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(ブレンダの視点)再会

 朝食を食べていると、テーブルの横の床に魔術陣が浮かび上がり、光り始めた。ケイティたちが戻ってくるんだなと身構えていると、魔術陣から現れたのはヴィットリーオとロザリアだけだった。


「ケイティはどうしたのだ?」

「……申し訳ありません」ロザリアが項垂れて事情を話してくれた。


 ゼーネハイトにアグネーゼはいなかったのだが、ケイティは置き手紙一つで、しかも一人でどこかに転移してしまったそうだ。しかも、転移させたパーヴェルホルトは約束だからと言ってどこに転移させたのかを教えてくれなかったそうだ。


「話の流れからはアグネーゼ様のところでしょう」とヴィットリーオ。しかし、アグネーゼのところに直接転移するのは危険という話になっていたはずだ。


「どうやらコルヴタールはここに来る前に、クラインヴァインと会っていたようなのです。ですから、コルヴタールが転移した先はクラインヴァインのもとであろうという話になったのです」

「なぜそう言い切れるのだ?」

「クラインヴァインが治癒魔術を得意なことはコルヴタールも良く知っているからです」


 そうだったのか。それにしても、ケイティがクラインヴァインのところに転移しても危険はないのでだろうか?


「危険がまったくないとは言いませんが、おそらく大丈夫でしょう。ケイティ様が転移できたのなら、アグネーゼ様も無事ということになりますので」


 ヴィットリーオの横で、ロザリアはガックリと項垂れている。置いていかれたことが相当にショックだったのだろう。


「私も後を追いたかったのですが、ヴィットリーオ殿が追うのは止めておけと……」

「ケイティ様がなぜお一人で向かったのかを考えれば、ここは追うべきではありません。ゼーネハイトでも申し上げましたが、ケイティ様は万一の時にロザリア殿を巻き添えにしたくないのでしょう」

「万一の時こそ護衛が必要ではありませんか」


 涙目のロザリアが可哀想になってきたので、私も口を出すことにした。


「ロザリア、ケイティが一人で行くというのなら、考えあってのことだろう。決してロザリアをないがしろにしているわけではない。すぐに戻ってくるだろうから、あまり案ずるな」

「……はい」とロザリア。あまり納得していないようだが、これ以上の慰めは意味がなさそうだ。


 二人に休むよう言って部屋に下がらせ、中断していた朝食を再開しようかと思ったら、今度は扉をノックして騎士が入ってきた。朝から忙しい日だ。「ブレンダ様、ルフィーナ殿がお越しです」


 目覚めたか!


「すぐに通してくれ」


 ルフィーナが仮食堂に入ってきた。その表情を見れば朗報であることが分かる。


「ルフィーナ、ターニャが目を覚ましたんだな?」

「はい。昨日、目を覚まされました。ターニャ様、マリアベーラ様、ヴィーシュ侯がお会いになりたいそうですので、桔梗離宮までお越しいただいてもよろしいですか?」

「マリアベーラ様?」


 ヴィーシュ侯がターニャを連れて行ったのだから、ヴィーシュ侯がいることは分かっているが、マリアベーラまで王都に来ていたとは。とにかく、ターニャの顔が見たいのですぐに行こう。


「では、離宮でお待ちしております」と言ってルフィーナは帰っていった。


「ウェンディ、すぐに出るので支度を頼む」

「はい、ブレンダ様」




 桔梗離宮に着くと、ずいぶんと騎士が多いことにまず驚かされた。二、三十名ほどはいそうだ。ヴィーシュ騎士の大半が来てしまっているのではないかと、色々な意味で心配になる。騎士たちは何やら荷造りをしていたり、馬車の支度をしている。

 建屋の入り口で出迎えてくれたのはヴィーシュ侯だ。その横にはスラッとした女性が立っている。穏やかな微笑みを浮かべている彼女が第四王妃マリアベーラに間違いない。


「マリアベーラ様、初めまして。ブレンダです」


 私が礼を執ると、マリアベーラも礼を返してくれた。


「ブレンダ様、マリアベーラです。あなたがまだ生まればかりの頃、ミアリー様に抱かれたあなたにご挨拶したことがあるのですよ」と言ってマリアベーラは笑った。優しい笑顔がターニャに似ていると思った。


「こちらへどうぞ、ブレンダ様」とヴィーシュ侯が案内してくれる。四日前は凄まじい剣幕だったが、どうやらヴィーシュ侯も落ち着いたようだ。


 案内されてターニャの寝室らしき部屋に入ると、「ブレンダ姉様、心配をお掛けしました」と、ベッドで体を起こしていたターニャが私の顔を見るなり詫び始めた。


「心配はしたけど、ターニャの責任ではないよ。目が覚めて良かった。どこか痛いところや苦しいところはないか?」私はターニャのお詫びを遮って尋ねた。

「ええ、寝ていただけですので……。それより、アグネーゼ姉様はどうなりましたか?」


 やはりアグネーゼのことが気に掛かっているのか。隠しても仕方ないので、現状分かっていることを話した。おそらくクラインヴァインのもとに転移したこと、それにケイティがアグネーゼのもとに転移したことを。


「クラインヴァインのところですか……。大丈夫なのでしょうか?」心配そうに眉をひそめるターニャ。

「どうやらクラインヴァインは治癒魔術が得意らしいから、大丈夫だと思う」

「ケイティ姉様から何か連絡はないのですか?」

「今のところからケイティからもアグネーゼからも連絡はないな」


 あまり心配はさせたくないが、嘘をついても仕方がない。


「不安かもしれないが、二人は大丈夫だと信じよう。それよりもターニャはどうするのだ?」

「どうとは?」ターニャは首を捻った。


 マリアベーラまで来ているということは、ターニャをヴィーシュに連れて帰るつもりなのではないかと思って、チラッとマリアベーラの方を見ると、優しい微笑みを浮かべていた。


「ブレンダ様」

「はい、マリアベーラ様」

「心配はいりませんよ。ターニャは王都で頑張るそうです」

「そうですか」私はホッと胸を撫で下ろした。今ターニャがヴィーシュに帰ってしまうと面倒なことになるし、なにより寂しい。


「ですが、ターニャは優しい子なのです。どうか守ってあげてくださいませ」とマリアベーラが頭を下げた。

「はい、お約束します」

「もう、お母さま、私は大丈夫ですよ」ターニャが頬を膨らませた。


 部屋が微笑ましい雰囲気で満たされた。


「ブレンダ様」ヴィーシュ侯が改まって私に言う。「私はこれから、騎士たちを連れてヴィーシュに帰ります。国王陛下によろしくお伝えください」

「そうですか、会われてはいかないのですか?」

「騎士をほとんど呼び寄せてしまったので、できるだけ早く戻りたいのです。帰りは転移魔術を使えませんので」


 ヴィーシュから王都へは転移魔術を使って騎士を送ったようだが、帰りのことまでは考えていなかったようだ。何回にも分けての転移であっても、三十人からの騎士を転移させたのならヴィーシュの魔術士たちはさぞ大変だっただろう。


 ちなみにマリアベーラはしばらく離宮に滞在するそうで、そのおかげでターニャは眠る前より遙かに元気に見えた。とりあえずは良かった。


 でも、これからどうするかを考えるのは本当に大変だ。

転移魔術には結構な魔力が必要です。

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