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(アグネーゼの視点)コルヴタールの語る真実

 ゼーネハイトに行くにあたって一番の難関はコルヴタールをどう説得するかだったが、隠さず事情を話すとすんなり協力を約束してくれた。


「クラインヴァインとケンカすることになるけどいいの?」

「いいよ。今度は私が二人を助ける番だな!」と喜んでいたので、変に小細工を弄さなくて良かったと思う。


 ゼーネハイトはネーフェのはるか北西にある。馬車ならフィルネツィアを経由して十日は掛かる。だが、空を飛べるコルヴタールのおかげで半日でゼーネハイトまで来れた。


「地図だとあの辺りね。コルちゃん、あの辺に降ろしてくれる?」私は少し開けた丘の辺りを指差した。

「分かった!」


 丘に降り立つと、エレノアがホッとしたように息をついた。ずっと目は瞑っていたようだけど、空を飛ぶのも二回目ともなると多少は慣れたのかもしれない。


「ここが村だったのかしら? 形跡がほとんどないわね」私は辺りを見渡した。石ころは点在しているが、建物や道の跡もなく、ただの草原、普通の丘にしか見えない。


「本当にここなのですか?」エレノアも周囲を窺いながら疑問に思っているようだ。尋ねてみようにも、周りには人影もない。


 だが、ネーフェでもらった地図によればここで間違いないし、ネーフェ王から聞いた話とも符合する。

 ネーフェ王の話によれば、村が一つ消えたのは二ヶ月ほど前。サスカヒル村という、小高い丘にある村だったという。たしかにここは丘だ。


「どう、コルちゃん? 魔力か何か感じない?」二人を抱えて飛んできて疲れたのか、草地に寝転んでいるコルヴタールに私は聞いた。

「うーん?」コルヴタールは体を起こして周りを見回した。「とくには感じないな」

「そう」


 勢いでゼーネハイトまで来てしまったけど、コルヴタールでも魔力を感じられないなら、来た意味はなかったかもしれない。ちょっと後悔し始めた。


「ここにいても仕方ありませんので、近くの町に行きましょうか? そこなら何か分かるかもしれません」エレノアが地図を見ながら言った。「少し北にグララーノという町があるようですよ」

「よし、行こう!」すでに丘に飽きていたらしいコルヴタールが有無を言わさず私とエレノアの腕を取ると、グララーノに向けて飛び立った。




 グララーノは町というには小さな規模で、教会を中心に放射状に数十軒の家が立ち並んでいる。町に入るにもとくに検問もなく、のどかな田舎の村という雰囲気だ。


「小さな町ね。宿はあるかしら?」私はちょっと心配になった。

「聞いてきます」エレノアが走っていった。


 エレノアが町の人に聞いたところによると、宿は一軒だけあるとのことで、まずは宿を取って腹ごしらえすることにした。

 こんな小さな町でも訪れる人はいるようで、宿は最後の一部屋だった。部屋が取れて良かった。部屋に荷物を置いて、宿の目の前にある小さなレストランに入った。


「とりあえず何か食べましょう。お腹が空いたわ」朝一番でベルタからゼーネハイトまで飛んできたのだ。朝は食べたものの、すでに日が暮れかけているだけに、さすがに空腹だ。


「お待たせいたしました」適当にこの辺りの名物料理を出してもらうと、コルヴタールがすごい勢いで食べ始めたので、私とエレノアも負けずに食べる。

 テーブルを埋めるほど出ていた料理をあっという間に食べ尽くすと、店員が目を丸くして驚いていた。


「店員さん、ちょっと聞きたいことがあるのだけど」驚いている店員に声を掛けた。「消えたサスカヒル村のことなんだけど」

「あぁ、お客様。サスカヒル村について話すことは禁じられているのです」

「禁じられている?」

「はい。何も話さないようにと、城からお触れが出ています」

「ということは、他の人に聞いても無駄ってことね?」

「はい。それどころか、あまり聞きまわると城から役人が来かねません。止めておいた方がよろしいですよ」これ以上聞くなという忠告に聞こえるが、これは店員なりの親切なのだろう。

 これではここで聞けることはないだろうし、役人を呼ばれても面倒なので、聞くのは止めておくことにした。


 宿の部屋に戻り、これからのことを考える。村が消えたと聞いて、悪魔の仕業かと疑ってここまで来た。だが、村があったはずの場所には悪魔の痕跡は無かった。国ぐるみで何かを隠しているようだけど、それが悪魔関係なのかどうかも分からない。悪魔に関する話でなければ、今追うべきことではないだろう。


「エレノアはどう思う?」

「そうですね、悪魔が関係しそうにないのであれば、いったんフィルネツィアに戻った方が良いかもしれません。国王陛下とブレンダ様がご不在でしょうし、アグネーゼ様は王都にいる方が良いかと」

「そうね」


 国王陛下とブレンダはエーレンス王の葬儀に行っているはずだ。ケイティがいれば問題はないと思うけど、私も王都にいた方がいいだろう。問題はコルヴタールだ


「ねぇ、コルちゃんはこれからどうしたい?」

「ヴィットリーオに会いたいな。あいつは面白いことをたくさん知ってるんだ」

「そうなの?」冷静で落ち着いたヴィットリーオしか見たことがない私には、何かを楽しむヴィットリーオが想像できない。

「うん。前はたくさん遊んだぞ。人間に混じって遊ぶのが面白かったな」


 たしかヴィットリーオも同じようなことを言っていた。そのくらいの遊びなら平和で結構だ。


「じゃあ、一緒にフィルネツィアに行こうか」

「うん! そうしよう!」


 とりあえずの予定が決まったところで、コルヴタールに色々聞いておきたいことがある。私は姿勢を正して、コルヴタールと向かい合った。


「コルちゃんはあの剣に封印される前、クラインヴァインと一緒に人間を滅ぼそうとしていたの?」

「うーん、滅ぼそうと思ってたわけではないんだけど」コルヴタールはちょっと頭をかいて話を続ける。「結果的には人間たちと戦うことになっちゃったって感じかな?」

「結果的には? じゃあ、最初からそのつもりではなかったの?」

「うん。どちらかと言えば、身を守るために戦い始めたんだよ」


 これまでの話では、クラインヴァインが人間を滅ぼそうとしたとしか聞いていない。それに、王都に幼女姿で現れたときも、ダヌシュで会ったときにもクラインヴァインは人間を滅ぼすと間違いなく言っていた。身を守るとはどういうことなのだろう?


「どういうこと? クラインヴァインはただ人間を滅ぼしたいんじゃないの?」

「まさか」コルヴタールはちょっと驚いた顔をした。「そんなことないよ。何もないのに戦ったりしないよ」

「じゃあどうして? 身を守るって何から?」

「うーん、長い話になるんだよね」と言ってコルヴタールは話始めた。


 もともと地上にいた者たち、私たち人間はそれを神と呼んでいるが、彼らが天に上ったとき、コルヴタールやヴィットリーオ、クラインヴァインたち五人は地上に残った。その残った五人を悪魔と呼んでいるわけだけど、五人の悪魔は地上に残って別に悪さを働いてわけではなく、それまでと同様に平和に暮らしていた。

 人間が増えてくると、その中に混じったりもして、危害を加えるようなことはしなかった。それどころか、とくにクラインヴァインは人間たちを良い方向に導こうとして、色々と助けたり、教えたりしていたらしい。

 だが、天に上った神々にはそれが気に食わなかったようだ。とくに、地上にいた頃からクラインヴァインと不仲だったアレクシウスという神はことごとく邪魔をしてきたらしい。

 人間が増え、その生活レベルが上がってきた頃には、もうクラインヴァインはあまり人間と関わらなくなっていたそうだ。神々と争うのは馬鹿らしいし、人間と揉めるのも本意ではないと。

 でもアレクシウスは妨害をやめず、ついには人間に彼らを悪魔と名付けさせ、悪魔を倒すよう扇動し始めた。さらに人間に悪魔を封じる力を与えた。それがベアトリーチェのことらしい。ついには悪魔たちも戦うしかなくなった、というのがコルヴタールによる説明だ。


「そんなことがあったとは思ってもいなかったわ」単に人間の敵と思い込んでいた。「じゃあ、クラインヴァインからすれば、身を守るために仕方のないことだったの? でも、封印が解けてなお今になっても人間を滅ぼそうというのはなぜ?」

「それは」コルヴタールは私の目をじっと見て話を続ける。「まだ終わってないことが分かったからじゃないかな?」

「終わってない?」

「うん。だって、あーちゃんの目にはアレクシウスの加護が掛かってるよ。えーたんにはないみたいだけど」

「私の目に?」そんな自覚は無かった。どういうことだろう?

「よく分からないけど、アレクシウスはまだ人間に干渉してるんだと思う。で、その目的はやっぱり私たちなんだろうと思う。くーちゃんもそう思ってるんじゃないかな」


 そのアレクシウスという神がまた彼女たちを封印しようとしているのか。ちょっと頭が混乱しているが、ベアトリーチェ絡みの一件がそこに繋がっているような予感がした。


「簡単に善悪を付けて良い話ではないのかもね」私がそう呟くと、エレノアも頷いた。


 あれ? ということは、ヴィットリーオはその辺の話を分かっている上で私たちに協力しているのだろうか。それにベアトリーチェはこのあたりの事情を知っているのだろうか。よく分からなくなってきた。とにかく王都に帰って、何が真実なのか頭を整理しなくてはなるまい。相談するならケイティだろうか?

今まで思っていたのと話が違ってきてアグネーゼはちょっと混乱しています。

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