(アグネーゼの視点)ケイティとの話
昼食後、国王陛下やガブリエラもいる場で改めて旅の報告をした。ちなみに、ここでも長いことコルヴタールを席に縛り付けておくことはできないので、私の報告中はエレノアとヴィットリーオに王都を案内してもらった。
夕食はコルヴタールのためにフィルネツィアの名物をふんだんに盛り込んだ豪華なものにしてもらった。美味しい美味しい言って食べていたので満足してくれたと思う。
「では、エレノア、よろしくね」
食後ひと段落したところで、私はケイティの部屋に向かう。エレノアはコルヴタールの面倒を見るため部屋で留守番だ。それにしても、姉妹が後宮に揃っていて良かった。外に出るのに護衛なしというわけにはいかないが、後宮内なら安全だ。
「エレノアはコルヴタールのお守りですか?」一人で来た私にケイティが尋ねた。
「ええ。すっかり仲良しなのよ、あの二人」
ケイティが席を勧めてくれ、ロザリアがお茶をいれてくれた。さっそく本題に入る。
「だいたい私のほうは話をしたわけだけど、ケイティ姉上はどう思った?」
「色々驚かされましたけど、私もアグネーゼの意見におおよそ賛成ですよ」ケイティはそう言うと、国王陛下とブレンダがエーレンスでクラインヴァインから受けた提案について話してくれた。
「そう、エーレンスでそんなことがあったのね」
「ブレンダお姉さまはずいぶんと混乱していましたけど」ケイティは少し笑った。たしかに真っ直ぐなブレンダなら混乱するだろう。「私たちは、クラインヴァインが悪だと決めつけすぎていましたね」
「ほとんどの神々が天の上った後も、クラインヴァインは人間に色々と教えたりしながら仲良く暮らしていたらしいわ。どちらかと言えば、この対立を続けているのはアレクシウスの方じゃないかと思うの」
「そうかもしれませんね」
ただ、心配なのはターニャだとケイティは続ける。「ターニャはベアトリーチェが中にいますから気持ち的には反クラインヴァインでしょう。それにアレクシウスにも直接会ってしまっていますから」
「ターニャはアレクシウスにも会ったのね。それで、私がクラインヴァインに味方するんじゃないかと心配していたのね」
別にクラインヴァインに肩入れをするわけではなくて、文句があるなら直接やり合ってくれということなのだが、これまでの方針とはずいぶん違うので受け入れづらいかもしれない。
「ターニャは誰よりも平和を望んでいます。どんな理由があっても、人間を滅ぼそうとするクラインヴァインは敵なのでしょう」ケイティはお茶をひと口飲んで続けた。「ヴィーシュで大事に育てられたようですね」
「そう思うわ」
ターニャだけでなく、ヴィーシュから来た側近たちを見ていればよく分かる。みな真っ直ぐで、悪意とは無縁の者ばかりだ。
「それでどうするつもりなのです? 直接やりあってとは言っても、そのような方法があるのですか?」
ここからがケイティの部屋に来た本題だ。この先は国王陛下への報告の時も話していない。ケイティの意見が聞きたいのだ。
「ええ。コルヴタールやパーヴェルホルトが言うには、アレクシウスたちがいるのはこことは別の世界らしいのよ」
「そう言えば、ヴィットリーオもそのようなことを言っていました」
「どうやら別の世界はいくつもあるらしいわ。その一つにアレクシウスをおびき寄せて、クラインヴァインと一対一で戦わせるの」
「……そんなことができるのですか?」ケイティが首を傾げる。
「いくつか方法はあるみたいね。もっとも、クラインヴァインの協力が不可欠だけど」
「なるほど……。クラインヴァインは乗ってきますか?」
「そこは五分五分ね。どう説得するかはこれから考えるわ」
「アグネーゼが説得するつもりですか?」
「ええ、もちろんよ。ヴィットリーオを貸してもらわないとならないので、まずはターニャを説得するところから始めないといけないけどね」
クラインヴァインを説得して、さらにアレクシウスを動かすとすれば高度な作戦が必要になるが、コルヴタールとパーヴェルホルトは、謀りごとができるようなタイプではない。ヴィットリーオの賢さが必要になるはずだ。
「ケイティ姉上はどう思う?」
「そうですね」ケイティはちょっと考えて言葉を続ける。「ちょっと乱暴かもしれませんけど、直接やり合ってというのは良い考えだと思います」
「うん」
「どちらが勝っても人間には影響ないのですか?」
「アレクシウスが怒り狂って人間を滅ぼすとか言い出さない限り大丈夫と思うわ」
実際、アレクシウスがどのような性格なのかは分からない。創造主として人間に慈悲深いのかどうか。
「ターニャに話を聞いてみたいところだけど、ちょっと時間が掛かるかもしれないわね」
今日はもう遅いので、明日にでもさっそくターニャと話してみよう。
今夜は寝ることにしました。




