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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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召喚15

彼は、リリアナの側近の中でも異質だった。クラリスは気にしていなかったのかもしれないが、リリアナが何故彼を側近にしているのか不思議なくらいだ。

リリアナの側近がお茶会に同席したのは、過去二度ある。新しい布を鑑賞する際に紹介された。その時の一人が彼だ。他の三人は、リリアナと同じように自分の仕事に誇りを持っているように感じられた。だが、彼からは何も伝わってこない。熱意も興味も。

「報告書には、リリアナ様に心酔する狂信者のような印象と書かれていますが。恐らく演技だと思います」

報告書にある調書の様子や内容は、彼を知っている人からしたら違和感しかないと思う。

「養父上、私は彼と同じ講座を受講していたので彼のことは多少知っています。とても効率的で利率の高い術式を組み、完成した術式に一切の未練のない方です」

「それは、確かに変ですね。グラッドが認めるほどの術式を組めて、しかも術式に執着しないなら、こんな感情的で幼稚な供述はしないでしょう」

グラッドの意見にミレニアが同意する。術式構築分野で名のある方とミランダに聞いていたが、術式構築の癖で性格まで分かるとは思わなかった。

「なるほどね、では魔法省にはもっと良く裏どりしてから報告書提出しろと突き返しておこう」

笑いながら言う台詞ではないだろうと思ったが、フレッドのミレニアを見る目がうっとりとしていたから、言葉を飲み込む。

なんだろう、みてはいけないものをみたような気持ち。あ、あれに似てる。兄貴のデート現場に鉢合わせた時のあのなんともいえない感じ。

「リオさんはこれからリリアナ様がどう動くと思いますか?」

グラッドが話を進める。フレッドのことは取り敢えず無視するらしい。いつものことだから。

「そうですね。えっと、グラッドに会いに行くと思います。学園に戻るんですよね。」

「ええ、明後日戻ります」

「グラッドならどうしますか」

「事が大きくなり過ぎているので、収まるまで静観します。後は、印象操作でしょうか。加害者寄りにならないように調整の必要を感じます」

私達の会話に「グラッドの成長を実感するね」とフレッドが微笑む。

「私なら事が大きくなった時点で、手をひくんだけど。ミレニアはどう思う?」

「クラリスに会いに行きます」

「…それは考えたことなかったよ。でもそうだね。それで溜飲が下がるかな」

「いえ、クラリスが本当に正反対の何かと入れ替わったのかを確認するために、会いに行くと思います」

部屋の空気が緊張で張り付いた。口が急速に乾いていく。息苦しくなる。

それは、

「養母上。それでは、これは…」

グラッドも言葉を失う。ミレニアは淡々と続けた。

「入れ替わり召喚を疑われないギリギリのラインの術式を組んだのではないかと推察しました。不運にも発動したという印象を植えつけたかった。術式を見た時から少し気になっていた箇所があり、その答えをグラッドが持ってきました」

「私がですか?」

「効率的で利率の高い術式を組み術式に未練のない方だと言ったでしょう?あの術式には、意図的に無駄をなくしている部分と魔力の流れの効率をよくするために緩衝材の役割をはたす魔術文字が織り込まれていました。何人もの人が関わっているから術式の書き方にばらつきがあると思いましたが、もし術式構築を彼一人でしたとすれば、見えてくる事があります」

ミレニアの指先に黒い靄が集まる。そして宙に魔法陣を描き始めた。その魔法陣は、今回使われた魔法陣だった。

「この魔法陣を見て、魔法省が悪戯と言ったのは、悪戯に使う光、爆発が魔法陣の主となる部分に書かれているからです。更に、ここの対象者設定のクラリスの位置特定系の術式が細かく作り込まれています。召喚術式としては不要な細かさです。通常召喚術式は召喚要求設定を細かく設定します。だからこそ、これでは成功しないと私も含めて皆がそう思いました」

ミレニアはある一部分を指して話を続ける。

「わかりづらいと思いますが、位置特定系の術式がここの召喚要求設定とクラリスの情報を繋いでいるので、召喚要求の精度を補助しています。複数で術式を書いたなら一人一人の癖のせいで繋がってしまった位にしか見えませんが、一人で術式構築を行っていると考えると入れ替わり召喚では有効な組み方だと思います。それでも、これだけでは術式は不十分です。魔法省はリオさんが闇属性単独加護を持っているから、魔力が足りなくて精神の入れ替わりになったとみていますが、発動自体不可能です。入れ替わり召喚にするには、足りない情報が三つあります。それが、この魔法陣の上部に隙間があるのがわかりますか?あと、左右にも若干隙間がありますよね?」

確かに言われれば、あとちょっと文字が書き込めるスペースがある。

「大きな魔紙に術式を描き、十人で発動したと報告書にありました。足りない情報を別の紙に描き、この術式に乗せる。そうすると発動が可能な状態に変化します。この三箇所は召喚要求設定に繋がっているので情報が補完されます。どういったことを足したかはわかりませんが」

普通、術式構築ではこのような方法はとりませんが、術式になんの未練がないということは思い入れがないということ。発想が柔軟で術式としての美しさは考えないでしょうと続け、ミレニアが魔法陣を消す。

「発動後に誰かが、その術式を回収したということか…ミレニア、いつからこの可能性を考えていたのかな?」

フレッドがミレニアの手を握り、尋ねる。

「最初に魔法陣を見た時から違和感があったので、ずっとそればかり考えていました」

「相談してくれなかったのは?」

「術式はわたくしの専門分野なので、」

ミレニアと名前を呼ぶフレッドの声に、私は姿勢を正した。グラッドが怒っている時の声にそっくりだった。ミレニアの顔にもしまったと書いてあった。

「後でじっくり聞かせてもらおうかな。いいよね?」

「は、い」

義理の親子だけど、仕草や話し方細かい箇所が似ている。が、言葉にはしなかった。絶対後で説明を求められるヤツだからだ。

「これは、魔法省に報告しないと。こんな時に魔導局局長が不在なんてついてなかったな」

「あの、不在とは」

「魔導局は召喚課以外に騎士課があるんだが、その北部演習で局長が今王都にいないんだ。後一週間もすれば戻ってくるんだけどね」

フレッドはお茶を淹れながら、少し面白くなさそうに話す。苦手な相手なのだろうか?

「取り敢えず、この件はここまでにして。リオさんはこれから帰還準備が整うまで、何がしたいかな?」

「そうですね、初代様の事や魔道具の原理とか色々調べたい事があるので本を貸して欲しいです」

「…そうか、それはいいね。術式関係はミレニアに聞くといいし、本はたくさんあるから、好きに読むといい。ただ、他の使用人の前ではクラリスのフリをお願いしたい。頼めるかい?」

「はい。わかりました」

それからしばらく四人でお茶を楽しみ、自室へ戻った。


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