旅路
城での籠城戦から二週間後―
早朝、ハンナが毛布から顔を出すと、草の青い匂いがした。髪を搔きながら、周囲を見渡す。辛うじて馬車が通れるほどの道が森の中に一本、そんな場所でハンナたちは野宿をしていた。
「おう、ハンナ、おはよう」エッカルトがパンをかじりながら欠伸をする。
「うい……おはよう」ハンナも自分の袋からパンと干し肉を取り出し、朝食を食べ始める。保存はきくが、石のようなパンを無心で噛み続ける。固くてぱさぱさで、雑味が凄い。
物資の移送に携わって2週間、この生活にも慣れ始めた。ハンナの仕事は昼間、物資や騎士を運ぶ馬車を警備することだ。夜はマガイが現れることもあるため、昼間は寝ている騎士たちが警備にあたる。夜は、初めは怖くて眠れなかったが、すぐに慣れた。
「早く都市に着かんかなぁ」エッカルトが干し肉を齧りながら言う。肉ではあるが、乾燥し、ほぼ木の皮だ。
街道(王や領主が整備した道)を進むだけでは、盗賊等の待ち伏せに合う為、こうして名もなき道を進むこともある。その為、必要以上に時間がかかっている。長いと2週間ほどは都市に着かないこともある。その場合は、野宿が大半を占めることになる。
重要物資が重いため、移動速度が遅い。思った以上に移送には時間がかかるようだ。
ハンナは、パンをエール(麦を発酵させて作った飲料。アルコール分はほとんどなく、清潔な水が貴重なため、主な飲料となる)につけ、ふやかしながら口に運ぶ。
「ああ……みずみずしい果物が食べたい。おばさんの作るお菓子が食べたい。お風呂入りたい」ハンナはぼやく。
「食べられるだけマシってもんよ。まぁ風呂は分かるけども」クリスティーナが寝床から現れ、言う。
「流石、姐さんは違う。俺もそう思いますよ!」エッカルトが手を叩く。
「エッカルトだって、でかくて柔らかい肉が食べたいって言ってたじゃん」ハンナが頬を膨らませ、ぼやく。口に付いてる、とクリスティーナがハンナの口を布でぬぐう。
「ハンナはお子様だな」エッカルトが肩をすくめる。食べながら話さない、とクリスティーナが諫める。
「あんたたちは分からないと思うけど、あたしが子供のころはね!」クリスティーナがいつもの、クリスティーナ節を始める。
「まだ子供じゃん」エッカルトがハンナに耳打ちする。聞こえてるからね、とクリスティーナがエッカルトを睨む。それを見て、ハンナは笑う。
辛い旅路だったが歳の近い二人が居て助かった。二人とはすぐに打ち解け、今では気心知れない仲である。
エッカルトは、農民の出だが、弓矢と狩の腕を買われ、従騎士(騎士見習いのようなもの)として雇われているのだ。いずれ騎士になり、家族を養いたいと語っていた。
クラウスと共に、2人が大切な存在となっていく。と、同時に、2人を失う恐怖も増えていく。この前の城での戦いが思い出される。私の力では何もできなかった。
もっと強くなりたい、力が欲しい。そんな苦い言葉を、パンと共に飲み込む。
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