれる誰かが。
拙作を読んで頂き、本当にありがとうございました。
主要参考文献
「中世を旅する人びと」 阿部謹也
「中世騎士物語」 須田武郎
「大聖堂・製鉄・水車 中世ヨーロッパのテクノロジー」 ジョゼフ・ギース/フランシス・ギース




