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「……………えっ?」



 衝撃のあまり理解ができず、驚きの声が漏れる。


 エミリー様が姿を消した?


 動揺を落ち着かせるために、お父様が言った言葉を心の中で繰り返す。すると、疑問が次から次へと頭の中を支配した。


 どこで?どうやって?いつ?

 誰と消えたのーー?



 姿を消したエミリー様と時間になっても姿を見せないステファン。二つのことが頭の中で結びついて、最悪の考えが浮かんで、動悸がおかしくなるのを感じた。


 もしかして二人は……。



「ステファンとエミリー様は…一緒に……」



 思わず漏れた言葉は、お父様が首を振って否定する。



「そう判断するのはまだ早い。エミリー・ジェイキンが乗っていたはずの馬車が、空になって裁判所に着いたらしい。御者曰く、エミリー・ジェイキンを確かに屋敷で乗せたと言っているが、逃亡したのか連れ去られたのかさえ分かっていない。御者は重要参考人として保安官に取り押さえられ、取り調べされることになるだろう」


「では…、ステファンが姿を見せないのはどうしてですか……?」



 エミリー様が消えた以上、裁判をすることは出来ない。だけど、ステファンは証言をしてくれると言ったのに……。信じていたのに、どうして……。


 お父様に言っても意味がないと分かっていても、誰かにこの感情をぶつけられずにはいられなかった。



 感情が溢れ出して目に涙を浮かべる私を、お父様は悲痛な表情で見ていった。



「ギャレット伯爵が言うには、外出したステファン君から、祖母の家から馬車で裁判所に向かうという手紙を受け取ったのを最後に、連絡がとれていないらしい。伯爵は祖母の家に使いを送って、ステファン君の行方を調べている最中だ」


「そう、なのですね……」



 エミリー様だけじゃなくて、ステファンも姿を消したのね。


 納得したようなことを言っても、心の中は複雑な感情で一杯だった。


 エミリー様とステファンが一緒に姿を消したのもゼロではない。


 ステファンに裏切られるのは何回目?過程はどうであれ、懲りもせずステファンを信じては裏切られて……。自分はなんて愚かなのか……。


 椅子に力なくもたれかかって、ハッと自分を馬鹿にした乾いた笑いが漏れる。



 そんな私を両親は心配そうに見ていた。



「マリベルは心配しないでいい。全て私に任せなさい」


「……はい。お父様」



 私は未成年で、ただの貴族令嬢。待つことしか出来ない。錬金術でさえも、こんな時になんの役にも立たない。何も出来ない無力な自分が嫌になるーー。


ーーー


 御者の証言が本当なら、エミリー様が消えたのは馬車の中。そして、屋敷から裁判所に行くまでの間に消えたことになる。


 エミリー様は裁判中の容疑者で、自分で姿を消したとしても、逃亡という重い罪を重ねるなんて……。何がエミリー様をそうさせるのか。エミリー様が何を思っているのか怖くなった。


 幼馴染とはいえ、学園にはステファンより地位も高くて、優秀で、素敵な男子生徒が沢山いた。それなのに……。



 どうしてステファンだったの?

 


 聞くことはなかった疑問が心の中に浮かんだ。


 私が思い詰めていると。



「マリベル、大丈夫よ」



 心配そうな顔で私の隣に座るお母様は、私の手を握って言った。


 お父様は誰かに呼ばれて控え室から出て行って、残されたのは私とお母様だけ。



「大丈夫よ。お父様に任せなさい」



 何も言わない私に、お母様は安心させるように優しく微笑んだ。



 自分が今、どんな酷い顔をしているか分かっている。


 だけど、心配させていると分かっていても、今は無理矢理にでも笑顔を作れそうにない。



「はい……」



 消え入りそうな弱々しい声で言うと、お母様は私の手を優しく指でさすった。

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