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(ケイティの視点)フィルネツィア大聖堂の思惑

 アンドロスの訃報があったため、女学校は早退することになった。校門まで迎えに来た馬車に私が乗り込むと、すでに馬車には母が乗っていた。


「ケイティ、これから聖堂まで参りますよ」

「……私も行く必要がありますか?」

「もちろんです。これからの対応をお父様と考えなくてはならないでしょう?」


 母の父、つまり私のお爺さまはフィルネツィア大聖堂の大司教だ。馬車に揺られながら、母は私に言い聞かせるように話し始める。


「よいですか、ケイティ。アンドロス殿が亡くなったということは、次期王位が白紙になったということです。貴女は第二王女ですが、そのチャンスは大いにある、とお父様は考えているようです」

「第二王子のグレイソン兄上がいらっしゃるではないですか」

「王位継承順ではそうですが、グレイソン殿はフィルネツィアを治める器ではありません。グレイソン殿が、まだくすぶり続けている北方エイナル地方を抑え、さらに、聖堂と上手く付き合えると思いますか?」

「エイナルはともかく、聖堂はお爺さま次第ではありませんか?」

「お父様は貴女こそ次期王に相応しいと考えていますよ」

「……そうですか」


 おそらく、というか間違いなく、お爺さまは別に私が次期王に相応しいとは思っていないだろう。能力や人柄とかではなく、大司教の血を引く私だから聖堂が推すというだけにすぎない。


 これを機に、さらに聖堂と教会の影響力を高めようというのですね。


 そもそもケイティの母ドナートが第三王妃として国王に嫁ぐことになったのは、聖堂の勢力拡大を王が危惧したためだ。二十年ほど前、フィルネツィア各地で凶作が続いて民の不満が高まり、それと比例して教会へすがる民の数が増大した。その結果、教会と教会を統括する聖堂の力が高まり、王政にくちばしを入れ始め、王はそれを無視できなくなった。

 王から婚姻の申し入れを受けた聖堂は大喜びで大司教の娘を嫁がせる決断をした。それがケイティの母だ。王権と聖堂の融和を目指した国王の願いもむなしく、聖堂の思惑はさらなる発言権の拡大であり、聖堂関係者はさらに思い上がった。

 そうした聖堂関係者の姿は幼いケイティの目に異常に映った。聖堂や教会の望みは民の幸せだと母は言う。しかし、それを導くべき聖堂や教会の者は権力の拡大を求めている。


 聖堂が何を考えようと勝手ですが、私には私のやりたいことがあるのです。簡単に意のままになると思っているなら大間違いです。




 程なく馬車は大聖堂に着き、母と私は大司教の部屋へと通される。部屋への廊下ですれ違う神官たちが私たちへ跪いているのが、いつものことながら違和感がある。神官が貴族のような振る舞いをするのが異様だし、なにより彼らは私たちが王族だからではなく、大司教の家族だから礼を尽くしているのだと思うと、なにか割り切れない気持ちになる。


「よく来た、我が娘ドナート、そして孫娘ケイティよ」


 オーフェルヴェーク大司教は席を立って歓迎の意を表する。六十近い年齢を感じさせないエネルギッシュな、私がもっとも苦手なタイプだ。とくに、ギラギラした目がダメだ。

 挨拶を交わし、三人は席に着く。護衛や側近も排しての話が始まった。


「二人ともある程度の状況は聞いているな。アンドロスが死んだことで、次期王位の争いが始まることとなった。聖堂および教会は当然ケイティ支持で動くことになる」

「お父様、少し気が早いのではございませんか。国王陛下が跡継ぎに関してどのような話をされるのか、まだ分かりません」

「うむ。ゆえにドナートは国王の意向を探れ。すぐにでも王宮を訪うように」

「この後、後宮へ行きますので、陛下にもお目にかかれるよう動いてみます」

「ケイティはこれまで通り、母の言うことをよく聞き、貴族どもにそそのかされぬようにな」

「……はい」


 やはり、私の意向は聞かないのですね……。国王になどなるつもりはないのですが。


 とても国王の跡継ぎが戦死したとは思えないほど、大司教の目は興奮の色をたたえている。大司教の役割は他にあるだろうに、とは言わない。


「ケイティ、そなたがもっとも気を付けるのはアグネーゼだ。第三王女で、順位はそなたよりも下だが、彼女を取り巻くネーフェの人間は侮れぬ」


 アグネーゼの母は、隣国ネーフェから輿入れしてきたネーフェ国王の妹だ。ネーフェは小国だが、昔から謀りごとに長け、長く国を保ってきた。アグネーゼの側近もほとんどが元ネーフェの者だが、聖堂からエレノアがアグネーゼの護衛として入っている。


「エレノアからの情報は少ない。警戒もされているのだろうが、もともと向こうがエレノアを護衛にと望んできたのだ。逆に誤った情報を送られる恐れもあるからその辺は慎重に見極めなければならない」

「……ブレンダ姉上やターニャはどうなのです?」

「ブレンダは気にすることもあるまい。剣以外に興味がないというのは本当のようだ。それと、ターニャはともかく、ヴィーシュ候の動向はこちらで注視する」


 おそらく、ブレンダもターニャも王になりたいとは思わないだろう。二人ともそういうタイプではない。そういう意味ではたしかにアグネーゼには、何を考えているのかよく分からないところがある。お爺さまが警戒しろと言う気持ちも分からないではない。もっとも、私は何もするつもりもないけれど。

ケイティの視点です。

母の実家が嫌いなようです。

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