(ブレンダの視点)ガブリエラ出陣
エーレンス王との会談から戻って、久々の休日はゆっくり休めるかと思ったら、朝からターニャたちがやってきて、あのエーレンスの魔術士団長がクラインヴァインだと分かり、ゆっくりしていられなくなった。
国王陛下とガブリエラとの長い話し合いの結果、エーレンス王から求められた援軍はガブリエラが率いて行くことになった。おそらくアルントとの戦いには、エーレンスの魔術士団長としてレナータ、つまりクラインヴァインも出陣するであろう。彼女がどう動くかを監視する必要があるからだ。
援軍の話を決め、とりあえずは様子を見ようと決めたところで、もう夕方になりかけていたが、またターニャが今度はアグネーゼとヴィットリーオを伴って王宮にやってきた。そして、先ほどクラインヴァインと直接会ったと報告しだした。
私はもちろん、国王陛下もガブリエラも呆然とする中で、クラインヴァインがやはり世界を滅ぼすつもりであることが分かり、エーレンスとの付き合いを根本的に考え直さねばならなくなってしまった。
「なるほど。ということは、アルントだけでなく、その後は他の隣国へも攻め込むつもりかもしれませんね」聖堂から駆け付けたケイティはアグネーゼの説明を聞くとそう予測した。
「ええ、世界中を戦乱に巻き込むつもりなのだと思うわ」
「厄介ですね」
国王陛下の顔にも苦悶の色が濃い。「あの魔術士団長がクラインヴァインと分かった時にそれなりに覚悟はしていたが、やはり世界を滅ぼすつもりなのだな」
「明確に滅ぼすと言われると、さすがにショックですね。ちょっと楽天的に考えていましたが、作戦を見直さくてはなりませんね」ガブリエラも考え込んでいる。
「現状で取り得る手はあまり多くありません」悩んでいても仕方ないので、私は話を進める。「まず、これまでの路線だった様子見ですが、これはクラインヴァインが世界を滅ぼすつもりだと分かった今、意味のない先送りです」
もはや様子を見ているだけでは、クラインヴァインに良いように進められてしまうだけだ。
「したがって、彼女の目論見を潰す、もしくは遅らせる手を打つべきです」
「そうですね。封印してしまうのが一番ですね」とケイティは私に相づちを打った。「封印できる状況を作るのが難しいですけど」
「うん。クラインヴァインを封印するには、ベアトリーチェが魔術を展開する間、動きを止める必要がある。少なくとも、ターニャ、ヴィットリーオ、ケイティ、ウェンディ、ガブリエラがその場にいることが必要だし、魔術を展開する彼女たちを護衛するために私たちも必要だ」つまり、四姉妹とその護衛たちやガブリエラが一斉にクラインヴァインと対峙する場面を作らなくてはならない。これはそう簡単なことではない。
「そうですね。皆でエーレンスに行くわけにはいきませんしね」
「そう言えば」ターニャか何かを思いついたようだ。「第一王子との婚姻の儀であれば、四姉妹揃っての出席でも不自然ではないですよね?」
「いや」私は頭を振る。「通常、王位継承権を持つ全ての者が同時に国を空けることはない。対内的にも、対外的にもおかしく映るだろう」
「ですが、そうも言っていられない状況ですよね?」
「うん。でも、クラインヴァインにこちらが何か企んでいると疑われては終わりだ。自然に揃わないといけないと思う」
「なるほど」頷くターニャ。「難しいですね。でも、このままですと、魔力を回復したベアトリーチェにクラインヴァインが気付くでしょうし、時間はそう無いのかもしれません」
そうだ。いずれクラインヴァインがベアトリーチェの気配に気付くだろうと、ヴィットリーオは言っていた。それは間近いのだろうか?
「ヴィットリーオ、クラインヴァインがベアトリーチェに気付くのはそう遠くないのか?」
「難しい質問ですね」ヴィットリーオは首を捻る。「ターニャ様の中に隠れつつ、どの程度魔力を隠せるのかも分かりませんので、今度聞いてみましょう」
「うん、お願いするわ」私は国王陛下の方に向き直り、言葉を続ける。「国王陛下、封印の準備をしつつ、クラインヴァインの企みを遅らせる方向が良いかと思いますが、いかがですか?」
「うむ。そうだな。では、援軍についてはどうする? 戦争を引き延ばす方に動くか?」
エーレンスへの援軍はもはや取り消すことはできない。私は首を振って、意見を言う。「いえ、アルントとの戦いを早く終わらせる方向で良いと思います」引き延ばすと、他の国が介入してきて、戦乱が広がる恐れがある。それではクラインヴァインの思う壺だろう。
「そうだな。ではガブリエラは全力でアルント戦を終わらせる方向で動くように」
「かしこまりました」頷くガブリエラ。
三日後、ガブリエラが騎士と魔術士、一般兵を率いて、エーレンスの援軍へ出発した。当初の予定よりも多い数の騎士と魔術士を連れていて、これなら早々にアルントを撃退できるだろう。
「うまく進むでしょうか?」
「分からぬ」王宮からガブリエラたちを見送りながら、国王陛下も心配を隠せない。「そもそもクラインヴァインが話通りの悪魔なら、我々の援軍などなくてもアルント軍を容易に撃退できるはずだ。よく分からない要素が多すぎる」
「エーレンス内では力を隠しているのでしょうか?」
「おそらくそうだろう」
うまく進んだとしてもそれがベストな選択なのか分からない状況だ。とりあえずは、援軍に出た皆の無事を祈らずにはいられなかった。
苦労の絶えないブレンダです。




