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(ターニャの視点)ベアトリーチェと私

 王都へ戻り、国王陛下への報告をどうしようかと思ったが、とりあえずブレンダとガブリエラが報告をするということなので、私たちは離宮に帰ることになった。


「ただいま帰りました、ルチア。こちらは私の側近になることになりました、名前は……」ヴィットリーオのままで良いのか一瞬悩むと、

「ヴィットです。よろしく頼みます、ルチア」とヴィットリーオはルチアに会釈する。ちなみに、いつの間にか普通の魔術士の服に着替えていた。これも魔術で出したのだろうか。

「まぁ、そうでしたか。よろしく、ヴィット。では、部屋を用意しないといけませんね」と言ってルチアは奥へ消えていった。


「突然側近だと言われてもルチアは受け入れるのね」とアグネーゼ。

「……何かありそうと察してくれたのでしょう。ルチアに相談もなく、側近が加わることなど、普通に考えればあり得ませんし」

「さすがルチアね」妙なところでアグネーゼは感心している。


 ヴィットリーオは物珍しそうに、玄関ホールを見渡している。そう言えば二千年も経ていれば、建物もずいぶんと違うのだろうな。


「建物はどうですか? ヴィット。昔とずいぶん変わっていますか?」

「うむ、さほど意匠は変わっていないが、技術はかなり向上しているな」

「分かるのですか?」

「人間世界で大工仕事をしていたこともあるからな。興味深い」


 私たちの会話を聞いていたルフィーナがヴィットリーオに注意する。「ヴィット、ターニャ様には敬語で話してください」

「あぁ、そうだったな。失礼いたしました、ターニャ様」ヴィットリーオはニヤリと笑った。




 なんだか色々ありすぎて困惑状態だが、部屋でこれからの打ち合わせをしなくてはならない。アグネーゼがいてくれて良かった。


「さて、これからの話ね。ターニャの側近をしてもらうわけだけど、側近の経験は?」

「ないな。ただ、執事のような仕事をしたことはある。似たようなものであろう?」

「うーん、まぁ、仕えるって意味では同じようなものね」頷くアグネーゼ。

「身の回りのお世話は私とルチアがしていますので、基本的には護衛と考えてもらえればいいと思います」とルフィーナが補足した。


 問題は学校だ。女学校は男子禁制で、教師も含め、全て女性だ。王族の護衛も男性は立ち入れない。


「でも学校には付いてこれませんよ?」

「うーむ」ヴィットリーオは少し考えて、言う。「まぁ、大丈夫だ。手はある。なんにしても、クラインヴァインの動向が分かるまでは、あまりターニャ様と離れるわけにはいかぬ」

「……人間の常識範囲内の方法でお願いしますね」




 夕食を摂り、部屋に戻る。考えなければならないことは色々あるけど、疲れたので早く休むことにする。ベッドに入るとすぐにウトウトして眠りに落ちた。


 私は白いモヤの中に一人で立っている。周りはよく見えないが、怖くはない。あ、これは夢だとすぐに分かった。たまに、夢の中でもこうして冷静に考えられる時がある。


 あ、誰かいる。


 モヤの向こうに人影が見える。少女のようだ。ベアトリーチェであることはすぐに分かった。


「こんにちは、いえ、こんばんはね、ターニャ」

「はじめまして、ベアトリーチェ」


 少女の周りのモヤが少し晴れて、姿が見えてくる。少女のようにしか見えない。ただ、金色の瞳を宿した目は、強い意志の力を感じさせた。


「勝手に身体を借りてごめんなさいね。あなたしかいなかったのよ」

「あなたは私のご先祖様なのですか?」

「どうかしら?」ベアトリーチェはちょっと首を傾げた。「魔導書の中にいたのでよくは分からないけど、ただターニャの魔力の色は、私によく似ているわ」

「魔力に色があるのですか?」

「ええ」


 魔力は人によって量だけでなく質も性質も異なる。その異なる性質を指して、色と言っているらしい。説明されても良く分からないのは、私が眠っているからに違いない。


「それで、もしクラインヴァインが目の前に現れたとして、何とかなるものなのですか?」私は本題を切り出す。

「ええ、側にヴィットリーオがいれば、すぐには手を出してくることはないと思う。それにターニャの中に私がいることは、すぐには分かるものではないわ」

「そうなのですか?」

「私の魔力はずいぶんと弱くなってしまっているからね。いずれは嗅ぎ付けられるとしても、彼女の目的や動きを把握できるくらいの時間はあると思うわ」

「……彼女? クラインヴァインは女性なのですか?」

「ええ、女性の悪魔。つまり、魔女と呼ぶべきかしら」


 フィルネツィアで魔女といえば、ガブリエラののことを指すが、似たような感じなのだろうか?


「まあ、悪い魔女ね。傲慢で怒りっぽくて、嫉妬深い魔女よ。ただ、ヴィットリーオと同じように、冷静でとても賢いわ」

「……それは厄介ですね」

「ええ、他の悪魔のように単純なら話は簡単なんだけど、こちらも冷静に対処しないとならないわ。それでヴィットリーオに協力を求めたのよ」


 大変、というより面倒な戦いになりそうだ。目的と動向をしっかりと把握して対処するつもりだと、ベアトリーチェは付け加えた。


「でも、大丈夫よ。あなた方に極力迷惑をかけないように解決するつもりだから。もうすでに迷惑かもしれないけど」ベアトリーチェは肩をすくめる。

「いえ、魔導書を世に出してしまったのは、不可抗力とはいえ、私にも責任があります。大したことはできませんけど、できる限り協力しますよ」

「ありがとう、ターニャ。せめてものお詫びに、ターニャが知らない魔術をいくつか教えるわ。起きたら覚えていると思うので、役立ててね」


 あぁ、それは助かります。できれば、ヴィットリーオが使っていた、机や椅子やお茶を出したり、服を替えたりする魔術をお願いします、と言おうと思ったところで目が覚めた。もう朝になっていた。

ターニャもベアトリーチェと会いました。

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