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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
14/605

召喚13

休憩中も、車内で過ごした。

天気が良く、外に出ませんかと、グラッドに誘われてたが、日差しが気になるからと車外に出ずにいた。ミランダも、日傘を失念していたようで車内にいることを了承してくれた。

クラリスは日傘なんて使わないから、忘れるのも仕方ないと思う。

王都郊外の自然豊かな場所だった。夏の終わりだからか、結構涼しい。移動術式の前に休憩するのは、馬の調子を整えるためだとグラッドが言っていた。馬は繊細な動物で、術式使用前後で短時間でも休憩が必要だと言う。

窓を開けて、自然の風を感じながら、目を閉じる。

すると、大きめのバッタが顔に張りついた。

「マジか」

引き剥がして、バッタを観察する。日本にいるバッタと何処か違うのか上下左右ひっくり返し観察する。細かい違いは分からなかった。ただ大きい。オオカマキリかなと思う程だ。小学生の頃の自由研究でバッタの観察をしたことがあったから、少しは詳しいつもりだった。昔取った杵柄と思ったが残念だ。

バッタを野に放してやると、別の虫が飛んできた。これまた大きなてんとう虫だ。前髪に止まる。髪飾りみたいだなと暢気に放置していた。どうせ、とってもまた飛んでくるのだ。


『昨今の女子高生は虫を手掴みとかしないから』

『そもそも今時の女子高生は昨今とか使わないから』

と互いにツッコミ合ったことを思い出した。

千加どうしてるかな。びっくりしたよね。千加の神様も、協力してくれたのかな。私には神様は見えないけど、帰ったらちゃんとお礼しなきゃ。


「リオさん、そろそろ出発するそうです、、あの、前髪に虫が」

「あ、グラッド。どうですか?髪飾りみたいじゃないですか?こんな大きなてんとう虫初めて見ましたよ」

困惑するグラッドを尻目にてんとう虫を鷲掴み外に逃がす。

気を抜き過ぎた。おほんと咳払いする。

窓を閉めて、座り直す。グラッドも席に着いた。

「虫、平気なんですね。」

「はい、グラッドは苦手ですか?」

「いえ、苦手ではありませんが。女性は苦手な方が多いと思っていました」

「友達にも似たような事言われましたよ。危険生物もいるから気をつけないといけないんですけど、つい手が先に出るんですよ」

意外と行動力あるよねと言われたことも思い出した。

「友達、以前にも伺った話にでてきた方ですか?確か、チカさん?」

「えぇ、千加は虫が好きではないので、よく私を盾にしてました。彼女の家は結構自然に囲まれているので、苦手なのが不思議なんですけど」

馬車が動いた。少し進んで、また止まる。

「リオさん、これから移動術式でサイス領まで移動します。今日は馬の調子が悪いようですので、あちらで新しい馬と交代する事にしました。」

心の中でひっそりと謝る。申し訳ない気持ちで一杯です。馬さん、よく頑張ったよ。ありがとう。

窓の外へ目を向ける。馬車の周りが光のベールで覆われる。一瞬、強く光る。その光が消えると、周りの風景ががらりと変わった。

まず、生えて植物の種類が違うのが目に入ってきた。サイス領は王国の南西部に位置する。気候は温暖で、冬でも寒くならない。日本の南の地域で見られる植物に似ていた。私が窓の外を観察している間に、近くにある村から馬を借りてきたようだ。やっぱり、馬がそわそわしている。それでもなんとか移動を開始した。

御者側を確認する小窓から御者が首を傾げているのが見えて、申し訳ない気持ちになる。

車中ではグラッドを先生役に応用術式についての質疑応答をしていた。

そして、ついに到着した。


サイス領首都クロム。


大きな門、滑らかな曲線美の石垣。

記憶に残る街の外観を見て、知っているはずなのに、その迫力に圧倒される。

城門を潜り中へ入る。領主邸は城ではないけど、この門の大きさは城門といって差し支えないくらい大きい。

円形に街が広がり、中心部は大きな広場になっている。円の中心部に近づくにつれ、賑わいがましていく。北門からの大通りを進む。

街の中央部には、神殿と騎士団本部、各ギルドの建物がある。が、神殿と言ってもサイス領の神殿は祈りの場というより「役所」や「学校」の印象が強い。加護の管理をした経緯で戸籍を管理し、加護にあった職業の提案をし、加護なしの方を技術者として神殿に招き、魔道具作成の講習を開く。

もちろん祈りの場も兼ねる。

建物は大きく、華美な装飾はないものの美しい彫刻が所々に施され、つい魅入ってしまう。

あ、アレっぽいんだよ。何だったっけ、あの元々行政の省庁を一つの建物にいれた、アレ。美術館になってる。…だめだ、出てこない。帰ったら調べよう。

神殿の周りを通り、南門へ向かう。南門の向こう側には貴族達の屋敷と更にその奥に領主の邸宅がある。

南門は大通りから少しだけずれた位置にある。大きさは北門と比べると大分小さい。西門や東門と同じような大きさ。何か意味があるはずだが、クラリスの記憶にはない。

「南門は領主の居住地への往来の門ですよね。東西の門と大きさに大差ないように見受けられるのですが、何か意味がありますか?」

窓から離れ、グラッドに向き直る。

「意味、はあります。クラリスの記憶に門については何かありませんでしたか?」

歯切れが悪い。

「えぇ、特に何も」

そうですかと呟いたまま、グラッドは黙ってしまった。しばらくの沈黙の後、

「リオさん。二人が元に戻った時、リオさんが見聞きした事をクラリスも知ってしまう恐れがあるので、返答できません。」

キッパリと断られた。となると、『王家の剣』か『次期伯爵のみの情報』か。

「わかりました。では、他の質問でもいいですか?」

「私で答えられる事なら」

「あの神殿は、いつ建てられた物ですか?」

「初代様が、この地の領主になってからですので、およそ200年でしょうか」

初代サイス伯爵。名前は伝わっていない。そこがもうすでに謎だ。ただ、使用していた大鎌に因んでサイスを名乗っていたそうだ。

そうなんですねと笑うと、

「リオさん」

ああ、駄目だ。現実逃避をするように思考が脱線する。そんな私を見透かすような、表情に声に咎められている気分になる。

「……はい」

声が震える。もう、着いてしまう。クラリスの家に、着いてしまう。クラリスの両親に、会わなくてはいけない。緊張で、手が震える。グラッドの方を見られなくて俯く。

「……」

グラッドは震える私の手を取り、励ますように力を込める。その手の温かさと力強さに、次第と余計な力が抜けてくる。私の中で恥ずかしさが勝つまで、グラッドは黙って手を握っていてくれた。


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