婚約者編 夏45
私の寝相は暑さが原因だったようで、昨夜は大人しかったようだ。
グラッドと朝食をとり、昨夜の様子を聞いた。
下着の位置を気にしていたことと寝言が愉快だったこと以外は何もなかった。
そろそろ寝る時用の下着を作製する時がきたのかもしれない。
「グラッド、ありがとうございます。」
「私のほうこそ、ありがとう」
何故かお礼をされた。そして妙にすっきりした表情でグラッドは研修に出かけていった。
「何故お礼?」
「リオ様の癒し効果では。」
癒し効果、マッサージはしてないけどなぁ。してたのか?寝ながら?寝言が妙にはっきり長文だったって言うからしていたのかもしれない。手を揉むとかか?
「いいことならまぁいっか。」
今日は冒険者ギルドでレシピの話をする。
昨日の餅もどきは昼食にするべく、焼いてみた。ジャムを塗って、サンドウィッチ風にする。お弁当箱に詰めて、リュックに入れて背負う。レシピと体力回復剤を複数箱に詰める。
そろそろ日傘の仕込み武器化も完成する頃だろうか。
支度を整えて、出かける。
今日は馬車は使わず、馬で移動する。ついでに依頼や訓練を受けるためだ。
ギルドに入ると、窓口の女性職員が私達に気づき二階へ誘導する。
「いらっしゃいませ、リオ様。ミランダ様」
一昨日と同じ窓口に案内される。
契約担当者と一緒にギルド長も席に着く。防音の魔力壁を張る。
「こちらの資料をご覧ください。ここの表記なのですが、」
私のレシピと一緒に資料を開き、二人の前に出す。
「は?」
「え?」
「恐らく最初に持ち込んだ冒険者とギルド職員が結託していたのではないかと思います。確証はありません。他のレシピも再調査することをおすすめします」
リュックから体力回復剤を取り出し、一本ずつ二人の前に置く。
「どうぞ味を確認してください」
二人は恐る恐るそれに口をつける。
「え、すご。甘くないけど飲みやすい」
「リオ様。本当に専売契約でよろしいのですか?!」
「もとよりそのつもりでした。個人用の調合はもちろん構いませんよね?」
「はい!勿論です。書類がこちらです。」
担当者が契約書類を取り出した。
「味の種類を増やしたくありませんか?」
私は続けてレシピを出す。にっこり笑うと二人の頬が引き攣った。
「試作品もありますよ。どうぞ」
リュックからレモンとオレンジ、ベリー味の瓶を一本ずつ取り出す。
味見をしたギルド長が頭を抱えた。駄目か?と思ったが、
「契約をお願い致します。」
そう言った。
「頭を抱えて言うセリフではありませんよ?味に問題があるなら遠慮せずおっしゃってくださいませ」
「リオ様、味に問題があるのではございません。ギルド長は美味しく体力回復剤が飲める日が来るとは思っていなかっただけでございます」
担当者が苦笑しながら説明する。
「まぁ、ギルド長ったら大袈裟ですわ」
甘みを抑えた体力回復剤と味違いの体力回復剤の契約をすすめる。
「レモン味はシノノメ領で販売しているようですけど、問題ありませんか?」
「レモン味に関してはギルド間で確認してからの販売になりますが、契約はすすめます。」
金額や個人調合に関しての注意点、三種以外の味違いの調合に成功した場合などの追加金額についての話し合いをし、
「以上に問題がなければこちらに署名をお願い致します」
契約書類の内容を再度互いに確認し、署名する。
ギルドカードに入金をする。その際に担当者が魔道具の表示を私に見せた。入金が完了したことを確認するためだ。
魔道具すごい。
「では契約は完了ですね。これでわたくしは失礼致します」
席を立とうとすると、ギルド長が
「リオ様!あのお礼を受け取っていただきたいのです」
引き止める。
「ギルドとしての謝礼を個人で受け取ることができないのは知っています。ですから、これは個人的なお礼でございます」
「金品は受け取りません。」
断った私にギルド長が粘る。
「で、ですが!」
「ギルド長を罷免されるかも知れないのですから、財産は必要ですよ?わたくしとしては、このままギルド長でいていただきたいですけど。」
「リオ様」
ミランダが巻き上げましょうとしれっとした顔で言う。
「ミランダ。わたくしとしてはこの先ギルド長にお願いしやすいよう負い目をもたせたほうが」
「リオ様、本人を前に言うことではありません」
契約担当者は笑いを堪えていた。肩が震えている。
ギルド長は項垂れ元気がない。
「お願いとはどう言った内容でしょう」
「収穫祭の警備問題でミランダに迷惑をかけるなとか?」
「申し訳ありませんでした」
去年のことを思い出したのかギルド長が胃を押さえる。
「わたくしが支援している転移者の方々が冒険者ギルドの仕事体験をしてみたいと言ったら受け入れてくれますか?」
「……それでよろしいのですか?」
ギルド長は唖然とした表情で確認する。
「ええ。」
「かしこまりました。その時は是非お力になりましょう」
「宜しくお願いします」
私達は席を立ちギルドを後にする。
クロムの外に出て、久しぶりに訓練をする。
走って、素振りをして、打ち合う。そして、騎乗した状態で武器を振るう訓練をした。
「はぁはぁ、ありがとうございました。」
肩で息をする私にミランダが考え込む。
「リオ様の訓練の時間が殆ど取れていませんが、よく動けていると思います。訓練の時間もとれるよう調整致します」
「近くで身体を動かせる場所があれば、あ、ミランダ。果樹林はどうですか?」
「…旦那様に確認しておきます。」
私のセリフにミランダは若干眉を動かしたが何も言わなかった。駄目だったのだろうか。
お昼を食べてからクロムに戻り、そして屋敷に帰る前にウォルター工房へ寄る。
「いらっしゃいませ」
ドアを開けたカランという音にカウツが顔を上げる。
その顔は切羽詰まった表情をしていた。
店内にはたくさんの冒険者とみられる客がいて、棚の前で思い思いの武器を手に取っている。
「うわ、人がいっぱいです」
「久しぶりの光景です。」
カウツは一人で忙しそうに会計も接客もこなしている。
「忙しそうですね、また今度にしましょうか。」
カウツと目が合うも、軽く手を振って店を出る。
ついでにマサアキの工房にも顔を出すが、こちらも忙しくしていた。一人で切り盛りしている。
工房の営業時間を短くして対応しているようで、最後の男性客が店を出ると
「リオ様、お久しぶりです。」
やっと挨拶が出来るようになった。
「忙しそうですね。お邪魔してごめんなさい。」
「いいえ。楽しく仕事をしています。」
「不便はないかしら?人を雇ってもいいのではないかしら」
「お気遣いありがとうございます、考えてみます。あの今日は」
「あ、顔を見にきただけなの。忙しいのにごめんなさい、お仕事じゃなくて」
「いえ、ありがとうございます。」
マサアキに挨拶をして工房を出た。周りの工房からも金属音が聞こえてくる。あちこちで人が忙しなく動いている。
「なんだかんだとイザベラに工房案内してもらってないです。」
職人工房へは何度か足を運んでいるが、全てマサアキとウォルター工房のみに用だ。
「ふ、リオ様。ではこちらへ」
ミランダに連れられたどり着いた場所は、ボルガ工房、イザベラの家だった。
「いらっしゃい、ませ」
工房に入るとカウンターにいたイザベラと目が合った。
「リオ様、っ、え?!」
「休みの日にごめんなさい。お家のお手伝い?」
「はい。父が腰を痛めて動けないので休みの日は手伝いをしています」
「それは大変ね。お父様には無理ない程度に動くと治りは早いですよってお伝えください」
「ありがとうございます。それでリオ様は何故ここに」
「私が連れてきました。イザベラとの工房巡りが出来てないとしょんぼりされていたので」
なんか子供みたいで恥ずかしい。
「ミランダ、大袈裟です」
「リオ様よろしければ店内をご覧になってください。武器などはありませんが、日用の金物を扱っておりますので」
「ありがとう、イザベラ。」
棚に並べられた道具類をみていく。その中にここでは初めてみる道具が目にはいった。紐を引っ張って野菜を微塵切りにするアレだ。
「これは、」
「あ、それは父が母の不器用さに同情して作った微塵切りをする調理器具です」
「へぇ」
イザベラが他にも父が母の為に作った調理器具を紹介してくれた。魔道具より手軽な値段で結構な人気作だという。
2024年1月〜3月は月〜金で投稿します。




