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(アグネーゼの視点)飛んでベルタ

「いやっほおおおおおお!」

「高いいいいい! 降ろして下さいいいい!」


 エレノアが泣き叫んでるのも構わず、コルヴタールは私とエレノアの腕を掴んで、嬉しそうに飛び続けている。下を見ると人が豆粒のように小さい。二人も持ち上げて、これだけ高く、そして速く飛ぶなんて、尋常ではない魔術だ。


「コルちゃん! 町中に降りてはダメよ! ちょっと離れたところに降ろして!」

「分かった!」


 ベルタの町が見えてきたところで私はコルヴタールに降りるように頼んだ。飛び立つ時と同様にフワッと私たち二人を地面に降ろしてくれた。エレノアは地べたに尻もちをついてエグエグ泣いている。よっぽど怖かったのだろう。


「あれがベルタよ、コルちゃん。この国で一番大きな町なの」降り立った丘から見える町を指差して私は言った。

「大きなテントが見えたな! あれがサーカスかな?」

「おそらくね」


 ベルタのサーカス団は近隣諸国にも有名で、観光客も多く訪れると昔聞いた。まだやっていて良かった。


「えーたん、大丈夫か?」コルヴタールがまだ泣き続けているエレノアの顔を覗き込みながら尋ねた。

「大丈夫です。ちょっと高いところが苦手なもので」涙を拭くとフラフラと立ち上がった。「怖かったですけど、早く着いて良かったです。ありがとう、コルちゃん」

「どういたしまして!」満面の笑みのコルヴタール。


 ダヌシェで一泊した翌朝、乗り合い馬車に乗ろうとしたら、「馬車でノロノロ行くのは嫌だ、早くサーカスが見たい」とコルヴタールが言い出し、有無を言わさず私とエレノアを掴んで空に飛び上がったのだ。

 その様子を見たダヌシェの人はさぞ驚いただろうが、それはともかく、空を飛んで移動したことで、ほんの数刻でベルタに着いた。馬車なら二日の道のりなので、大変な時間短縮だ。


「宿を取ったら、すぐにサーカスに行きましょう」町に向かって歩きながら私はコルヴタールに言った。

「うん!」


 門で誰何されることもなく、無事町に入ることができた。門からまっすぐメインストリートが伸び、先の方に城が見える。あれがネーフェ王の居城だろう。本当は早く城に行きたいけど、先に宿とサーカスだ。


「三人一部屋で宿泊お願いします」


 ストリートで一番立派なそうな宿に入り、エレノアが受け付けを済ました。部屋で一休みしたいところだが、コルヴタールが待ちきれないだろうから早速サーカスに行くことにする。


「エレノア大丈夫? 部屋で休んでいてもいいのよ?」

「そんなわけにはいきません。一緒に行きます」まだ少しふらつきながらもエレノアも一緒に宿を出た。

 サーカスは町の広場でやっていると宿の人に聞いて、そちらに向かうと、徐々にサーカスのテントが大きく見えてきた。


「でっかいな!」


 広場に着くと、コルヴタールが目を丸くして驚いていたが、私もエレノアも負けず劣らず驚いた。サーカスのテントは思っていた以上に大きく、たしかにこれは評判になるのも頷ける。

 テント前の広場では、ピエロが玉に乗ったり、ジャグリングをしたりして、多くの観衆を集めている。


「わーい」と嬉しそうにコルヴタールも観衆の輪に加わって、ピエロの芸を嬉しそうに見物し始めた。本当に無邪気な子供にしか見えない。


「すごいわねぇ」

「すごいですね。どんな練習をしたらできるようになるんでしょうね?」


 短剣を何本もジャグリングするピエロを見ながら、私たちも感嘆の声を上げた。

 しばらく見物しているとテントの方から鐘が鳴り、次のサーカスの開演を知らせた。私たちは三人でテントに入り、前の方の席に着いた。かなりの人数が入れそうなテントだが、客席は八割方埋まっている。


「始まるよ!」身を乗り出さんばかりのコルヴタール。一瞬暗くなったかと思うと、中央にスポットライトが当たり、サーカスの団長らしき男が開演を告げた。


 そこから先は圧巻の内容だった。ピエロたちの玉乗り、綱渡り、空中ブランコなどから、ライオンや象の動物曲芸と、これでもかとばかりに驚きの演目が続いた。コルヴタールがとくに気に入っていたのは、ライオンの火の輪くぐりだ。騒ぐのも忘れて、目を丸くして見入っていた。




「すごかったな! こんなの初めてだ!」宿に戻る道すがらもコルヴタールは興奮を抑えきれないようで、私とエレノアに感想を言い続けている。

「ホントにね。フィルネツィアのみんなにも見せたいわ」


 フィルネツィアにはこのようなサーカスはない。ターニャに見せたら、きっと大喜びするだろう。


「ねぇ、コルちゃん。明日は私はちょっと用事があるので、エレノアと一緒に町を見物してくれる?」

「ん? 明日もサーカス見ていいのか?」

「ええ、もちろんよ。私も用事が済んだら合流するから」


 さすがにネーフェ王の前にコルヴタールを連れて行くわけにはいかない。かといって、コルヴタールを一人にしておくこともできないので、私が一人で城に行き、エレノアはコルヴタールに付いてもらうことにした。


「よし! えーたん、明日も朝からサーカスだよ!」

「分かりました、明日も見ましょうね」微笑ましそうにエレノアが頷いた。


 私はと言えば、明日は友好回復と情報網の件でネーフェ王から協力を取り付けなければならない。ちょっと気を引き締めないとね。


 ちなみに、後でブレンダから聞いたところによると、私たちがダヌシェから飛び立った直後に、フィルネツィアからの使者がダヌシュに着いたらしい。ちょっと遅かった。

明日もサーカスを見たいコルヴタールでした。

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