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(ターニャの視点)お引っ越し

 しばらくの間は後宮で生活するよう言われたので、急いで荷物をまとめて離宮から移ってきた。エヴェリーナの件があった際にも一時後宮で暮らしたし、暮らすこと自体は問題ないんだけど、三十名ほどいる側近も一緒なので引っ越しがひと苦労だ。


「ターニャお嬢様は座っていてください」とルチアから暗に邪魔ですと言われたので、ぼんやりと窓から後宮の内庭を眺めていた。荷物の運び込みや整理はまだしばらく続きそうな雰囲気だ。


「離宮の部屋と同じ配置にしますね」ルフィーナが忙しそうに運び込んだ荷物を整理している。


 しばらくはここで暮らすことになる。クラインヴァインの件が片付けば離宮に戻れるんだろうけど、いつになることやら。


「第一王子の即位と婚姻の儀は、そう遠い日ではないと思いますよ」とルフィーナは言っていた。おそらくエーレンスの喪が明ける百日後には行われるだろうとのことだ。


「喪が百日って長くないですか?」

「エーレンスではそういう習慣らしいので仕方ありません」


 つまり、少なくとも百日くらいはここで暮らさないとならないわけだ。百日も経ったら夏の休暇期間に入ってしまうけど、ヴィーシュに帰る予定はどうなるのだろうか?


「ほとんど片付きましたので、昼食にしましょう」ルチアが部屋に入ってきながら言った。「こちらの部屋も大丈夫そうですね」

「ええ、おおかた片付きました」とルフィーナ。


 後宮の食堂に移動しての食事だ。姉妹皆で……なら良かったのだが、ブレンダは今朝ほど国王陛下とともにエーレンスに行ってしまったし、アグネーゼはネーフェからまだ戻らないし、ケイティはちょっと遠い村に祈りに行ってしまった。つまり私一人である。


「別に一人でも良いのですけど、本来なら四人なのにと考えるとちょっと寂しいですね」

「アグネーゼ様はそろそろお戻りになっても良いのではありませんか」私に給仕をしてくれながらルフィーナが言った。「何か返事はあったのでしょうか?」

「どうなのでしょう? ブレンダ姉様が使いを出したと言ってましたけど、追い付いたのかどうかは聞いていませんね」

「後でブレンダ様の文官にでも聞いてみます」


 昼食の後も皆は片付けに追われている。働いてないのは私だけだと、ちょっと後ろめたくも感じていると、ふと気付いた。ヴィットリーオがいないではないか。


「ルフィーナ、ヴィットリーオはどうしたのですか?」

「ちょっと用事があると言って、朝方出掛けていきましたよ」手を動かしながらルフィーナが答えた。

「……最近、よくいなくなりますよね」

「そう言えばそうですね。お気に掛かるなら、何をしているのか聞いてみてはいかがですか?」

「そうですね。そうしましょう」


 その後も、ぼんやりしたり、片付けを手伝ってかえって邪魔になったりしながら過ごしていると、ルチアが部屋にやってきて私に言った。


「ターニャお嬢様、王宮からすぐに来て欲しいと使いが来ました」

「私にですか? なんでしょう?」


 ルフィーナと一緒に王宮まで行くと、文官らしき人たちが集まっていた。何度か王宮で見たことがあるだけだが、国政を担っている文官たちだと思う。

 私が来たことに気付いた文官の一人が、私に礼を執ってから一通の手紙を差し出した。


「ターニャ王女殿下、ネーフェ王からのお手紙です」

「私にですか? 国王陛下宛ではなく?」

「国王陛下もしくは王女殿下宛となっております」


 そんな曖昧な宛先があるだろうかと思いながらも、手紙を受け取り、開封して中身を見る。手紙は二通入っているようだ。


「一通はネーフェ王からフィルネツィア王への親書ですね。こちらは国王陛下に渡してください」私は親書にざっと目を通して文官に渡した。「もう一通はアグネーゼ姉様からですね」


 アグネーゼからの手紙を読んで、私は気が遠くなりかけた。三人目の悪魔であるコルヴタールと一緒にいること、そしてこの後そのままゼーネハイトに向かうことが書かれていた。コルヴタール? それにゼーネハイトに行くって!


「ルフィーナ、ちょっとこれを見てください」文官たちには見せられない内容なので部屋を変えて、手紙をルフィーナに見せる。「いったいアグネーゼ姉様は何を……」


 ルフィーナも手紙を読むとちょっと頭を抱えた。「国王陛下にすぐにご連絡を、と言いたいところですが、エーレンスに手紙を送るのは危険ですね」

 手紙だけを魔術で転移させれば、すぐに送ることはできる。ただエーレンスに送るとなると、何か間違いがあって手紙がクラインヴァインに渡っては困る。


「そうですね」私は頷いた。

「とりあえす、フルブロン村にいるケイティ様に文を出しましょう」

「そうしましょう。すぐに相談したいです」


 ケイティがいるフルブロン村は王都から馬車で一日ほどの村だ。急げば明日戻れるだろう。


「コルヴタール……。どのような悪魔なんでしょうね?」

「一緒にいるとしか書かれていませんね。たしか、女性の悪魔ですね」記憶を辿りながらルフィーナが言った。たしかに以前ヴィットリーオがそんなことを言っていたような気がする。


「一緒にいるということは、仲間になってくれたんでしょうか?」

「どうでしょう? あまり期待しない方が良いとは思います。とりあえずアグネーゼ様に危険がないなら良いのですが」

「……そうですね」


 とはいえ、ゼーネハイトに行くと書かれているのだ。戦争は終わって和睦も済んでいるものの、大丈夫なのだろうか?


「ゼーネハイトがどのような状態なのか分かりません。とくに、フィルネツィアへの感情がどうなっているのかが気掛かりです」ルフィーナが眉をひそめた。戦争を仕掛けてきたのはゼーネハイトの方だが、大きな被害を受けたのもゼーネハイトの方だ。フィルネツィアへの感情は良いものではないだろうとルフィーナは言った。


「ゼーネハイト軍を殲滅したのはエヴェリーナですが、あちらからすればフィルネツィアにやられたも同然でしょう」

「そうでしょうね……。そんな国に行って、アグネーゼ姉様は大丈夫なのかしら?」

「エレノア殿もいますし大丈夫と思いたいですが、コルヴタールがどういう立場で一緒なのか分からないと不安ですね」


 ヴィットリーオのように協力してくれているのであれば、何か危険があっても問題ないだろうが、そうでなければ不安すぎる。


「とにかく、ケイティ様が戻られたら相談いたしましょう」


 後宮に戻り、フルブロン村のケイティへの手紙を転移魔術で送った。これくらいの魔術なら私でもできる。ずいぶん出来る子になってきたな私。

 すぐに返信が届き、明日の朝までには戻ると書かれていたのでホッとした。明日ケイティと話してどうするかを考えよう。

人間を転移させる魔術は難しいのですが、手紙くらいなら普通の魔術士でも可能です。


次話は3連休明けの予定です。

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