婚約者編 夏62
「ティエラ様、婚約は確定ではありませんよ。他の手をうちましょう。まずは」
ティアが提案したのはグラッドとほぼ同じ内容だった。
するとティエラが泣き出した。
「わたくし、ぅぅ、もっと、できない、と、ぐすっ、でも、できない」
魔法をかける間もなかった。
ティアは立ち上がると、ティエラの側に行き宥める。
「ティエラ様。出来る出来ないではなくて、貴女がやりたいのかやりたくないのかを教えてくださいませんか?」
「え、お姉様。わ、わたくし」
「子爵夫人をやりたくないのであればわたくしの提案に乗ってください。必ず成功させてみせます。ですが、やりたいけど出来なくて泣いているのであればわたくしが出来るように教育致します。どちらです?」
ティエラの涙が止まる。目をぱちくりさせている。
「で、でも、わからなくて」
「ならば、心が決まってから考えましょう?今はお兄様方の愚痴でも言っていればいいのです。オリバー様の悪口を聞きたいですわ」
「ティアお姉様。はい、ありがとうございます」
ティエラはオリバーの「お兄様ってば」なところをティアに教えていく。仕事ばっかりで食事中も何か考えていて、献立をオリバーの好きな料理にしてもぼんやり食べてて不満だという。
「ティエラ様が献立を考えているのですか?」
「偶にですわ。お父様やお兄様がお疲れな時やお休みの時は料理人にお願いするだけです。お茶会のお菓子や茶葉のような感覚です」
「そうなのですね。素晴らしいですわ。ですがオリバー様の態度は意外でした。ティエラ様のことをよく褒めていらしたので」
ティアの暴露にティエラの顔が真っ赤になる。
「因みにお兄様はなんと?」
「人見知りなのに頑張ってて偉いって。あとはひたすら可愛いってデレデレですよ?」
オリバー様、シスコンだった。
「恥ずかしいですわ」
ティエラは顔を隠して俯く。耳まで真っ赤だった。
「グラッド様がサイス家に養子に出てしまった反動でと取り繕っておりましたが、ただの口実だと思っています。」
ティアは私を見ると徐ろに謝罪した。
「ティア姉様?」
「グラッド様に余計な重荷を背負わせてしまって申し訳ございません。十年前、わたくし達姉弟にも領主候補として声がかかりました。フレッド様に年が近いこともありますが、わたくし達は伯父上の嫌がらせを忌避してお断りしました。」
ティアの苦しそうな表情に
「ティア姉様。もしティア姉様達のどなたかが次期伯爵に決定していたら、わたくしはグラッド様と出会うこともなく生きていたでしょう。」
もしもを考えて微笑む。
グラッドがクラリスのただの従兄弟ならあの場には、いられなかった。なら暴走して私は色々巻き込んで死んでいたかもしれない。
「わたくしこそティア姉様達を表舞台に連れ出す要因を作りました。恨んでおいでではありませんか?」
私の言葉にティアは首を横に振る。
「いいえ。わたくしもルークも、十年前の選択を後悔しておりました。望まれたのに、能力があるにもかかわらず、伯父上が怖いから、対峙するのが面倒だからと逃げたことを悔いておりました。ですから、贖罪の機会をいただけたと思っております」
「ティア姉様、お気持ちはわかりました。なんのわだかまりもないことが確認できて嬉しく思います。では姉として、何の憂いもなくティエラ様のお悩みを解決するべく協力致しましょう。」
「え?リオお姉様?」
「え???」
二人は顔を見合わせる。さっきの件ではない悩みがあるはずだ。悩みというか興味というか。
防音の魔力壁を張り笑いかける。
「大丈夫です。ティエラ様、防音の魔力壁を張りましたから、お悩みを吐き出してください」
「ど、どういうことですか?リオお姉様?わたくし、悩みなんて」
「最初の悩みは、本日解決しましたね。さっきの将来についての悩みもご自分のお心を見つめてからと保留しました。更に言えば昨日のアシュレイ様への不満も解消への道筋を見つけました。」
「そうですわ、別に何も」
ありませんと言いかけたティエラに
「ですが、悩みといいますか、興味がおありですよね?婚約者同士のあれこれについて。質問出来ずにいたのではありませんか?」
笑顔で言い放つ。
「あ、あれ、は!!べ、別に!!」
「まぁ。ティエラ様もお年頃ですから」
激しく動揺するティエラとティアも少し恥ずかしそうに微笑む。
「安心してください。興味を持つのはとても健全なことで、恥ずかしがることはありません。どんな質問にも答えましょう。さぁ、ティエラ様!お聞きになりたいことはございませんか?」
「え、え、リオお姉様、」
ティエラが視線を泳がせる。と、
「リオ様、落ち着いてください」
耳元でミランダの冷たい声がする。一気に興奮が走り去る。
「!!!おほほ。失礼致しました。つい興奮してしまいました。申し訳ございません」
背中を大量の汗が流れ落ちる。取り繕った笑顔で謝罪する。
やらかしたぁ!
「リオお姉様は、グラッドお兄様の何処が好きなのですか?あ、短めでお願いします」
婚約の挨拶の時の私とフローラの姿がよぎったのだろう、ちゃんと短めでという辺りが可愛い。
グラッドの好きな所をつらつらと口にすると、ティアの顔が引き攣った。
「ゾイレの報告は間違いだと情報官から報告を受けましたが、本当に間違いだったのですね。驚きました」
「ティアお姉様、これで短めですのよ。」
ついティエラに乗せられて喋ってしまったが、
「ティエラ様だってアシュレイ様のような殿方が好みだと力説していたではありませんか」
本来の目的を果たしたい。
「まあ。そうなのですか?それならルークとは天と地ほどの差がありますから婚約は考え直したほうがいいのでは?」
ティアも前のめりだ。
「ち、違います、お母様を大切にするお父様のような方がいいと言っただけです!!」
「なるほど。歳の近いフォッグの貴族を紹介致しましょうか?」
真面目な表情のティアに
「わ、わたくしの好みの話はもういいのです!ティアお姉様はどうなのですか!オリバーお兄様とはどうなのです!?」
話題が飛び火する。
「わたくしですか?!オリバー様はよくしてくれていると思います。気を遣って下さいますし、休みの日もよく会いにきてくれて」
「え、あのお兄様が」
「まぁ!」
賑やかに恋バナを楽しんだ。
お茶会の後はミランダにきっちり叱られた。




