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「なんなのよ、これは……」
私は今、自分の研究室の前で立ち尽くしていた。
整理整頓されているとは言えないけれど、あるべき物があるべき場所に収まっている私の研究室が、泥棒が入ったかのようにぐちゃぐちゃに荒らされていた。
机の引き出しだけではなく、あらゆる引き出しが開け放たれている。
薬瓶が倒れている実験台の上に、いくつかの液体が混ざり合って不思議な色をした水溜りが出来ている。
錬金術の研究資料でさえも、机の上に散乱している。
貴重な材料が入った棚は触られた形跡はなく、特定の場所だけが荒らされている。
まるで、何かを探していたかのようにーー。
研究室に入る前から違和感は感じていた。ドアの鍵が壊れていたから。
被害を確認しようと、研究室に足を踏み入れる。
何か盗まれた物がないか見て回ると、ある物がなくなっているのに気付く。
ーーー
とある人達と会うために部屋の前にやって来た私は、息を整えてノックをした。
部屋の中には既に約束の人達がいるらしく、「どうぞ」の声で中に入ると、私の到着を待っていた人達と目が合う。
「遅れてごめんなさい」
「いいわよ。マリベルが来るまで仲良くお話をしていたから。それより、マリベルが約束の時間に遅れるなんて珍しいけど、何かあったの?」
エラの心配する言葉に、先程起こったことを思い出して顔を顰める。
研究室が荒らされていなかったら、遅れずに来れたはずなのに、後処理を色々としていたら遅れてしまった。
椅子に腰掛けて、研究室の惨状を思いだして気分が滅入ってしまう。
「研究室に泥棒が入ったの。事務室と先生達に報告をしてきたから遅れてしまったの」
「何よそれ……。マリベルは大丈夫なの?」
「私は大丈夫よ。荒らされて、いくつかの実験がダメになったのと、薬を盗まれただけだから」
「全然大丈夫じゃないじゃない……。もしかして、犯人はあなたではないわよね??」
今まで静かに椅子に座って、エラと私の会話を聞いている人物に、エラは私を見る心配の目とは違って、すっと目を細めて冷めた目で言った。
「僕じゃない」
エラに疑われた人物は、まさか疑われると思っていなかったのか慌てて否定をした。
焦るその姿は怪しいと言えなくもないような??
「本当かしら?」
「本当だよ。さっき学園に来て転学の資料を受け取って、すぐここに来たんだから」
「信じてくれ。マリベル」そう言って、自分は無実だと訴える彼をジッと見つめる。
彼の目からその切実さと緊張感が伝わってくる。彼が学園に来た時に泥棒が入るなんて、タイミングの良さから少し疑っていたけれど……。
「‥‥信じるわ。あなたが泥棒をしても何もメリットがないもの」
私の言葉に彼は安心したかのように、ホッと息を吐いた。
「久しぶりね。ステファン」
テーブルを挟んで座るステファンを見て、忘れていた挨拶をする。
ステファンとは前に会ったのが最後だと思っていたのに、こんなにすぐ会うなんて思っていなかった。
以前に会った時はやつれた姿だったが、今では痩せたことを除けば顔色も良く健康そうに見える。
「そんなに簡単に信用していいの?」
「だって、盗まれたのはステファンには必要ない物だもの」
ステファンには必要ないもので、私が何を研究しているか知っているエラはピンと来たのか、したり顔をして言った。
「もしかして。最近マリベルが作っていた、アレが盗まれたの??」
「そうよ。アレ、が盗まれたの。他にも何か盗まれてはいたけど」
「なるほどねぇ……。確かに、今の彼には必要ないかもね。必要だなんて言ったら軽蔑しちゃうわ」
いきなり軽蔑すると言われたステファンは、困惑した顔をして言った。
「アレって何のことだ?」
「あなたが知る必要のないことよ。というか、本当に犯人じゃないのね」
話についてこれないステファンに、エラは驚いた顔をして言った。
「だから、僕じゃないって言ってるだろ!!」




