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(ブレンダの視点)重い雰囲気の戦場、イェーリング

「まさかゼーネハイトがこれほどの戦力を出してくるとは」

「傭兵も含めるとこちらの戦力を上回っているのではないか?」


 イェーリング領主の城の一室で行われている軍議はあまり盛り上がっているようには見えない。不特定の要素が多すぎて、軍議を仕切っているアンドロス兄上も苦慮している表情だ。


 無理を言って戦場まで着いてきて五日ほど経ったけど、あまり得るものは無さそうだな。


 軍議を眺めつつ、私、ブレンダ・フィルネツィアは思う。戦場なら剣技を競うこともたくさんあるだろうと思っていたのだが、実際の戦争はそういうものではなかった。

 例えば、野戦ならまず魔術士による魔術の撃ち合いから始まる。大規模な魔術は敵味方入り乱れては使えないため、陣が分かれている最初に撃ち合いになることが多い。魔術士の数や強さが双方同じなら両陣とも崩れることはないが、そんなことはないため、数が少なかったり弱かったりする方が崩れる。そうなると次は騎士の出番だ。

 だが騎士の戦いといっても、一対一で剣技を競うようなものではない。


 私の学んできた剣技はしょせん訓練みたいなものだったな。


 騎士にとって剣技が大切なことは当然だ。しかし、それ以上に大事なのは連携だ。一対一なら強い騎士でも、二人を相手にすれば分が悪い。つまり、戦場では常に数的有利を作り出すように連携して戦うことがなにより大切なのだ。周りの動きを見ながら動けなければ、どんなに優れた剣技を持っていてもすぐに囲まれて討たれてしまう。

 つまり、今回のような国対国の大規模な戦争で重要なのは、まず相手の騎士や魔術士の数と強さを知ること、そして、相手よりも有利な戦力で戦うことだ。したがって、戦う前に相手の情報を得ることがなにより必要で、当然フィルネツィアも偵察には力を入れた軍制を採っている。それにしても今回は情報が集まらなすぎるという。


「偵察の持ち帰る情報がバラバラだ。撹乱されすぎではないか」


 軍議の席の中央に座るアンドロス兄上が苦悩した表情で言う。兄上の右隣には騎士団長、左には魔術士団長が座っているが、二人とも目を閉じて考え込んでいるように見える。


「ゼーネハイトは一般兵に騎士や魔術士を紛れ込ませている、という情報もあります。すべてを把握するのはかなり難しいかと……」


 騎士団側に座っている一人がそう発言すると、また軍議の場は重苦しい雰囲気に包まれた。フィルネツィアの騎士と魔術士はすべて貴族に列せられている。一般兵に混じることはない。こちらの常識では考えられないことで、さらに出席者の口は重くなる。


「なんにしても増援を求めるしかありませんが、各地の守りも考えると、そう多くを望むことはできません」


 ようやく口を開いた騎士団長が言うように、これでもかなりの戦力をここに回しているはずだ。フィルネツィアは五年前に北方エイナル地方で内乱があり、大規模な騒乱はすぐに鎮められたのだが、その後も抑えのためにある程度の数の騎士と魔術士を常駐させなければならない状況だ。


「各領主にも支援を出させるよう、すでに国王陛下には要請を出した。数日は引き続き偵察を中心に、敵勢力の把握に努めよ」


 アンドロス兄上の言葉で軍議は解散となった。




 私は城の中に割り当てられている部屋に戻ると、護衛のウェンディに話しかける。


「無理を言って戦場まで来た挙げ句に、前線に出ることもできず、あまり意味がなかったな」

「戦場の現実をその目でご覧になれたのですから、それはそれで良かったのではないですか?」


 そう言ってウェンディはちょっと微笑んだ。ウェンディはブラウンのセミロングの髪を少し揺らしながらお茶を入れてくれる。ウェンディはとても気が付くタイプで、私が気が利かない分、彼女の気配りの素晴らしさにはよく助けられている。


「戦場を目にできる機会はあまりないからな。そういう意味では良かったけれど、剣技の参考にはならないな」

「そこは残念でしたね。エーレンスは魔術の国ですから、後宮の側近たちではブレンダ様の剣技を磨く手助けはできませんからね」


 アンドロス兄上と私の母は、もともと隣国エーレンスの姫だ。エーレンスは魔術が発達しており、騎士はもちろんいるものの、魔術士のほうが多いという珍しい国だ。したがって、フィルネツィアに輿入れした際に母が連れてきた側近は魔術士が多いし、私の側近となったウェンディもエーレンス生まれの魔術士である。


「そろそろ女学校も始まるようですので、いったん王都に戻られますか?」

「そうだな……。これ以上いても見るべきものもなさそうだし、私がいては兄上も気が散るだろう」

「アンドロス様はブレンダ様が心配なのですよ」


 心配を掛けてしまっている実感はある。アンドロス兄上は総指揮官としてイェーリングに来ている。私の心配をしている場合ではないが、優しい兄上のことだ。私がここにいれば気になってしまうのだろう。私はお茶に口を付けてから話を続ける。


「そういえば、今年はアグネーゼとターニャが女学校に入学するのだったな」

「はい。ブレンダ様はターニャ様に会われたことはありませんね?」

「あぁ、たしかヴィーシュで育ったという話だったな」

「では、ブレンダ様もいろいろと教えて差し上げなければなりませんね」

「私が教えられるのは剣くらいだが……。そうだな、あと数日様子を見て、王都に帰るとしようか」


 夜も深くなりつつあるが、窓の外にはいくつも灯りが見える。城はもちろん、陣や砦も夜を徹しての警戒を続けているからだ。

第一王女ブレンダ・フィルネツィアの登場です。

せっかく戦場に来たのにちょっと残念なブレンダでした。

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