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(ターニャの視点)ターニャの課題への反応

 桔梗離宮に戻るとすでに日が暮れていた。夕食もそこそこに、ルフィーナと今後の対応を考える。他にヴィーシュから一緒に来た文官もいるのだけど、まずは二人である程度考えをまとめておきたい。ルフィーナは剣士だけど、論理的な考え方ができ、幼なじみということを差し引いても、私は彼女の意見を誰よりも信頼している。


「どう思いましたか、ルフィーナ?」

「そうですね、師を付けると国王陛下はおっしゃいましたが、それが誰なのかが気になりますね」

「……たぶん、ルフィーナが思い浮かべた人と同じ人を私も思い浮かべています」


 ガブリエラ・ハーマン。宮廷魔術士団の団長にして、「フィルネツィアの大魔女」と呼ばれる大魔術士だ。私の母と女学校の同期で親しい友人同士だったため、よくヴィーシュまで母をお見舞いに来ていた。五年前に北方エイナル地方を中心に大規模な内乱があった頃から宮廷魔術士団が忙しくなったようで回数は減ったが、たまに訪れるガブリエラに母はとても嬉しそうだった。そういう縁で、私もルフィーナもガブリエラには何度も会っている。


「ただ魔術を学べ、というだけではターニャ様の課題だけ苦手要素がありません。ターニャ様が苦手なガブリエラ様が師になることでしか、他の方の課題と釣り合いが取れません」

「……ガブリエラを苦手なのは、ルフィーナもでしょう」

「私は苦手ではなく嫌いなのです。次会った時にはあの忌々しい使い魔を叩き斬るつもりです」


 そういえば、ガブリエラが呼び出した精霊によく追いかけ回されていたルフィーナの姿を思い出した。


「ガブリエラ様のことはともかく、国王陛下がなぜこのような課題を出したのかを考えることが重要かもしれません」

「というと? ルフィーナには何か思い当たって?」

「まず、課題の取り組みと結果を吟味して次期王を決めるとしたことで、貴族たちの跡継ぎ争いへの介入を封じる意図があると思います」

「あくまで個人を評価するという陛下の意思表明というわけですか」

「はい。そもそも今はゼーネハイトとの戦争中です。国内で争っている場合ではないと貴族たちに示す必要もあるでしょう」


 たしかにそうだ。戦争が始まって半月あまり。終結しそうな気配はまだ無いようで、ますます国を挙げての対応が求められていきそうとルチアも言っていた。そのような時に内輪で揉めていてはどうにもならない。


「それに加えて、苦手な課題を克服させることで、子供たちの成長を願う意味もあるかもしれませんが、跡継ぎを決めるのに時間が欲しいのかもしれません。つまり国王陛下はグレイソン様をあまり評価されていないようですね」

「たしかにグレイソン兄様は才能溢れるタイプには見えませんでしたけど……」

「一度決めた継承順位を白紙にしてまで決め直すとおっしゃったのです。ターニャ様を含めた他のご姉妹のどなたかに跡継ぎになって欲しいのでしょう」

「それが私とは思えませんけど」


 だいたい陛下と会ったのは、今日も含めてわずかに二回。ほとんど会話もしていない。当然ヴィーシュの頃から情報は上がっていただろうけど、私は本当に普通の子供に過ぎない。勉強があまり好きではなく、剣や魔法にも興味はないし、大きな野望や目標もない。


「そうした素朴なところはターニャ様の良いところではありますが、これから貴族の世界で生きていくために、魔術以外にもいろいろとガブリエラ様から学べという親心かもしれませんよ」

「あのガブリエラから学ぶのだとすると、ちょっと躊躇いますね」


 ガブリエラの無茶な試練に右往左往する自分の姿が目に浮かぶ。

 もっとも、師がガブリエラであろうとなかろうと、魔術を学べというのは王命だ。やるしかない。でも、魔術とひと口でいってもかなり幅広い。どこまで学べば王命を満たせるのか分からない。


「私は剣士ですので、魔術のことはよく分かりかねます。たしかターニャ様は、マリアベーラ様から魔術の基礎を学んだのではございませんか?」

「7年も8年も前のことですもの……。さすがに覚えていませんし、学んだとは言っても極めて基礎的な実用魔術ですよ」


 魔術にはいろいろな種類がある。神々や精霊に祈ることで、その力を借りて術を行うわけだけど、お祈りの方法や必要な魔力、触媒も違えば、得られる効果もさまざまだ。

 その中で実用魔術と呼ばれるものは、灯りを点けたり、空気中から水を集めたり、ちょっとした物を転移させたり、生活や仕事の中で実用的に使える魔術の総称だ。長い歴史の中ですでに使用シーンや使い方が体系的に確立されていて、魔力が無い者でも触媒を利用して使えるようになっている。

 それに比べて神々や精霊に祈るタイプの魔術は、高度な知識と手順、そして、術者に魔力も必要となる。攻撃や防御、回復など、戦闘でも使えるような魔術もあるけど、かなり高度なため、素質や魔力があり、国から認められた者だけが、専門の魔術士養成学校で学ぶことができると決められている。


「魔術の養成学校にも行かず、わずか1年の間にどれだけのことができるようになるのか……。もし本当にガブリエラ様がターニャ様の師となるのであれば、大変な修業になりそうですね」

「……嫌なこと言わないでください」

本当は他の姉妹の対応も入れたかったのですが、長くなってしまったのでとりあえずターニャの反応です。

他の姉妹分もこの後上げます。

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